2021年のアニバーサリー・イヤー・クラシック②ヤン・ピーテルスゾーン・スウェーリンク (没後400年)

【はじめに】

◯記事について
・2021年のクラシック・シーンに備えて、アニバーサリー・イヤーの作曲家をまとめておく記事です。続きが出るかはわかりません。笑
・参考:「2021年にアニバーサリー・イヤーを迎えるクラシック音楽の作曲家リスト」
https://note.com/mattaream/n/n1973a0931bac
◯音源として紹介するCDの基本的な選び方
・あまり長いと気楽に聴き通せないので、1枚組のCDから選んでいます。Naxos Music Library(NML)で調べているので、探した時点で登録されていないものは取り上げていません。
・作曲家に焦点を定めているので、作曲家自身の作品のみで構成されたアルバムか、必要最低限で他の楽曲を含むだけのアルバムのみを選び、アンソロジーのような様々な作曲家と組み合わされているアルバムは外しています。
・同じ楽曲について上記の条件を満たした複数のアルバムがある場合は聴き比べて、演奏や構成などのいくつかの側面からおすすめしたいと思ったアルバムを挙げています。

【作曲家について】

◯ヤン・ピーテルスゾーン・スウェーリンク
(Jan Pieterzoon Sweelinck, 1562-1621)

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・現在のオランダの古都デフェンター出身。スウェーリンクか生まれた頃のデフェンターはスペイン・ハプスブルク朝の領内にあったが、スウェーリンクの生涯の大部分はカルヴァン派主導のオランダ独立戦争と重なっており、彼も世の中の流れに沿ってカルヴァン派へ改宗することになる。北ネーデルラントはカルヴァン派の共同体として再編成されたために教会オルガニストの職は無くなり、スウェーリンクは都市に雇われた鍵盤奏者として活動していた可能性もある。ちなみに父親は「旧教会」(Oude Kerk)という通称の教会(現在の観光スポットの一つ)のオルガニストであったが、スウェーリンクの音楽教育の実態はよくわかっていない。
・スウェーリンクの作品の中にはイングランド・ルネサンス音楽との繋がりを思わせるものがある。たとえば、リュート音楽で有名なダウランド(John Dowland, 1563-1626)の「あふれよ我が涙/涙のパヴァーヌ」(Pavana Lachrimae; Flow My Tears)やダウランドも譜面を残しているイングランドのバラッド「我が敵なる運命よ」(Engelsche Fortuyn; Fortune My Foe)などを下敷きにした楽曲がそれである。
・スウェーリンクの音楽教育は北ドイツのハンブルクに遺産を残した。彼はハンブルクのオルガニストの要職に門下生たちを送り出したほか、初期ドイツ・バロック音楽を支えることになるプレトリウス(Jacob Praetorius, 1586-1651)やシャイデマン(Heinrich Scheidemann, 1595-1663)などの北ドイツ・オルガン楽派の作曲家たちを育てた。北ドイツの作曲家たちが音楽に対するルター派の寛容を享受していたことは、カルヴァン派の都市に暮らしたスウェーリンクの境遇といくらか対照的かもしれない。

【オルガン作品集:おすすめの一枚】

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タイトル
Jan Pieterszoon Sweelinck: Keyboard Works
演奏者
Takashi Watanabe / 渡邊孝
レーベルとカタログ番号
ALM Records, ALCD-1140
コメント
・北ドイツのタンガーミュンデにある17世紀建造(20世紀末に修復)のオルガンによる演奏。落ち着いて聞き入ることのできる安定感と説得力のある演奏で、選曲も録音もおすすめできる一枚。
・「鍵盤作品集」というタイトルの通り、ヴァージナル作品もいくつか入っているので、スウェーリンクで一枚だけ聴いてみたいという人がいれば、このCDを聴いてみるのがいいかもしれない。
・オルガン作品集は甲乙つけがたい録音が多く、他にもArion Music, Ars Sonora Studio, Chandos, Naxos, Oehms Classics, Priory RecordsがCD一枚サイズの作品集を出している。

ェンバロ作品集:おすすめの一枚】

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タイトル
Jan Pieterszoon Sweelinck: Harpsichord Works
演奏者
Glen Wilson
レーベルとカタログ番号
Naxos, 8.570894
コメント
・録音も演奏も手堅く、曲ごとにちょうど良いテンポ感になっている印象を受ける。収録曲の最後の2曲は、当時の作品集にスウェーリンクと共に収録されていた他の人物の作品から引かれており、同時代性に触れてみるようなオマケとなっている。
・他にもCentaurやHungarotonがCD一枚サイズの作品集を出している。特に、HangarotonのCDはチェンバロではなくクラヴィコードを用いて演奏しており、独特の趣きがある(HCD32382)。

【合唱作品集:おすすめの一枚】

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タイトル
Sweelinck: Psaumes francais and Canciones Sacrae
演奏者
- Cappella Amsterdam
- Daniel Reuss
レーベルとカタログ番号
Harmonia Mundi, HMC902033
コメント
・しなやかな演奏。互いに柔らかく溶け合っていながら、各パートごとがメリハリをもって膨らんでいる。オルガンなどの器楽作品を思わせるテンポ感になっており、生き生きとした印象を覚える。もしかすると、人によってはほんの少し忙しなく感じるかもしれない。

【その他の音源について】

・NMLで探したところ、ボリュームの大きな録音としてはGlossaの合掌作品集(2巻)、Etceteraの合唱作品集(3巻)、Chandosのチェンバロ作品集(3巻)、Deccaのチェンバロ作品集(4巻)、Brilliant Classicsの鍵盤作品全集があった。
・スウェーリンクは「今日キリストが生まれた」(Hodie Christus natus est)というキャロルが親しまれているようで、多数のクリスマス・アルバムに収録されている。スウェーリンク作品集としては、上記のEtceteraの合唱作品集の第1巻に収録されている。

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