デビュー作『忍耐の祭』の頃(『飛火野耀読本』より)

「……それはそうと、部屋代たまってるんだろ?」
「いいんだ、夜逃げあるのみさ」
「これ、取っといてくれ。家庭教師の代理をやったんだ」
 テツは、何枚かの千円札を容(いるる)に手渡そうとした。容はそのうち二枚だけとって、残りを返した。
「これだけあればいい。……そのうち、大ベストセラーを書くから、その時は金借りに来いよな」
「そうするさ」
         山科春樹『忍耐の祭』p17、「舞台の上と下で」

   ・

 飛火野耀の私生活はほとんど語られていない。
 ノベライズ版『イース』裏表紙の著者紹介でも、その言葉は断片的である。時代は前後するが、それぞれの記述を引いてみよう。

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