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奇跡へ繋がる軌跡(2023年J1昇格プレーオフ決勝を観戦した雑記)

前書き

前回記事作成時から1年以上も時間が空いてしまった…
今年のJ1昇格プレーオフ決勝に参戦して、そこで見聞きしたものや感じたことについてなるべく記憶が鮮明なうちに感想を書かないとと思っていたが、生来のモノグサや年末に色々イベントが立て込んでいたのを言い訳に時間を作らず先延ばしにしていた。流石にこのままだと新年になってしまうのでせめて次のシーズンが始まってしまう前に、と思って記憶と記録を頼りにあの日の試合のことを書き記す。

2023年12月2日のこと

朝の出来事

2023年12月2日。自分は自宅のある東北の片田舎から新幹線に乗って東京まで向かった。乗車待ちならびに車内での時間を私はセリエAの試合、モンツァvsユヴェントスを視聴することに費やした。ユヴェントスは昨シーズンモンツァにシーズンダブルを喫するなど相性最悪で、この日での初勝利が期待されていた。試合はというと、前半12分にアドリアン・ラビオのゴールでユーヴェが先制するもその後は追加点を取れないまま時間が経過。このまま逃げ切りかと思った後半46分にまさかの失点。今回もやはりモンツァに勝てないのかと気落ちしかけたその数分後、フェデリコ・ガッティ選手が技ありのゴールを決める!そのままタイムアップを迎え2-1でユヴェントスがモンツァに待望の初勝利を飾った。最後まで諦めずチームの勝利を一心不乱に祈り続ければ、最後の最後に歓喜がやってくるのだと感じつつ、推しのユヴェントスが勝ったことで非常に良い気分で新幹線に揺られた。

現地到着〜試合前

東京駅のコインロッカーに大きい荷物を置いた後、そのまま中央線快速、総武線各停と乗り継いで国立競技場へ向かう。電車に乗ってから「あ、中央線快速ってオレンジじゃん、山手線(緑色)の方に乗ればよかったかな」とかしょうもない事をふと考えつつ、足早に千駄ヶ谷駅へ向かった。
アウェイサポの人数が多い
想定内であったはずだ。対線相手の清水エスパルスは今年のJ2リーグで最多の観客動員数であったのだから。オリジナル10同士、そしてプレーオフ決勝という舞台の特殊性を考慮すればそうなることは分かっているはずだが、だが今年の東京ヴェルディだってサポの熱量では負けていない。今年のヴェルディは、年間通してリーグ戦で大崩れせず好調をキープしていたこともあり、シーズンを通して観客動員がじわじわと増加傾向にあった。勿論今年突然に増加した訳ではなく、今まで何年にもかけて関係者達がいろいろな取り組みで種を蒔いてきたことの成果がリーグ戦の好調に呼応して目に見える形に結実したと考える。緑色の装備に身を包んだ老若男女が多く国立に駆けつける光景は、たまにしかヴェルディの試合に足を運ばない自分でも感慨深く映った。より熱量を込めてヴェルディのために取り組んできた人たちにとっては尚更だろう。みんなのこの15年間の想いが結ばれますように、国立競技場は運命の頂上決戦を前に言葉に表しようのない高揚感に包まれていた。

前半

試合の立ち上がりはエスパルスの圧が優勢であったように記憶している。何度か危ない決定機を作られたが、リーグ戦最少失点の粘り強い守備をもとに耐え凌ぐ展開が続いた。試合が終わった今だから言えるが、このタイミングでエスパルスの誰かに先制されていたら、だいぶ試合の展開は変わっていただろう。20分くらい過ぎてからはヴェルディ側もエスパルスの戦い方のリズムに慣れてきたからか、がっぷり四つで進んでいったように思う。スコアは動かず0-0でハーフタイム。感覚的にはあっという間に過ぎた45分だった。

後半

J1昇格プレーオフのプレーオフたらしめるもの、それは「90分終わって引き分けなら年間順位が上の方が勝ち抜け」というルールである。このルール通りだと、0-0で終われば年間順位でエスパルス(4位)を上回るヴェルディ(3位)が勝ち抜けてJ1昇格ということになる。「ドローでもOK」なホームのヴェルディに対し、「勝たないと」なアウェイのエスパルスはとにかく点を取るためにアクションを起こすしかない。なので、このまま膠着したまま90分が終わるなんて、ありえなかったのだ。
後半15分頃、相手からの浮き球を競りながら対処していたキャプテン森田選手の手に触れた。これがPKと判定され(VAR映像付き)、エスパルスのFWチアゴサンタナ選手に決められてしまう。0-1。追うものと追われるものが入れ替わった瞬間であった。
失点後、今度はゴールを奪い返さないといけないヴェルディは次々と交代選手を投入し、流れを打開しようと試みるが、リードを守り切れば1年でJ1に戻れるエスパルスもまた、守備的な選手を次々と投入し、逃げ切りを試みる。後半ATまでの時間は、どちらかというと、素人目に見ればエスパルスの目論見通りに時間が過ぎていたように感じた。ボールキープしつつ相手の守備網の隙を探りチャンスとみるや縦パスを差し込むというヴェルディの狙いは、エスパルスの神がかり的なディフェンスの前にことごとく跳ね返され続けた。いくら今シーズン劇的な試合展開を何度も何度も経験してきたヴェルディのサポの中にも、残り時間と反比例して悲観的な雰囲気が醸成されてくる。このまま終わってしまうのかよ、と…。しかし、諦めずブレずに愚直に自分たちの戦法を完遂したヴェルディが、最後にまたもやトンデモナイ事をしでかしてしまう。
ATに差し掛かった後半47分、相手からボールを奪ったヴェルディの選手達がパスを繋いで中原輝選手へ。そして中原輝選手はボールを前へ大きく蹴り上げ、そこに染野選手が走り込む。ペナルティエリアに入ったボールを巡って染野選手と相手は競り合いー
染野選手は倒された。
笛を鳴らす審判。
PKが与えられた。
このPKはただのPKではなかった。決めればJ1、外せばJ2。2つのサッカークラブの来年、いや今後数年の運命を左右するPK。そんな途轍もない重苦しいプレッシャーが付与されたPKを、ゲットした染野選手本人が蹴る事を選択し、
そして
決めた
試合終了間際、これまで何度も奇跡を起こしてきた東京ヴェルディが、シーズン最後の大一番でまたやってのけた。1-1。
試合は、再びひっくり返った。
そして
FULL TIME
国立競技場が、(南側スタンドを除き)興奮の坩堝と化した

試合後

ある者は嗚咽の声を漏らした。ある者は雄叫びをあげ、ある者はハイタッチをし、ある者は周りを憚らずハグをした。15年間辛酸を舐め続けながらも、もう一度クラブが元いた場所に戻れることを信じてきた人間達の感情が、一斉に大爆発したのだ。

振り返って

このチームはおかしい。ホームで5ヶ月勝てなくても、その間ずっとアウェイでは負け無し継続していたり、前半に複数失点を喫して内容的に負けゲームとなっていても、後半に点を取り返してドローや逆転勝利、そんな試合を何度も演じてきた。そんな泥臭さ、最後まで勝負を諦めない執念、いい時間帯にゴールを決める勝負強さ、これらの要素は間違いなく以前の東京ヴェルディと比べて格段に強化されていったものであり、それがプレーオフ清水戦の後半での失点以後も「もしかしたら終了間際に奇跡が起こるかも…?」という空気感が醸成されてきたことに繋がっていったのだと思う。

間違いなく、2024年は厳しいシーズンとなるだろう。勝ち試合の数は減り、負け試合の数は増えるかもしれない。それでも、2023シーズンを通して培った守備の硬さに裏付けられた勝負強さと勝ちへの執念、そして新国立での大応援を呼び込んだサポーターの後押しを糧に、J1リーグの舞台で恐れず存分にチカラを示してほしい。この15年間もがき続けてきた事は決して無駄なんかじゃなく、全ての歴史や時間がクラブの成長や復活への線となって繋がってきたのだから。

早朝に見たユヴェントスの試合を思い出した。あの時のユーヴェも後半終了間際に一度追いついて窮地に追い込まれたが、ラストワンプレーに近い時間帯にゴールを奪い返し、会心の勝利を得た。東京ヴェルディもまた、難しい時間帯に先制され守りを固められる厳しい展開を強いられるも最後まで昇格を信じ攻め続けた結果、最後の最後に奇跡を手繰り寄せた。「最後まで諦めなければ、勝負の神様は微笑むんだぞ」と言い聞かせるようだった。一見無関係な点と点に思えるような奇跡の連続事象と思えるが、実は一つの線で「軌跡」として繋がっているのかもしれない。

試合の翌日、私は湘南国際マラソンに参加した。勿論は、東京ヴェルディのユニフォームを着用して走った。レース中のみならず、スタート前そしてゴール後も含めて多くのJリーグサポーターの方々などにお声をかけていただき、「ヴェルディおめでとう」「J1昇格おめでとう、2024シーズンはよろしく」「昨日の試合感動しました」などの声が本当に嬉しかった。他クラブのサポーターに昇格を祝福してもらえ、また多くのサッカーファンの感情を揺り動かせるクラブとなったことに、とても感動すると共に、昔を思いおこし感慨深い気持ちとなったことを今でも思い出す。

2024年J1リーグでも緑旋風を起こそう、東京ヴェルディ!!

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