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オッペンハイマー先行上映 感想

劇場で配られたアンケートに答えるために、自分の考えを練った。
その結果、長文になったので、久方ぶりにnoteを投稿。
このnoteを始めたきっかけの出来事は自分の中ですでに過去のものとなって埋まっているので、このまま上から土を盛って、草花を植えるように別の話を投稿することを今、決めた。

以下、感想

悲しい物語だった。
オッペンハイマーという天才論理物理学者が政治に、国に必要とされて、自らの才能を遺憾なく発揮した結果がもたらした大量殺戮兵器の物語。

メメント、インセプション、ダンケルク、テネット、そしてオッペンハイマー。クリストファー・ノーラン監督の映画は見てきたし、楽しかったし、好きである。先行上映で見れたことが幸運だとすら思えるぐらいよくできた作品だった。緩急がうまく、途中飽きない。わざと広告や事前告知に触れずに見たが、後悔はしていない。登場人物は、確かに同監督作品の中でもずば抜けて多い。しかし、会話の中で人物の名前が挙がれば、ちゃんとその人物のカットが挿入されるため、「あぁ、この人か。」と認識して、会話にはついていける。基本的に、物語のテンポが速いため、場面が変わる度にさっきも見たような、いや初めて見るようなどっちだかわからない顔ぶれがポンポンと登場する。そのせいもあり、人間ドラマで重要な相関図が不鮮明になっているようにも思った。「この人、誰だっけ?」と思いつつも、交わされるセリフを聞きながら、登場人物たちの立ち位置を探っていくのは、楽しくもあり、大変な部分でもあった。正直、映画を見終わった後、登場人物の名前はオッピーとキティぐらいしかすぐには出てこず、「あの場面に登場した、水爆の研究に一生懸命だった研究者」という具合な説明、もしくは「フレディ・マーキュリー役の俳優」といった形容詞で感想を話すことになった。

原爆開発についての、ドキュメンタリーという大きな軸があり、そこにオッペンハイマーがどう関わっていたのかという物語だと理解している。私は、横浜育ちのため原爆投下に関する戦争への興味関心はハッキリと言って薄い。だから、このような印象を受けるのだと思う。もちろん、はだしのゲンを読んだことはある。なんなら、舞台まで見に行きひたすらに戦争への嫌悪と虚しさを覚えた。原爆のもたらした被害の壮絶さは確かにオブラートに描写されていた。焼けた女性、炭化した人間、そして原爆投下後の被害の写真を見た人々の悲痛な声。正直、現場にいない人間が感じる被害の壮絶さなんて、案外そんなもののような気がする。自分の作った物がもたらす現実を分かっていたオッペンハイマー。彼が作中で原爆を使用するための会議に出席した時、原爆の使用に反対意見を述べたり、原爆が投下され、彼が勝利の演説をする時、彼の罪悪感はハッキリと描かれていた。彼は、原爆を作るしかなかった。彼が作らなければ、ソ連や他の国が開発に成功し、使用していた可能性も否定できない。自分が作れるのであれば、せめて、自分の意見が少なからず通る(使用を極力しない方向、抑止力としての核保有)可能性を信じて、アメリカで原爆を作ったのだと思う。

悲しきかな、政治の世界ではオッペンハイマーはあまりにも心根が純粋で、性善説を信じすぎていたのかもしれない。人は自分が持っている力を他人に振るわずにはいられないのかもしれない。アメリカのプロメテウスと呼ばれたオッペンハイマー。人類が自らを燃やすことすらできる火を与えた彼は、きっと自分の才能を恨んだのではないだろうか。永遠に、理論物理学者であり続けられたら、どれだけ平和だったのだろうか。原爆実験で、彼は大きな爆発に目を奪われる。それは、人を殺す火だという恐怖よりも、その火花の動きの美しさに夢中になっていたように感じた。机上の空論だったはずの原子の分裂。それが、もたらす力。そこに善も悪もない。ただ、純粋な力の凄まじさが描かれていた。正直、あのシーンを見ている時、いつ爆音が来るのがビクビク怯えていた。実際、来るとわかっていもびっくりした。

この映画を見た人の中で、原爆というテーマに一度も触れたことがない人間が、この映画をきっかけにして、政治が人を殺すことの恐ろしさを少しでも考えてほしいと思う。作中、アメリカ大統領は、「原爆を落としたのは自分だ、作ったヤツのことなんて誰一人気にしない」とオッペンハイマーに言い放つ。技術は人を不幸にも幸福にしてくれる。ハサミを人を刺し殺すために使うのか。それとも、人の髪を綺麗に整えるのか。

秩序が必要である。

今を生きるすべての人間が秩序を守る義務がある。現在のパレスチナで行われている大量虐殺。そして、ウクライナの侵略戦争。戦争はいつも、政治のせいで始まり、政治のせいで終わる。私たちの秩序を守るための政治でなければならないはずなのに。

この映画は、すべての人間に見てほしい。
そして、考えてほしい。
核のもたらす未来を。

原作も読みたいと思っている。

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