翻訳:W.ワーズワース「彼女は喜びの幻だった」

【記事について】

今年はワーズワースの生誕250周年というわけで、滑り込みで翻訳しました。以前に「虹」を訳したことがあるので、今度は恋愛詩にしてみようと思い、She was a Phantom of delightを選びました。

【日本語訳】

彼女は喜びの幻だった
僕の視界で彼女が初めてきらめいたときのことだ。
愛おしい影が放たれて
一瞬を飾りつけていった。
彼女の瞳は黄昏どきの星のように美しく
髪は黄昏そのものだった。
彼女が身に纏うそれ以外のすべては
五月の風光と朗らかな夜明けを思わせた。
舞い踊る姿、楽しげな像に
怖くなり、打ちのめされ、引き留められた。
僕がそばで見つめた彼女は
霊のようでありながら、一人の女の人でもあった!
彼女に備わっているのは軽やかで思うままの仕草と
自由な乙女の足取り。
その表情は
心地よい記録に残り、心地よい約束をする。
その存在は人の手の届かないような眩しさや良さではなく
日々の糧になるものをくれる。
たとえば、束の間の切なさ、素朴なたくらみ、
称賛、非難、口づけ、涙、微笑み。
今、僕は曇りのない瞳で見つめている
その機械仕掛けが脈打つ様子を。
さまざまな思いに満ちた呼吸をしながら
生と死の間をゆく旅人。
丈夫な理性、節度ある意志、
忍耐、予見、力、技をもつ人。
高貴な計画によってつくられた女の人、
完璧な警告と慰めと命令をくれる人。
それでいて霊のようでもあり、その眩しさには
天使の光を見ているような気にさせられる。

【英語原文】

She was a Phantom of delight
When first she gleamed upon my sight;
A lovely Apparition, sent
To be a moment's ornament;
Her eyes as stars of Twilight fair;
Like Twilight's, too, her dusky hair;
But all things else about her drawn
From May-time and the cheerful Dawn;
A dancing Shape, an Image gay,
To haunt, to startle, and way-lay.
I saw her upon nearer view,
A Spirit, yet a Woman too!
Her household motions light and free,
And steps of virgin-liberty;
A countenance in which did meet
Sweet records, promises as sweet;
A Creature not too bright or good
For human nature's daily food;
For transient sorrows, simple wiles,
Praise, blame, love, kisses, tears, and smiles.
And now I see with eye serene
The very pulse of the machine;
A Being breathing thoughtful breath,
A Traveller between life and death;
The reason firm, the temperate will,
Endurance, foresight, strength, and skill;
A perfect Woman, nobly planned,
To warn, to comfort, and command;
And yet a Spirit still, and bright
With something of angelic light.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?