ベテラン着付け師に学ぶ仕事の流儀
1月9日は地元の成人式でした。
私が着付けを習っている川合美津子先生は地元の呉服屋からの信頼も厚く、いくつかの「着付け会場」を任されています。
ご自身の下で着付師資格を取ったお弟子さんをそれぞれの会場に派遣して対応していますが、それでも成人式は人手が足りず、猫の手も借りたいご様子。
先生から、アシスタントの要請があったときは、1月は本業の繁忙期でもあり迷ったのですが、猫どころか「はやしの手」まで借りたいとは相当お困りなんだろうと、諸々調整してお手伝いに馳せ参じました。
本業よりも早起きをして、真っ暗な中出勤する時はさすがに
「もうちょっと考えてお引き受けするべきだったかも・・・」
と思ったりもしましたが(苦笑)、終わってみると学びも多く、今年もお手伝いできてよかった!と思いましたので、この感動と学びを皆さんにもシェアしてみます。
着付け師と日本語教師
日本文化つながりがあるとは言え、全く違う業界のお仕事です。
入学式卒業式で着物を着たい、留学生に浴衣を着せてあげたい、日本文化紹介の時に着物を紹介したいくらいは思いますが、どちらかというと着付けは趣味の領域です。
それでも、川合先生のところに通い続けているのはきれいに着られるようになりたいという気持ち以上に、先生のところへ行くだけで、プラス思考のシャワーが浴びられて、楽しい気持ちになれるからというのもあります。
でも、今回、先生のお仕事を間近で見せていただき、改めて日本語教師として「こうありたい」という目標ができた気がします。
学びはどこに転がっているかわかりませんね。
今日はそれをまとめてみます。
人生の節目に立ち会う
お宮参り、七五三、入学式、卒業式、結婚式。
考えてみると、私たちは人生の節目に着物を着ることが多いですね。
成人式も人生の節目。
今回私がお手伝いした会場には40名ほどのお客さまがいらっしゃいました。
着付師にとって、お客様は大勢いるうちの1人であり、着付け1回は繰り返し仕事の1つです。
でも、お客様一人一人にとっては一生に一度しかない成人式の着付け体験。
親御さんにとっては20年育ててきた証のような着物の着付け。
私は案内係を仰せつかっていたので、お客様の着付け完成後に、入り口までご案内もしたのですが、お迎えに来たご家族が普段とは違うヘアメイクで振袖を着た娘さんを見た瞬間にパーっと表情が変わっていくのを見て、一人一人が「大勢の中の1人」ではなく、「誰かの大切な1人」であることを実感しました。人生に立ち会うってこういうことなのだな・・・と。
ここで、自分の仕事をふりかえってみます。
私にも関わる留学生も大勢いるので、どうしても「学生」という固まりで見てしまうことがあります。
留学生は入学式や卒業式に親御さんが出席されることも少ないので、こんなふうに「晴れの姿」を見て家族が喜ぶのをあまり見たことがありませんでした。
でも、一人一人が誰かの大切な家族であり、留学体験の1つ1つが一生に一度であることは同じはず。
私も一人一人の人生に立ち会っている!
晴れ着を着た我が子を喜ぶご家族を見て、そのことを思い出しました。
身の引き締まる思いです。
正統派の柔軟性
川合先生は大ベテランの正統派着付け師です。
そして、ブログやインスタでご自身のお仕事を発信されています。
こういう職業であの年代で(失礼!)こんなに発信されている方ってなかなかいらっしゃらないのでは?
もともと京都で学ばれ、伝統を大切にさているのに、新しいものを取り入れるバランス感覚や柔軟性もある方です。
着物をワンピース風に洋服の上から重ね着したり、ハイヒールに合わせたりする着方も提案していらっしゃいます。
今回も先生の「ドレープ着付け」の発信を見て、DMで問い合わせたというお客様がいらっしゃいました。
・・・余談ですが、成人式は本人よりもお母さんやおばあちゃんのための行事という感じで、けっこうされるがままというお嬢さんもいますが、年々着付け時に「こうしてほしい」、「ああしてほしい」とリクエストしてくれる方が増えているように感じます。
成人式という「家族の行事」にインスタを見て、自分で自分の好みを伝えるというのがとっても素敵。だんだん一人一人が自由に主張できる社会になりつつあるのかなと思いました。
そして、正統派でありながら、若者の斬新なリクエストに快く対応する(対応できると言うべき?)先生の柔軟性と技術力に脱帽でした。
今回のお客様のご希望は着物警察なら、緊急サイレンを鳴らしながら捕まえに来そうなものでしたが、川合先生はにこにこしながら、話を聞き、こうしてみる?と提案まで!
その姿はプロのオーラに溢れていました。
専門家の現場対応力
そのお客様、着物の下に黒いズボンを履きたい、でも、ズボンを見せることで長襦袢の薄ピンクが見えるのが嫌だと言って、黒いエプロンを用意されてました。
先生はそれならと袴の着付けのように長襦袢を短く着せ、持ってきたエプロンも無駄にしないで、着物からチラッと見えるように配置。
そして、「丈、このくらいでいいかしら?それとも、このくらい?」と聞き始めたのです。
成人式の着付けは時間との闘い。
次のお客様の予約時間も決まっています。
それなのに、こんな余裕があるなんて!
これって、自分の仕事にかかる時間を完全に把握してないとできないことです。
このお客様が望んでいるものを短い会話の中でつかみ、それを具現化するのに必要なものを専門知識で分析。
この方の希望で大切なのはブーツに合わせる着丈。
この着方なら帯はシンプルなほうが返って映える。
帯に時間をかけない分、着丈の相談は慎重に。
強いこだわりを持つお客様が直接目にする帯揚げや帯締めは特に相談を重ねて。
完成形から逆算して、仕事の段取りとかかる時間を把握し、ニーズに直結する部分は専門家としての提案をしながら、お客様の希望を叶えていく。
もし、これを先生がお読みになったら、「そんな難しいこと、考えとらへんわ〜」とお笑いになるかもしれませんが、これを無意識にできるからこそのプロなのだと思います。
このお客様以外にもびっくりポイントがたくさんありました。
帯がほとんど完成したところで「私、薔薇が大好きだから薔薇柄の帯を選んだんです」というお客様の言葉を聞いて、「ほんなら、帯にも薔薇作りましょうか?」とおっしゃり、作りかけた帯をほどいて、薔薇を作り始めた先生。
完成した背中の薔薇を鏡で見たお客様のとびきりの笑顔を見て、技術で人を幸せにするってこういうことなんだと納得させらました。あのにこにこ空間に居合わせられて、幸せのお裾分けを頂いた気分です。
おばあさま、お母様親子3代で受け継がれたど正統の豪華な着物と帯には伝統的な帯結び。
着物はお母さまのだけど、帯は娘さんが選んだモダンなもの・・・というお客様の帯はこの帯に合うモダンな結び方。
お母さんが娘のために作った手作り髪飾りの残りを「残すなんてもったいない」と帯にも使ったり。
一人一人の想いに寄り添うには気持ち以上に技術が必要だということを目の当たりにさせられたのでした。
誰も不快にさせないコミュニケーション技術
今回の着付け会場には新人の着付師さんもいらっしゃり、完成したら先生のチェックを受けることになっていました。
私のような素人が見ると、非の打ちどころがないように見える仕上がりでも、プロの先生から見ると改善するすべきところもあるようで、それを先生がお直しします。
お客様の前で「直しますね」なんて言ったら、きっと色々不安になったことでしょう。
新人着付師も萎縮してしまったかもしれません。
それを先生が
「可愛い着物は触りたくなっちゃうのよね。」
「みんなの手できれいにさせてくだいね。」
「今日はお嬢様だからね、おつきがたくさんいるみたいでしょう?」
と言って手直したり、
「ここの柄をもうちょっと見せるとお母さんが喜ぶから!」と手を加えたり。
ミスを指摘しているのに、誰も不快にさせず、むしろ幸せな気持ちになれるコミュニケーション術。
それから、アシスタントとしてたくさんの着付師さんのところを回ったからこそ気づいたことですが、ほとんどの着付師さんがお客様に対してタメ口、もしくは娘や自分の妹に話しかけるような口調だったのに対して、先生だけは敬語で話しかけていたのも印象的でした。
やはり一流の方ほど相手の年齢によって話し方を変えたりしないのですね。
ここで自分の話し方をふりかえると、反省することばかり…
本当に見習いたいです!
最後に
先生の
を尊敬しています。
先生のお仕事を間近で拝見し、日本語教師として私もこうありたいと思ったのですが、実はこれってどんな仕事でも通じること。
改めて、自分の目指すべき姿を考えることができました。
私にはこうありたいという人生の先輩が何人かいます。
着付師の川合美津子先生もそのお一人であると改めて思った成人式でした。
疲れすぎて、帰宅後は昼寝してしまいましたが、お手伝いできてよかったです!貴重な機会をありがとうございました!
川合先生のブログはこちら
https://ameblo.jp/mitsuko-kimono/
インスタ
https://instagram.com/kawaimitsuko3?utm_medium=copy_link
着付け教室HP
https://mitsuko-kimono.jimdofree.com/
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?