<現役受刑者が獄中で読んだ本〜プリズン・ライブラリ〜ビジネス書・自己啓発・エッセイ編>

「ウチら棺桶まで永遠のランウェイ」Kemio KADOKAWA

若い世代を中心に、注目を集めるKemio。本書は、彼の価値観、生き方、人生が、等身大に描かれたエッセイだ。

物心がついた時、両親はすでに他界していた。祖父母に育てられ、ベイブレードより、おじゃ魔女ドレみが好きだったという幼少期。いじめられた小学生時代。中学生になり、出会った親友の存在。やりたいことを叶えるために必死だった高校生活。そして、アメリカ留学で得た、新たな価値観。

Kemioのいつも通りのテンポ、口調で語られる文章から感じる、底抜けた明るさに救われる読者は多いはず。

ネガティヴな面があるからこそ出てくる、ポシティブな発言からも、前向きに生きるきっかけを与えてもらえる。

自分の価値観、自分にとっての普通を、人に押し付けていないだろうか、と考えさせれられた。

若者のみならず、幅広い世代に、是非とも一度、彼の価値観、独特なワードに触れてみていただきたい。


「セカンドID」小橋賢児 きずな出版

かつて俳優として活躍していた著者は、2007年、突如世界から姿を消した。

死の淵をさまよった、その先に見た景色とは何か。なぜ彼は復活し、「ULTRA JAPAN」のクリエイティブディレクターとなることができたのか。

「人生の転落や偶然の出会い、生きている中で起きるさまざまな想定外の出来事から、それまで知らなかった『もうひとりの自分』というアイデンティティに出会うこともある」

新しい自分のアイデンティティ。それを著者は、「セカンドID」と言う。

本書のなかで、特に印象に残った言葉がある。

「その出来事があったからこそ見えた景色や出会えた感情があることに気づく」

そうか、「出会い」というのは、人や景色だけにあるものではないのか。感情も出会うものなんだ。

「出会えた感情」この言葉は、とても素敵だと思った。

著者は、みずからの半生を赤裸々に語り、示唆に富んだ言葉を与えてくれる。

読後はきっと、「もうひとりの自分」に出会うきっかけを得ているはず。



「サードドア 精神的資産のふやし方」 アレックス・バナヤン 東洋経済新報社

アレックス・バナヤンは、どこにでもいる普通の大学生だった。

大学1年生のとき、彼は自分の人生に疑問を抱き始めた。ー既定路線を歩く人生。

本当のところ、自分は何に興味があり、どう生きたいのか。

彼は考えた。

ビル・ゲイツは、いかにして大富豪となり、世界で最も寛大な慈善家となったのか。かつて、その才能を認められなかった、スティーヴン・スピルバーグはどうやって、ハリウッド史上最年少で、大手スタジオの監督になれたのか。19歳のレディー・ガガは、ウェイトレスをしながら、どうやってレコード契約をするにまで至ったのだろう。

図書館に通い詰めたが、そこに答えはなかった。

そのとき、アレックスの頭に、ある考えが浮かんだ。「誰も書いていないのなら、いっそ自分で書くのはどうだ?」

そんなのバカげてる。知名度もなく、何者でもない自分が成功者にインタビューをして、本を書く?

多くの人は、その考えを頭から消し去ってしまう。しかし、アレックスは違う。彼は、その考えを実行した。やがて、多くの成功者たちとのインタビューを成し遂げる。彼は何者かになった。

一筋縄ではいかない、その過程から、読者が得るものは少なくないだろう。

サードドア。その入り口は、確かに存在している。ひたすら進み、転んでも立ち上がり、傷つきながらも駆け抜けたその先に必ずある。


「そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常」  早川史哉 徳間書店

早川史哉。彼は学生時代から、一眼置かれる存在だった。その光るサッカーセンスは、プロも注目するほどであった。やがて、彼は大学を経て、アルビレックス新潟へと入団する。

順調にステップアップをしていたそんな矢先に、彼を病が襲う。下された診断は、白血病。

本書には、彼の恵まれたサッカー人生と闘病の日々が、包み隠されず記されている。

悩み、苦しむなかで、決して逃げずに、自分自身と向き合う姿は、リスペクトに値する。

やがて彼は、じつに1287日ぶりに、Jリーグのピッチに戻り、プレーをした。白血病によって蝕まれた心と体を、プロとして通用する状態にまで回復させるのは、並大抵の努力ではなかったはずだ。

彼の存在は、サッカーを愛する人たちにとって、誇りである。

想像を絶する闘病の過酷さと、どれに負けない強さに読者は圧倒されるだろう。


「魂の燃焼へ」  執行草舟、清水克衛 イースト・プレス

自分自身の薄っぺらさを思い知らされ、無性に悔しくなった。同時に情けなくもなった。ただ、それ以上に、新たな視点を獲得できたことは、何ものにも変えがたい。

本書のなかでは、生命論をベースにさまざまなことが語られている。そのなかでも、読書に対する姿勢には、深く感銘を受けた。

ハウツー本が飛ぶように売れるなか、執行氏は、「読書は『答え』ではなく『問い』を見つけることが大切」だと言う。さらに「自己に対する問題提起、疑問、それから人生でどんなことに体当たりすればいいのか、何を考えればいいのか。その材料をもらうのが読書」と述べている。

人生=問。

多くの問いをもち、考えることで、その人自身の人生に奥行きが出る。

また、読書の根本は「哭(な)くために読む」ことであり「本を読むことは、自己の独自性を築き上げること。要は個性を築き上げること」だと解いている。

「哭く」というのは、感情、魂が震えるといった意味であり、哭くことで自己のアイデンティティは、強烈に揺さぶられる。

読書の目的、向き合い方などを、改めて考える良いきっかけとなり、読後は、著者のエネルギーをほんの少しかもしれないが、受け取れた気がした。


「異端のすすめ」橋下徹 SB新書

大阪都構想実現に向けて奔走した著者が異端の道を示す。

著者は、これから求められる能力のひとつとして、「インプットしたことを自分の頭で考え、持論を打ち出せるようになること」を挙げている。

持論とは何か。そえは人から間違っていると言われても、「それでも自分はこう考える」と言い切れるものである。

真偽はどうあれ、それに対して自分の考えを持ち、さらに自分の独自性を加える。そうすることで揺らがなくなる。

もうひとつ、持論を持つことと同じくらい大切なことがある。それは、目標を達成したいと思うときの、「理由」と「具体的イメージ」だ。これについては、本書のなかで著者が印象的な選挙戦のエピソードを語っている。

大事なのは今このとき。納得できる人生を歩むために、みずから、異端の道を開拓していこう。


「ZERO to ONE 君はゼロから何を生み出せるか」  ピーター・ティール NHK出版

冒頭、滝本哲史氏(「僕は君たちに武器を配りたい」著者)の序文を読んだだけで疲れた。本書に秘められているパワーを、ひしひしと感じ、ポシティブな予感を抱いた。

個人的には、本書のすべてを理解し、それを自分のものにするのは、難しそうだと思った。少なくとも、今の自分には難しいと感じた。

それでも強烈な何かを感じ、いつの間にか興奮している自分がそこにいた。

本書のキーワードは「独占」。著者は、「競争」ではなく「独占」の重要性を一貫して語っている。

圧倒的マイノリティであり、リバタリアンの位置をとる著者の思考、定形外の常識に触れることに価値がある。

世の中には、まだ誰も気付いていないこと、やっていないことが山ほどあるはずだ。そこに独自のチャンスがきっとある。ゼロから何かを生み出すヒントがここにある。


『「幸せ」を掴む戦略 開く人 富永朋信 答える人 ダン・アリエリー」 日経BP

マーケティングのプロフェッショナルが、行動経済学の権威に問う幸福論。本書は対談形式となっている。この場合、聞き手の質問力が重要となり、答える側から、いかに示唆に富んだ言葉や、本質的なことを引き出せるかが鍵となる。しかし、それに関しては心配無用。本書は、新たな視点と思考を、読者に与えてくれる。

「オートノミー(自分のことは自己決定できる自由)」が人間の幸せの最大の源泉である」という仮説を元に繰り広げられる2人の会話は、非常に興味深いものとなっている。

人間、社会にとっての幸せとは何なのだろうか。

例えば、「一般的に企業には成果だけで従業員を評価する文化がある」という問いに対してダンは、「『結果』ではなく『過程』に報いること」が良いアプローチだと言う。結果を評価するのかは簡単であり、プロセスを評価することこそが、難しくはあるが、正しいことだと解く。

ここで読者は、結果がすべてではなく、過程にこそ価値があると気づかされれるか、もしくは再認識させられる。

一見、幸福と行動経済学は、関係なさそうに思える。

しかし実は、人間、社会の幸せに大きく影響を与えているということを、認めざるを得ない内容となっている。


「超訳 ダ・ヴィンチノート 神速で成長する言葉」桜川Daヴィんち 飛鳥新社

レオナルド・ダ・ヴィンチという名前を知らない人は、ほぼ皆無に等しいだろう。しかし、ダ・ヴィンチについて、あえて深く知ろうという人は、意外と少ないのではないだろうか。

本書の著者、桜川Daヴィんち氏は、膨大な量の資料を分析し、その思想をビジネスに転用するコンサルティングなども行う。おそらく日本一ダ・ヴィンチに詳しい人物だろう。

著者は、以下の7人を融合した人物が、ダ・ヴィンチだと言う。

スティーブ・ジョブス、スティーヴン・スピルバーグ、山中伸弥、菅田将暉、ホリエモン、宮崎駿、安藤忠雄。この錚々たる人物の名前を見て、直感で、強烈に、本書を読むことで、自分自身の人生の幅が広がる予感を抱いた。

本書では、ダ・ヴィンチが書き残したノートのなかから抜粋した言葉を著者なりに解釈し、その真意を分かりやすく説明してくれる。

個人的には、「食欲がない状態で無理に食べると健康を損なうように、願望のない学習では覚えられず、学んだことも定着しない」

「あなたが親交を望むときは、その人の学習態度を見て選択するといい。あなたにいろいろなことを考えさせる関係は実りが多い。その他の親交は、どれも有害となろう」など、絵画論、学習論、対人関係について書かれた。アシュバーナブ手稿がとても気に入った。

今に至るまで語り継がれるには、それなりの理由がある。人生において、大切なことは、ダ・ヴィンチが教えてくれる。


「シリコン・バレーのレジェンド ビル・キャンベルの教え 1町ドルコーチ」  エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル  ダイヤモンド社

ある業界では、決して唯一無二とは言い難いが、別のある業界では、誰もが求める黄金色に輝くお金となることがある。

例えば、アメフトのコーチを務めていた人物が、ビジネスの世界に入るや、シリコンバレー中の成功者に慕われるレジェンドになるなんてこともある。

ビル・キャンベル。シリコンバレーで彼の名前を知らない人はいない。

スティーブ・ジョブスが、自らの会社を解雇され、後に復帰し、会社を立て直そうとしたとき、その陰にはビルがいた。アマゾンのジェフ・ベゾスが、CEOの座を退かせられる危機にあったとき、その考えにはっきりとノーと言い、ベゾスはCEOとして留まる必要があると言ったのもビルだ。

シリコンバレーの天才たちは、困難に陥ったとき、こう考える。「ビルならどうしただろう?」

ビルは、彼らの最高のコーチであり、リーダーであり、親友だった。

本書は、グーグル元CEOエリック・シュミットをはじめとした、グーグル幹部らによる共書である。彼らは、2016年に亡くなったビルの教えを後世に残し、シェアしなければという想いから、本書の執筆に至ったようだ。

ビルは何よりも「人」を大切にしてきた。「人を大切にするには、人に関心を持たなくてはならない」ビルはこう言って、言葉よりも行動で示した。そして、周りの人々に対して、誰よりも強い愛情を注いだ。いつも、誰に対しても親身であり、厳しいことを臆せずに伝え、挑戦を促した。

本書を手にするということは、ビジネスの世界において最も偉大なコーチからの教えを得られるということであり、その教えをいつでも、何度でも受けられるということだ。

ビルの教えは、人肌脱ぐ勇気を与えてくれる。よりよい強いチームであるために、トップに立つ者のみならず、ビジネスに関わる全ての人に読んでもらいたい一冊。


あとがきにかえて 〜塀の中から見たコロナ〜
前回の記事を投稿した数日後、記事の代筆をしてくれた友人から手紙が届きました。数人からのいいねやフォローといった反応があったと聞き、正直驚きました。ほんの少しでも、自分の言葉が届いたのだと思うと、ただただ嬉しかったです。読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました。
話は変わりますが、ここで、僕が最近感じている事と、刑務所での出来事を書こうと思います。
まず、最近よく考える事として、世間を騒がせている新型コロナウイルスに関する事があります。空前のコロナ禍と叫ばれている現状、刑務所に収監されているというのは、幸か不幸かどちらなのだろうか。
刑務所は、世の中から隔絶されており、文字通り別世界です。それゆえ、今のところコロナとは無縁です。とはいえ、職員の方たちは外から、職場である刑務所に出勤しているわけですし、感染のリスクが全くないわけではありません。ですので、僕たちも普段からマスクの着用を義務付けられています。
ですがやはり、外の世界で生活している人たちと比べると、断然安全な環境にいるというのは事実です。そういう面では、現状刑務所にいるということは、幸と言えるのかもしれません。
しかしその一方で、このコロナ禍をリアルに経験していないというのは、この先の人生を生きていくうえで、自分にどのような影響を及ぼすのかと考えます。この時代を生きる人間として、重大な欠陥となるのではないかと思う事もあります。
世界が手を取り合い、ひとつになってこの危機を乗り越えようとしているときに、僕自身は何もできない。その現状に疎外感を抱くこともあります。そう考えると、不幸だと思うこともあります。なんというか、とてもやるせない。
僕を含めた受刑者たちは、現在のこの世の中を唯一、客観的に見ることのできる存在なのではないかと思います。刑務所には、ラジオやテレビ新聞もあります。雑誌などの本を買うこともできます。それらの媒体を通して日々思うこと、それは、皆必死だということ。そして、人類の尊さを強烈に感じています。
著名人やアーティストなど、多くの人たちが、みんなが前を向けるようにSNS等を通して、メッセージや動画を届けたり、ライブの無料公開などといったアクションを起こしています。おそらく、それに励まされたという人も多いことでしょう。一般の人たちの間でも、できるだけポジティブに、モチベーションを高く保てるように、家族、友人同士で支え合っているのだと思います。僕はそこに、人の温かさと強さを感じます。
このような反応を、心理学的には「絆・思いやり反応」と呼ぶそうです。ストレス反応の一種で、人は自然災害や今回のような危機に陥ったとき、お互いを思いやり、新たな絆を芽生えさせます。大規模災害の後は、結婚する人が増えるというデータもあるそうです。
実は、このような反応は、刑務所にまで及んでいます。みなさんは「ぺぺ」という女性2人組の歌手をご存知でしょうか。刑務所アイドルとして知られ、今まで、20年間に渡って500回以上刑務所コンサートを行なっている方です。そのぺぺが先日、居室配信型コンサートと題して、僕たち受刑者に歌を届けてくれました。
彼女たち自身、このような状況で仕事が激減してるにも関わらず、僕たちに少しでも元気を与えられたらと、事前に撮影した映像を届けてくれました。素晴らしい方たちだなと思うとともに、とても元気をもらえました。
少し長くなってしまいましたが、最近の心境と出来事を思いのままに書いてみました。今回も拙い文章で、読みづらいところもあったかと思いますが、何か一冊でも、一言でも、読者の方に届いていれば幸いです。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


真津由宇

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