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「素人」の「専門知」?

"lay expertise" という言葉があります。"lay" とは "professional" の反対語、つまり「素人の」「専門家でない」という意味を表し、"expertise" とは「専門知」「専門性」を表します。この2つの単語を合わせると「素人の専門知/専門性」という意味になり、語義矛盾を感じさせるような奇妙な言葉です。

ですが、社会学やその他の分野では、この言葉が注目を集めてきました。私達「一般市民」が日常の生活の中で身をもって経験し学んできた様々な「知」は、科学者・医師・技術者などの専門家からしてみれば、不完全で取るに足らないものになるのかもしれませんが、近年では、こうした「素人知」が非常に有用な社会資源になっているのです。

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例えば医療の世界では、時として自分の主治医の言葉以上に、同じ病気を持つ患者会の仲間からの言葉が大きなヒントになり力になるということが、しばしばあります。同じ目線で、同じ温度感で語られる言葉から、時として勇気づけられ、また時として重要な発見が得られているようです。専門的・体系的な学習をしてこなかったけれども、身をもって何かを経験してきた人々が語ることには、活字の情報から専門性をつくりあげてきた「専門家」の発する情報にはない重みがあるのです。

SNS や個人のブログなどで発信される体験談や食レポなどにも同じようなことが言えます。私たち読者は、情報の発信者が必ずしもプロの評論家や記者でないことを知ったうえで、その信憑性も始めから不確かなものと知ったうえで、それでも情報を自分の判断材料と一つとします。

昨今の世の中、テレビではたくさんの専門家が、専門的な見地から情報提供をしていますが、そうした中で私たちは知らず知らずのうちに、高所からの見解の方に偏ってしまい、当事者のリアリティから遠ざかった物の見方に入り込んではいないでしょうか。どちらが良い、という二者択一の問題ではなく、"lay" が語る言葉にも耳を傾けることも大切にしていきたいですね。

さらに詳しく "lay expertise" について知ってみたいという方、以前、私が著しました小著を載せておきます。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kantoh1988/2007/20/2007_20_108/_pdf/-char/ja

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