見出し画像

ガジェット系YouTuber平岡雄太さんが連発する「〜てあげる」の用法に関する一考察

こんにちは。日本語教師のはやしえみです。

連休初日に、日本語教師仲間がガジェット系Youtuber平岡雄太さんの動画を紹介し、「とてもわかりやすくていい動画だけど、<〜てあげる>と言い続けているのが気になる」とつぶやいているのを見かけました。

実は私も平岡さんの動画にはかなりお世話になっており、平岡さんの言葉遣いに同じように感じたことがあったので、私だけじゃなかったとうれしくなりました!

ただ、平岡さんはipadと対話する茶番(ごめんなさい!ご本人談です!)まで撮ってらっしゃる方ですので、

ipadを「道具」じゃなくて「相棒」として見ているんだろう

なんて(笑)解釈して、深く考えたことはありませんでした。
でも、このツイートを見て、改めてリンクしてあった動画を見直すと、思っていたよりも「〜てあげる」を頻発していますし、ところによっては「〜てもらう」を使ったり、全く補助動詞を付けない動詞も出てきて、非常に!興味をそそられました。

平岡さんが無意識に「〜てあげる」を使いたくなる文脈って何だろう?

そんな視点で動画を見ていて、自分の中で「これでは???」思える仮説を思いついたので、今日はそれについて書いてみようと思います。

あらかじめお断りしておきますが、これは私が趣味で考えたことで、学術的な根拠は一切ありません。

文献等全く当たっておらず、平岡さんの動画だけで考えた「夏休みの自由研究」ならぬ「ゴールデンウィークの自由研究」ですので、笑って読み飛ばしていただければ幸いです。

そして、そして今日は自分の思考過程を書き留めただけで、何の結論も出ていない・・・どころか、考えた仮説は間違っている可能性のほうが高い・・・という結論に至りました(苦笑)。

長いですが、日本語教師のみなさんには興味を持ってもらえるのではないかと思って、発信してみます!

「〜てあげる」の規範的用法とは?


まず、日本語教育・・・特に初級で扱う「〜てあげる」の用法を確認しておきたいと思います。

「あげる・もらう・くれる」は物のやりとりを表し「授受表現」と呼ばれます。
「あげる・もらう・くれる」は動詞ですが、このほかに

教えてあげる・買ってもらう・話してくれる

のような補助動詞もあり、これは「動作の授受」とか「行為のやりもらい」などと言われます。

そして、補助動詞の使用は日本語学習者にとってはけっこう難しく、下のような使い方をして日本語母語話者をムッとさせてしまうこともあります。

*先生が教えたから、わかりました。
(補助動詞を使ったほうがいい場面で使えていない例。「先生に教えてもらった」のほうが自然ですよね)
*社長をパーティーに招待してあげたいです。
(補助動詞を使わないほうがいい場面で使ってしまった例。これは「招待したい」とか、「来ていただきたい」とか言ってほしいですよね)

ポイントは行為のやりとりの方向と、その動作の「恩恵」です。

例1)先生に教えてもらったから、わかりました。

先生→私 (先生の「教える」という動作によって私は恩恵を受けた→その恩恵に感謝しているという表現になります)

例2)子どもにおもちゃを買ってあげた

私→子ども(私の買うという動作で、子どもに恩恵があります。)

例3)おばあさんの荷物を持ってあげた

私→おばあさん(私の荷物を持つという動作で、おばあさんに恩恵があります)

例4)*社長をパーティーに招待してあげた

この文がおかしく感じる理由は2つあります。

「〜てあげる」は行為の恩恵を受ける側がその「行為」を必要としている、欲しているという条件が必要です。

例えば、例2)では「子供がおもちゃをほしがっている」、例3)では「おばあさんは重い荷物を持てない」という条件があるのです。

例4)の文を発した人は私の「招待するという動作」で、社長はパーティーに来られるので、恩恵があると考えたのだと思いますが、上記のとおり相手がその恩恵を必要としている状況、つまり「社長がパーティーに行きたいと思っている」状況でなければ、お節介になってしまいます。

頼んでもないのに、「本を貸してあげる」と言われたら、恩着せがましく感じませんか?それは求めていないからです。

これが、相手が常日頃「行きたい!行きたい!」と言い続けていたのに何らかの理由でなかなか招待できなかったパーティーなら、「今回こそ招待してあげたい」でも、おかしくなくなります。

そして、「この相手が助けを必要としている」「相手が求めている」という意味から、「〜てあげる」は目上の人に使うと失礼に当たることが多いのです。日本社会では目上の人はあまり、目下の助けを必要としない(と思われている)からです。

詳しい説明は他を読んでいただくとして、ここで大切なのは、授受表現には動作によって「恩恵」を授受するという概念があるということです。

そう考えると、平岡さんがおっしゃる

「これをタップしてあげて〜」

は恩恵を受ける人(やもの)がそこに存在していません。
平岡さんがクリック→視聴者が恩恵??というのもおかしいので、少なくとも既存の日本語教科書で扱う使い方からは逸脱していることがわかると思います。

でも、実はこの表現って他のところでもよく聞くようになってきて、気になっていました。

そして、今回一本の動画の中で何度も何度も「〜てあげる」を使う平岡さんを観察していたら、なんだか法則らしきものが見えた気がしたので(笑)、仮説を立ててみました。

このnoteでは平岡さんがよく使う「〜てあげる」を規範用法の「〜てあげる」に対して、「〜てあげる2」としてお話ししますね。

平岡さんの発言を観察して考えた仮説

今回、平岡さんはどういう時に「〜てあげる2」を言っているかという視点で動画を何度も見てみて、下のような仮説を立ててみました(笑)。

①平岡さん系「〜てあげる2」はめんどくさそうな操作を連続して説明するときに出現し、「その操作がそれほど難しくない」、「これだけで解決する」→「とても簡単な操作だ」と言いたいときに出現している。

③「〜てあげる2」には恩恵の授受という概念から派生して、手間がかかりそうな動作について「そうでもないよ、簡単な動作だよ」という話者の主観を表すモダリティ的用法が生まれ始めている。

ってことです。

平岡さんの動画を分析

では、まず、平岡さん系「〜てあげる2」がどんな文脈の中で使われているのか、見てみましょう。
今回はこちらを分析しました。

動画冒頭で「今日紹介するテクニック」をまとめて紹介をしていますが、ここでは一度も「〜てあげる2」は出現しません。

02:40から、Quike Noteをホーム画面から開く方法について解説しています。

「まずはグッドノートのクイックノート機能なんですけども、これグッドノートを開いてもらって、新規っていうところを押してもらうとですね、この一番下にクイックノートってものがあります。」
「これはとりあえずグッドノートの表紙とか用紙とかそういったフォーマットを決めず、すぐにメモをとりたいよってときにこれを押してもらうとですね、こんな感じで新規のメモが立ち上がります。こういう機能なんですね。ここにある程度何か書き終わったら、戻ってあげるとですね、これを保存するのか削除するのかっていうのを決めることができます。」

あれれ?
「〜てあげる」に注目しているのに、「〜てもらう」が連続して出現しました!

実は平岡さんの「〜てもらう」についても考えているんですが、用例が少なくて分析できないので、今回は割愛します。

そして、ここからが本番。
同じような操作の概要説明が続き、動作のシテも、ウケテ(誰?)も変わっていないのに、突然「〜てあげる2」が使われ始めます。

特に、03:50からは圧巻です!
平岡さんがおすすめのショートカットをウィジェットにおいて使う操作の手順を紹介しているんですが、ここでびっくりするくらい「〜てあげる」が連発されています!

「作り方はめちゃめちゃ簡単です。
 まずはホーム画面に戻ってあげて、ショートカットアプリ、これを開きます。」

「これを新規で作っていく方法は、プラスボタン、これを押してあげて、ここからですね、このAPPっていうタブを移動してあげて、グッドノートファイブを見つけます。すると、一番ね、この上のところにクイックノート作成ってところがあるので、ドラッグでこっちに持っててあげますと、これで完成です。あとはこれ、完了してあげると、一番上にクイックノート作成っていうショートカットができました。これを押してあげると、すぐにグッドノートで新規のノートが開くようになります。」

ここで平岡さんが「〜てあげる」をつけている動詞は
「押す」「移動する」「持っていく」「完了する」

逆につけていない動詞は
「見つける」

これだけ見ると、手を動かしてする操作には「〜てあげる」をつけているような気がしてきます。(ここでの「移動する」「持っていく」「完了する」はタップしたり、ドラッグしたりすることです)

04:42から好きなノートをホーム画面から開く方法を説明しています。
この機能の話をした後、


「もう僕すでに、1個作ってるんですけども、こんな感じでですね、〜〜〜っていうノートがあります。
 グッドノートファイブの中の、ちょっとね、ホーム画面に戻ってもらうと、はい、これですね。」

と冒頭で「〜てもらう」を使っていますが、ここでも手順の話が連続すると、「あげる」の連発になります。

「これを押してあげると、すぐに〜」
「これの使い方もめちゃくちゃ簡単。紹介していきます。同じくショートカットアプリを立ち上げますと。で、またね、プラスボタンを押してあげて〜〜」

こんな感じで、平岡さんが「〜てあげる」を使う文を列挙していくとこうなります。

「ここから、ショートカットアプリを追加してあげて
「一度開いてあげて、ショートカットアプリのほうに行ってあげると〜」
「ここからショートカットを選んであげると」
「これを設定してあげると」
「一度グッドノートアプリのほうに入ってあげて
「一度開いてあげます
「履歴を残してあげると」

逆に「〜てあげる2」を使わないのが

「ここからショートカットアプリを探します」(この動作、手は使いませんん!というか、操作しません!)

ところが、07:07~08:40では「よく使う項目の設定」を説明していますが、先ほどに比べて、「〜てあげる」が連発されていません。

特に07:07-07:47はこの機能の解説のあと、操作の説明もしてはいますが、「星マークを打ちます」という補助動詞のないシンプルな「打つ」を使っています。

こういう分析をするときは、「使うところ」に注目するのも大切ですが、「使わないところ」に大きなヒントがあることが多いです。

その次に、ノート内の特定のページの中の項目の設定の説明のでご自身が2タップし、そのページを見たあとに

「ブックマーク、これを押してあげます。すると、よく使う項目を見てあげると、」


と言いながら、別々のところをタップしています。

このあまり使われたないところから、使われ始めるところを見ていて、ひらめきました。
これって、何タップも必要な操作だと「〜てあげる」が使いたくなるってことではないでしょうか?

08:36-09:20でも、一度も「〜てあげる」は使いませんが、09:21から「これ選んであげると〜」と使っています。

前半は機能(何ができるか)を説明していて、その後手順の説明です。

その後、また10:40から手順を解説するときにも


「これもめちゃめちゃ簡単です。ホーム画面に戻ってあげて、設定マークからノートのテンプレート 、これを押してあげて、ここに読み込むってものがありますね。」
「これ読み込んであげて〜〜」

この後も


「keepって書いてあげて戻ってあげて
「ここでkeepっていうふうに入力してあげると」
「これタップしてあげると」

ここから考えるに、平岡さんは2アクション以上の連続した手順(手を動かす操作)を言う時に「〜てあげる」を使っているようです。

このことから、「連続した操作が必要なめんどくさい手順を説明するとき」に「〜てあげる」をよく使う・・・・という結論に至りました。

他のYoutuberさんは?


では、他のYoutuberはどうなんだろうと、この動画の概要欄に貼ってあるLEO Tohyamaさんの同じグッドノート5の動画を見てみました。

なんとLEOさんはこの動画の中では一度も「〜てあげる2」を言っていませんでした….

でも、でも、LEOさんはこの動画では「連続した操作」(2回以上のタップや、スワイプ)を紹介していません。

また、LEOさんは平岡さんと違って、操作しながら説明していません。どうも、操作と解説は別撮りしているようなので、もしかしたら、操作しながら説明していると出てくるものなのかも???と新たな仮説を立て、そんなYoutuberさんを探してみることにしました。

操作しながら、わかりやすく解説しているYoutuberと言えば、amity_senseiです!
私はamity_senseiの動画にもお世話になっています。

そこで、amity_senseiのGood note5の使い方動画をみてみたのですが、なんとこちらもipad操作の解説では「〜てあげる2」を言っていませんでした。

ただ、赤入れのところで、

「ちょっと大きくしてみたいな感じで修正入れたいときは囲って、大きくしてって書いてあげる
「この段落で改行してねみたいなのだったら、ここに改行マークを入れてあげたりとか」

と言っています。これって、この「赤入れ」を見る編集者さんのためにやっているわけではないので、やっぱり「〜てあげる2」だと思います。

また、同じように再生回数の多いYMKさんのGood note5がオススメの理由3つと購入前に知っておきたい基本機能という動画もチェックしてみました。

YMKさんも平岡さんほど連発はしていないのですが、この動画の中では下のような発言が見られました。

蛍光ペンの説明のところで、


「直線で書くというモードをオンにしてあげると、嫌でも直線が書けてしまいます。もちろんオフにしてあげると、適当に書くこともできます。」

拡大ツールのところで、


「枠の中にある棒を引っ張ってあげると、書きやすい位置に調整することもできる」

あれれ?
amity_sennseiもYMKさんも「〜てあげる2」を使っていますが、連続した操作の手順の説明で言っているわけじゃありません!

うーん、どうやら私の考えた「連続した操作、手順」仮説はYoutuber全体に見られる現象ではなく、平岡さんだけのようです。

これに関してはもう少し観察が必要だとして、なぜ平岡さんは「〜てあげる」を連発するのか、そこも気になります。

ガジェットYoutuber以外が使う「〜てあげる2」

ガジェット解説Youtuber以外の「〜てあげる2」出現状況にも注目してみましょう。

そう言えば、服を買いに言った時に店員さんに

「この生地、ちょっとアイロンかけてあげるだけでいいんですよ。」

と言われたことがありました。

実はこの用法、ネット検索すると、じゃんじゃん例文が出てきます。
どうやらけっこう広がっているらしい・・・

しっかりとシャンプーを泡立てた上で、弾力のある泡できちんと洗ってあげると髪同士が摩擦せずに済むので、髪もダメージを受けずにしっかり洗えるはずですよ

この例だと「髪をきちんと洗うと、聞き手(髪の所有者)に恩恵がある」とも考えられますかね?いや、洗うのは話し手ではないから、やはり一般的な授受表現ではない・・・でも、こういう文から派生してきたと考えられるような気がしています。

では、下の例はどうでしょう?


のりスプレーを使ってあげるときれいな仕上がりが持続するのでおすすめです。

アイロンを上手にかけるコツは、シワが寄らないように、布地をきちんと伸ばして、アイロンを動かしてあげること。

温風を当てながらシワを伸ばし、仕上げに冷風をかけてあげるとシワが戻りにくくなります。

スチームを当てる際に、ちょっと後ろにミトンを当ててあげるだけで、衣服が安定して、細かな部分もパリッと美しく仕上がります。

下味をつけるイメージで軽く塩をふってあげると、野菜の甘さが引き出されて更に美味しくなりますよ。

野菜を食べやすい大きさに切って、たっぷりの水と少々の塩で、弱火でコトコト煮ましょう。ゆっくりと温めて栄養と旨みを引き出してあげれば、まろやかなスープに仕上がります。

野菜はできれば数種類用意してあげると、深みのある味になります。

どれも動作の恩恵の受け手が誰(何)なのかさっぱりわからない例です。

この例文を探していて気がつくのは、ガジェットの使用方法以外だと、家事の説明で使われることが多く、共通するのは「もう一手間」というニュアンスだと思います。(話題に関しては、私の検索方法が偏っているのかもしれませんが・・・)

やっぱり、「もう一手間はかかるけど、その手間は簡単だ」という時に使うのじゃないのかなー???どうなんでしょう。

平岡さんはなぜ「〜てあげる」を連発するのか?

「〜てあげる2」がどのような場面で使われるかについては、まだ結論は出ていませんが、平岡さんがいくつかの操作が連続する時に「〜てあげる」を連発していることから、この操作(手順)は簡単だと強調したくて、「〜てあげる」を使うのかな?と想像します。

その証拠の一つが、この話が始まる前に「めちゃめちゃ簡単」と何度も言っていることかと思います。

ただ、この説明だと、amity_senseiの「〜てあげる」は説明しきれていませんね・・・。
うーん。

この「〜てあげる2」用法、数年前から現れはじめ、けっこう聞くようになってきたので、そのうち「ら抜き」のような広がりを見せ、規範を変える影響力を持ってくるんじゃないかと思っています。

まとめ

というわけで、今回は平岡さんの「〜てあげる」連発問題について、考えてみました。
結論がなくて申し訳ありません。

ただ、この分析にあたって、平岡さんのビデオを見返し、やっぱり説明がわかりやすいな〜こういうふうに話せるようになりたいな〜と改めて思いました。

中途半端な分析結果ではありますが、これから平岡さんの「〜てあげる」が聞こえてきたら、「視聴者の心理的負担を下げて、わかりやすく説明しようとしてはるわ〜」と考えようと思います。

こんなに長い文章を読んでもらったのに、中身がなくて、すみません 笑。
ちゃんとした文献も探して、改めて考えてみますね・・・いつか。

平岡さん、今後とも動画を楽しみにしています!
勝手に分析してすみませんでした〜。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?