初めてのオトコ

なんとか高校生になり、バンドとバイトに明け暮れる日々を送っていた。学校にはたった1人だけ、ナンシーという友達だけがいたのだった。他の連中とはほとんど言葉を交わさなかった。ただ、当時、チーマーと言われるような男の子や、スカートをやたらに短くし、ルーズソックスを履いているような女の子とは、なぜか気が合い、話す事はあった。バンド活動も本格的になり、1つ年上の男たちと組むようになった。他校だったし、私以外は男だったので、これまた楽しい日々が巡り巡っていた。学校にはほぼ行かないか、行っても、近くで早退といったふうに、卒業するための登校になっていった。真剣に辞めたいと父に話したが相変わらず「まぁもうちょっと待ちな」という腑抜けた返事だけが返ってきた。今になって思うが、この父の対応が、私を追い詰めず考えさせ、また、私という人間を尊重してくれていたのだなと思うのだ。そういった意味合いでは、父は相当に変人だったと思われる。
そんな日々の中、あるライブイベントで1人のオトコと出会った。ジョニーというこのオトコは、明らかに私が知らなかったロックンローラーをやっていた。6歳年上で、髪は腰までのロングストレート、ベルボトムにロンドンブーツという出で立ち、鋭い眼差しで、タバコの香りがしていた。
私はまだその頃、レディースバンドでドラムを叩いており、晒を巻きつけ髪を振り乱し、そりゃあもう異様な雰囲気だったはずだ。しかし、彼は、そりゃあもう自然な流れで私に声をかけてきた。何を話したのか、はっきりとは記憶がないが、いくつ?高校生?みたいな当たり障りのない会話だったように思う。
私が遊んでいた年上の男たちと圧倒的に違うのは、自分に対する自信だろうか。オレは命をかけてこれをやっているんだっていう雰囲気がビシバシ来た。
それから何かと私に声をかけてくれるようになり、ライブ以外でも会うようになっていった。会うごとに彼を好きになっていった。ファン心理も明らかにあった。ライブでのステージ上の彼は、紛れも無いロックンローラーで、カリスマ性さえ感じた。彼はギタリストだったが、ボーカルがいなかったため、彼が歌っていた。私は彼の声も大好きだった。低くてしっとりしていて色っぽかった。
そして、彼をますます色っぽくさせていたのがその指だ。ギタリストの指は、繊細で上品さも感じる。そして、彼は左薬指に三連の指輪をしていた。それは、私を苦しめた。彼と知り合って間もなく、彼女を知るのだが、見た目、80年代アイドル並みの可愛さ、彼に愛されてオンナの喜びに満ちていた。彼女に対して嫉妬というより、私の知らない世界の人という認識だったように思う。
だけど、彼と会う時間は、紛れもなく私だけのものであり、幸せだった。彼は運転免許証を持っていなかった。運送業のバイト中に、人を轢き殺してしまい、1年間交通刑務所に入っていたと聞いた。その当時からの彼女だから、別れるなんて事は皆無だ、と。私だってその頃知り合ってたら!!と、喚いても、時間は戻らない。私が知り合う前の2人の時間に、私は存在しないし、思いも届かない。
だから、隣町に住んでいた私の家に自転車で来てくれて話し込んだこともあったし、もう1人の仲の良いバンドマンの車で、何人かで出かけたり、私はその時間がとても幸せだった。女の子というくくりにいたのだ。周りはみんな年上の男で、私は小さく、か弱い女の子だったのだ。私はこの人にVirginを捧げたいっていうより、奪って欲しいという思いでいっぱいになっていた。

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