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キラーズ・オブ・フラワームーン 解説、考察。原作との比較。

始めて観た時は「グッドフェローズ」や「ディパーテッド」を思い出した。次観た時は「シャッターアイランド」や「沈黙」を思い出した。
映画→原作→映画と味わい、僕が思った事を書き留めていく。
最初からネタバレしていくから気を付けてね。
(追記)ネタバレ少な目の動画も作った。

原作読んで分かった事。

モリーは自分を「無能力者」と言う意味。白人がなぜ「純血」と強調するのか。

当時、先住民に財産後見人を付けさせる制度があった。
「先住民には自分の財産を管理する能力がない」とみなした。
どの程度能力があるかは「どれだけ先住民の血が濃いか」で決まる。
なので「純血」は能力なしと判断され、地域の権力を持つ白人が後見人になる。結婚すればパートナーが100%管理できる。入口マットの「KIGY」はまだ意味が分からない。

ヘイルは何者なのか。

原作で彼は、ボロの聖書だけを持ち、オクラホマにやってきて苦労の末、畜牛業として財を成したと書かれる。オイル利権を奪う事だけで富を手に入れたわけではない。
いわゆるアメリカンドリームの体現者。このアメリカ的成功がアーネストに強い影響を与える。

オクラホマ悪人多すぎない?

この当時はまだFBIがない。この時代は町の人間全員で治安を守る最後の時代、「ドロボー!」と叫べばみんなが協力して追いかけて捕まえるアレ、「叫喚追跡」ってシステム。その限界と禁酒法によって地方で密造酒を作る悪人が急増。さらに石油利権で町が潤っているので強盗や詐欺師がプラスされる。

供えられるリンゴとリジーのお迎え。

オセージ族は死後「ハッピーハンティンググラウンド」いく。つまり楽園。リンゴはそこまでの食料。赤いお迎えはおそらく案内人。

人物解説(登場順)

アーネスト:主人公、イケメン(原作でも顔がいいと評されてる)、おじを頼ってやってくる。優しく気が弱い。

ヘンリー・ローン:先住民、アーネストを迎えに来た男。妻が肉屋のバンチと浮気している。鬱気味(原作ではそういう描写はない)、自殺見せかけてラムジーに殺される。

ヘイル:アーネストの叔父、苦労して畜牛業で勝ち組に、信仰心がある。
オセージ・ヒルの王、自称オセージ族の真の友人。優しい微笑みで陰謀を隠す。

バイロン:アーネストの弟、ヘイルと同様、自分の手を汚さず邪魔ものを消す。アナと関係を持つ。アナ殺害の手伝いをする。

モリー:深い愛を持つ、原作でもアーネストを最後の方まで信じていた。罪を赦せる。ヘイルの対になる存在。

ケルシー・モルソン:アーネストと同じ部隊にいたという男。アナ殺害の実行犯。原作では多重スパイ。

ブラッキー:アーネストと強盗していた男。事件以前から揉めると殺す無法者。スミス殺害を依頼されるも車だけ盗んで捕まる。ヘイルにそそのかされ銀行強盗し謀殺されそうになる。

ビル・スミス:ミニーの夫、のちにリタと結婚?、アーネストの対になる存在。ミニーの死について調べる。妻の家族の不審死を調べて爆殺される。原作では最初からリタと結婚している。

ミニー、アナ、リタ:モリーの姉妹、ミニー、アナ、リタの順で殺される。

ショーン兄弟:医者兄弟。アナの凶弾を意図的に紛失する、モリーに毒を盛る等、ヘイルの手下として動く。原作ではもっと狡猾。

マクフライトorマクブライト:石油業者だが善人、ワシントンDCに実情を伝える使者となり、DCで死者になる。心の温かい男と原作で評される。

バーンズ:モリーに雇われた私立探偵、頑張ったのでアーネストとバイロンに殴り殺される。

ヘンリー・グラマー:ロデオの元スター、写真撮影されたりする人気者。実は密造酒売買の大物。強盗、殺人なんでござれのギャング。強盗団の仲間のエイサ・カービィをヘイルに紹介する。ラムジーは部下。意識が混濁し車で木に突っ込む。原作ではヘイルの旧友。

ジョン・ラムジー:子沢山のギャング、ローン殺害の実行犯。殺人に躊躇している。エイサの居場所を知ってる。

エイサ・カービー:スミス家爆殺の実行犯。グラマーの仲間、ヘイルに宝石強盗をそそのかされ、店主に射殺される。

バンチ:ローンの妻と浮気していた男。濡れ衣着せられそうになる。ヘイルに「あんたは友人じゃない」という。

捜査官:トム・ホワイトという名前。モリーの夢で「帽子の男」と呼ばれる。映画では名前は出てこない。原作ではほぼ主人公。わかりやすい「白い救世主」
仲間は保険屋や親戚を探す先住民、畜牛業者として潜入捜査している。
アーネストとよくビリヤードしてる男、終盤でヘイルが牛を売ろうとしてるのも捜査官。

考察

変えられた脚本、変えれない主人公。

捜査官、トムホワイトを主人公にした脚本を作成していた時、レオナルドディカプリオ「変えた方がいい」と言われ、二年かけた脚本を没にしたエピソードがある。
だけど、このエピソードは宣伝用の作り話な気がしてる。
映画の内容は、原作のビルスミス家の爆破までの一章と捜査開始から犯人が裁かれる二章の最後の部分で構成されてる。
原作にある後日談や捜査の内容は全てカットされてる。それでも3時間あるんだから恐れ入るけど。
原作は40%以上がトムの話になっている。だからほかの誰かが映画化したとすれば、トムが主人公になるのはわかる。
でもスコセッシが監督ならば、主人公はアーネスト以外ありえない。
仮にトムホワイトを中心に映画を作ったとしてもスコセッシはアーネストを自己投影の対象としたはずだ。遠藤周作の「沈黙」を映画化したスコセッシがアーネストに注目しないはずがない。

オセージヒルズの王は神なのか。

中世、王権は神によって与えられると考えられていた。神の代理人だと。
ヘイルは何度も神を気取った言動をとる。「もう長くない」これ言われた者は近いうちに死ぬ。奇跡が起こらない。ヘイルが殺すと決めたから、人の生死を決めてる。
車の保険金詐欺を犯したアーネストを呼び出し、形式ばった罰を与える。人を裁いている。代理人どころじゃない。
最後にはヘイルが偽りに神であることがみんなに知られていく。
肉屋のバンチの「あんたは友達じゃない」は、信者じゃないって言い換えれる。
逮捕されそうになると口を割らせないように安全を約束する。
冒頭、アーネストに言った「ここにオイルはない。安全だ」に始まった安全宣言は、約束の地を気取ってる。
モリーとアーネストの出会いは自分のおかげだと言ったこともあった。
聖書によれば、結婚は神の意志によるものだ。
アーネストはヘイルに言われて結婚したのか?神を気取る悪魔にそんなことができるのか?

運命の出会い

物語の後半。アーネストはモリーとの出会いを「車に乗せた時、気持ちが芽生えた」と言う。
この映画の争点の一つ。
「アーネストはモリーを愛していたか」だ。
映画では所々に不審な点がある。
最初の出会いも、写真撮影のシーンの最後に、昔に撮ったであろうモリー姉妹の写真をだす。アーネストの表情をアップにして、後見人のところから出てくるモリーに近づくアーネスト。
アーネストの顔を褒め、運転手の職を紹介したのはヘイル、ヘイルはモリーの家族と親しい、写真を飾っていたのかもしれない。ヘイルが誘導したのではないかと勘繰ってしまう。
ヘイルとアーネストがモリーを初めて話題に持ち出す時も、わざとらしく感じた。
最初から財産目当てだったのかもわからない。
モリーは英語が堪能だ。アーネストがオセージ族の言葉を覚える必要はない。
でもアーネストはオセージ語を話せる。原作でもわざわざ勉強しておぼえたとある。
オセージ語を話せるのはヘイルとアーネストくらいしかいない。
金の為か?愛ゆえか?
アーネストは全てを証言しながらも妻の毒殺未遂には答えない。答えられない。
モリーはアーネストを信じている。これも原作と同じだ。
財産目当ての男をここまで愛せるのか。
モリーの深い愛情だけではご都合主義に見える。
アーネストという男は何だったのか。

キチジロー リターンズ

映画「沈黙-サイレンス-」に出てくるキチジローは棄教し、宣教師を裏切る。弱い人間だから。「魔が差した、欲に目がくらんだ」等、心の弱い人。アーネストも同じ。
最近聞く言葉で言うなら「性弱説」。
弱いから、正しい道を歩もうとしても道を踏み外してしまう。
終盤でのモリーとの会話でもアーネストは自分がこれからつく嘘の為の言い訳をする。モリーは黙って聞き、「道を誤らないで」とだけ告げる。
原作ではさすがのモリーも愛想をつかしている。
だけど、映画のモリーの愛はもはや神の領域(アガペー、無償の愛)に達している。人を騙し、殺したアーネストを家に帰ろうと抱きしめる。モリーの体は大きく、物理的にも精神的にもアーネスト包み込んでくれる。
にもかかわらず、アーネストはまた罪を犯す。
その罪は自分の弱さ、罪を認めない事。自分に嘘をつくことじゃないだろうか?だって認めなければ罪は償えない。
きっかけが何にだったにせよ、アーネストはモリーを愛していた。彼女の深い愛情に感謝していた。劇中何度もモリーへの愛を語っていた。そして何度もヘイルの誘惑に負ける。
アーネストは最後までモリーに毒を盛ったことを認めなかった。
劇中アーネストにハエがたかるシーンがある。
モリーがワシントンから帰った来た後、毒性の(強まった?)注射を打つ時にたかる。
もう一つは取り調べの時にたかる。二度も。
これは自分の罪を認めないアーネストへの警告だったのではと思う。
ハエの隠喩としては死とか腐敗とかがある。
ヘイルの弁護士とヘイルの関係者たちと話し合う時、彼らが欲にまみれて腐敗しているかのような演出がされている。薄暗い部屋、顔に陰影が濃く、アーネストを破滅へと導こうとする。
捜査官はヘイルと裁判所で会う前に「狭き門より入れ」と聖書のの言葉を引用する。
狭き門とは「救いへの道」。
その逆の広き門は「破滅への道」。
(たしか弁護士に呼ばれてはいる時の扉は両開きだった気がする。誰か覚えてないかな?)
ハエがたかる時、彼はモリーに毒を盛っている自分の罪を認めるチャンスがあった。
観ている僕らは、ヘイルとジョーンズ医師がインスリンに毒を混ぜてるのは百も承知だけど、アーネストは分かってはいるもののそれを信じたくない。
ヘイルが自分にモリーを殺させようとしていることも、自分がモリーに毒を盛っていることも。
だから彼は確かめるように毒を酒に入れて飲む。
その後捕まる時にアーネストは、ビルスミスの殺害の容疑で連行されるのに
「誤解だ!妻は病気なんだ!」と叫ぶ。この叫びは誰に向けたものなのか。
毒だと確信したのにもかかわらず、自分の罪を認めようとしない。
ラスト、モリーはアーネストに最後のチャンスをくれる。
でも彼は認めない。自分の弱さを。モリーは何も言わず去っていった。
嵐の夜。何も語らず彼を愛すると決めたのとは対照的に。

https://kotfm-movie.jp/より引用。

備忘録、面白かったところ。

ビルスミスとアーネストが仲悪いのは生き方の問題だけ?
ビルやアナの死ぬ前のメタっぽい発言
「気に入らないなら殺すしかないな、それは兄弟の役目か?」
「もう退場しろっていうの?私に消えてほしいんでしょ」
ヘイルが死にかけてるモリーやその姉妹にオセージ語で祈る。
「ワカンダ」と聞こえることからオセージの神に祈ってるはずだけど、何様だよ。
ヘイル達の言い訳。
殺される人間の発言。
ラムジー、ブラッキーなどの殺害実行犯のヘイル達への評価と恨み事。
誰が一番クズなのか。誰が一番得してるのか。

動画

ネタバレ少な目。


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