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空也の思い出

皆さん、「空也」の最中はご存知でしょうか。
創業135年の和菓子屋の老舗中の老舗、焦し最中に上品なあんこをつつんだ「空也最中」が有名な、銀座の名店です。

もはやわざわざ紹介するまでもない程いわずもがなの名店であることは間違いありませんが、かくいうお菓子マツザワ店主は数年前までは全く存じあげませんでした。

私の世代も含めて、最近では最中を日常的に食べる機会なんてそうないんじゃないでしょうか。
マツザワも普段食べる最中といったら、チョコモナカジャーンボ!くらいで、そんなに日頃から「もなかくいてぇ〜」と自ら最中を欲する最中飢餓状態に陥ることもありません。

「パンケーキはどこの店がおいしい!」なんて話を友人とすることがあっても「最中はやっぱり空也だよ!」なんて話をする機会など毛頭ありません。

そんなわけで、最中に対するアンテナ感度ゼロ状態で過ごしていたマツザワと、空也さんとの出会いは今から6〜7年前に遡ります。

当時私は神楽坂の料亭で板前見習いをしていました。
「追い回し」という言葉がありますが、とにかく先輩に言われたとおりになんでもやる、というように毎日必死に仕事をしていました。
素直に言われたとおりに仕事をしていればまだかわいげがあったかもしれませんが、当時若造だった私は、仕事も半人前以下であるにもかかわらず、先輩に反抗的な態度をとってしまうこともあり、なかなか職場の雰囲気になじめずにいました。

そんなある日、職場でたまにお茶教室を開催してくださっていたお茶の先生が、差し入れにと空也の最中を買ってきてくださったのです。

お客様から差し入れをいただくことはよくあったのですが、空也の最中ときくなり先輩や他のスタッフが「わー、空也の最中だー!」と色めきだったのを覚えています。

空也の最中?そんなに有名なのか?

そう思いつつも、なんとなくみんなの輪の中にはいっていけず、1人黙々と作業をしながら聞き耳をたてていました。

「マツザワさんもいただきなよ」

先輩にそう声をかけられ、ありがとうございますと空也の最中を1ついただきました。

正直、そのとき空也の最中を食べてどんな風に思ったかは覚えていません。

まず最中経験値が低すぎて空也の最中が他と何が違うのかもわからないし、目の前の仕事に必死すぎて、最中を味わっている余裕もありませんでした。
そのときは急いで一口二口でほおばって、仕事に戻ってしまいました。

でも、先輩や他のスタッフがあんなに嬉しそうに「空也の最中だー!」と喜んでいる姿をみて、特別なお土産なんだなということがわかり、いつか自分も空也のもなかを買いにいってみたい、という思いがずっと頭の片隅に残っていました。

それから数年。
転職をして飲食店からは離れてしまいましたが、プライベートでお礼のお菓子を用意する機会がありました。
目上の人にあげるちょっと品のいいものって何かなーと考えたときに、「あ、空也の最中!」が浮かびました。

ちょうどそのとき銀座の松屋で買い物をしようとしており、近場だしいってみようということになりいってみました。

いざ空也本店につくと「本日の分終了しました」の文字。本日どころか今月の予約は締切ましたの文字。

マジか、。そんなに入手困難なのかよ、。
絶望と同時にだったら尚更食べてみたい!お土産に差し入れたい!という思いが強くなり、その場で来月の予約をし、迎えた予約日当日。

差し入れ分と自宅用に購入したのですが、すでに包装紙の隙間から最中の皮の香ばしい香りがフワッと香っており、早く家に帰って食べてみたいとウズウズしながら帰路につきました。

帰宅後、あったかいほうじ茶をいれ、いざ包装紙オープン。

おぉ、。
美しい、。シンプルな紙箱の中には個包装されていないそのままの最中がギッシリ詰め込まれていました。
無駄や、余分なものが排除された、最中だけの美しさを感じました。

おそるおそる1つ手にとって、いざ実食。
まず口に近づける段階から最中の香ばしい香りがフワッと香ります。
一口頬張るとパリモチっとした、パリパリとしっとりの中間くらいの上品な食感。
「あ、お米だ」ということが実感できるくらい素材本来の風味が活かされた最中に、こしあんに近い状態のやや甘めのつぶあんが丁寧にサンドされていました。

あぁ、おいしい、。
丁寧で、まごころのこもった手作りの味がそこにはありました。

最近では最中のサクサク食感を楽しんでいただくために、食べるときにあんを自分ではさむタイプの最中もよくみかけます。

そういうサクサク感を楽しむ最中とは違うのですが、既ににあんをはさんでいるのにもかかわらず、素材の風味と特有のパリモチっとした食感が保たれている絶妙な最中、そしてちょっと甘めのなめらかなあん、本当においしかった。

これはやっぱり特別な人に食べてもらいたくなる一品だと感じました。
そして、空也の最中を存分に味わえなかったあのときの私に、空也の最中、最高においしかったよ。空也の最中を食べて、おいしいって心から感じられる日がくるからと伝えてあげたい。

皆さんももしまだ召し上がったことがなければぜひ、空也さんにいかれてみてください。
オンライン販売が当たり前の時代に、実店舗での販売のみにこだわられているその姿勢からも、学べるところがあると感じています。

お菓子マツザワは弱小菓子屋ですが、空也さんのようにお菓子に命を吹きこめるような、真摯な姿勢でお菓子づくりにはげみ、いつの日か誰かを癒して喜ばせてあげられるお菓子屋さんになれるよう日々精進してまいります。

マツザワの空也愛、そして将来への誓いのコラムなのでした。

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