見出し画像

土偶を読むを読むを読む

『土偶を読む』(竹倉史人著)が話題です。「イコノロジー」の観点から、土偶の正体は植物をかたどったものとしたこの本は、各界の著名人が絶賛、学術的な賞も受賞し、多くの読者を獲得しました。ところが、考古学界ではほとんど評価されていないという、ややこしいことになっているそうです。

今回取り上げた『土偶を読むを読む』は、『土偶を読む』を批判的に検証したものですが、単なる検証にとどまらず、縄文研究の今を知る上でも、とても勉強になりました。

そこで、縄文に関して「知っているようでほとんど知らない」一読者たる私が、自分の体験を交えながら、本書のどこに知的好奇心を掻き立てられたかという点をまとめてみたいと思います。


気付かなかった!カックウの頭に穴があるなんて


『土偶を読む』で、キービジュアルとして扱われているのは、何といってもカックウこと「国宝 中空土偶」(北海道函館市)ではないでしょうか。頭の形やあごにブツブツがあるところなど、栗にソックリ!私も似ていると思いました。

ところが、この土偶の頭には、穴が2つ開いており、類例の土偶や土器から、ラッパのような突起がついていたと考えられるそうなのです。
なんてこったい!2018年に東京国立博物館で行われた縄文展に二度も行き、カックウを直接みてきたのに、頭に穴があることを見過ごしていた…自分の節穴ぶりにガッカリです。


なるほど!姿勢に意味があるのか


さて「国宝 合掌土偶」(青森県八戸市)も『土偶を読む』では、栗とされていますが、こちらについてはそうかな?と疑問に思いました。

土偶の顔の表現が違っても同じようにしゃがむ姿勢の土偶があり、姿勢にこそ意味があるという指摘は、なるほどと思いました。こうした屈折像土偶は、縄文時代の後期から晩期までと千数百年もの間、広い地域で作られたそうです。どんな思いを託して縄文の人々はこの土偶を作ったのか、考えずにはいられません。


長かった!縄文時代


本書を読み、あらためて実感したのが、縄文時代は長いということです。そして、編年というモノサシがあれば、その長さや特徴がよくわかるということなんだなあと。
1万5千年以上前の草創期と、地域によっては稲作が始まっていただろう晩期では、違っていて当たり前かもしれません。

土偶は縄文時代晩期終末まで一貫して女性表現を維持してる一方でミミズク土偶のように胸から頭部に関心が移っていくのは、装身具による儀礼の強化という社会複雑化を土偶が反映していることを示す。

土偶を読むを読む


本書で引用されている考古学者の設楽博己さんの言葉ですが、納得です。


思ったよりもおもしろい!土偶の研究史


白鳥兄弟さんが執筆されている「土偶とは何か」の研究史は、知っていた方がいいのかもしれないけど、ぶっちゃけ、読むのが大変そうだなあ思っていました。

でも、読み始めてみると、思ったよりもおもしろい。どこかで聞いたことのある説も、元をただせば研究のなかで生まれてきたものということがわかるし、ジェンダー考古学など知らないものもあって、知識が補強されていくような、そんな気持ちよさがありました。
自分なりに大別すると、記録・整理するのが大事派と、意味を考える派がある感じかな。


知りたい!縄文時代の家族構成や社会構造


山田康弘先生のインタビューも読み応えがありました。DNA解析技術の飛躍的な発展によって、これまでの仮説が検証できるところまできていることに、ワクワクしています。
山田先生が研究してこられた縄文時代の精神文化、家族構造や社会構造に私もとても興味があります。研究の成果を楽しみにしています。


やっぱり女性の姿をかたどったものではないかなあ…


私が『土偶を読む』に興味を持ったのは、「今土偶は、女性像じゃなくて植物の精霊ってことになっているの?」とびっくりしたからでした。図書館で『土偶を読む図鑑』を読んだものの、やはり違和感がありました。

というのも、自分の妊娠した時の姿に「うわっ!むっちゃ土偶じゃん!」と思った経験があったからなのです。考えてみれば、縄文土偶の、みんながみんな妊娠しているわけではないし、海外の新石器時代の土偶のイメージを重ねていたかなと思ったりもしますが、初期の胸だけの土偶をみても、やっぱり女性じゃね?との思いが頭から離れません。

私たちは、食欲や性欲、睡眠欲といった根源的な欲求すら、文化的なものに寄りかかっていると感じています。それに対して、妊娠、出産、授乳と否応なく進んでいく母体の変化は、ものすごい動物的です。世の中の出産を経験した女性たちは、こんな獣じみた経験をしておきながら、よく普通の顔をして生活していけるなあと不思議な感慨を持ったものでした。

縄文の人々もまた、命が誕生する不思議を感じていたのではないか、そこに土偶が関係しているのではないかと、想像の羽を広げてしまうのです。


字ばっかりなので、最後にお遊びを。左がイラク南部(前4500年頃)、右がメソポタミア北部(前5500年頃)の出土品。これぞサトイモ!

古代オリエント博物館


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?