合気道マニアック本解説『近代武道・合気道の形成「合気」の技術と思想』著:工藤龍太
この本は「合気」とは何なのか?問題へのある時点までの解決を目指した本だと思う。
著者の工藤龍太氏は合気道関連の論文をいくつも発表しており、その集大成的なものがこの本になる。なんといっても他では見られない資料が参照されているのが見どころだ。
特に常人には判別不可能とすら思える竹下勇の稽古ノート『乾・坤』をほぼ解読してまとめあげてあるのは流石としか言いようがない。
ちなみに定価は5000円くらいだったのに今や3倍くらいの値段になってしまっている……。
基本的に「合気」が何を指しているのか?は時代によって変わっており、各時代ごとにその使われ方を学術的に分類しているのがこの本の凄さだ。
三つの合気
合気ということは時代とともに変遷していっているのだが、詳細をいちいち説明するのは難しいので、ざっくり合気道をやってる人にとって興味がある段階でいうと三段階くらいに別れる。
剣術や柔術といった大東流の武田惣角が現れる以前の「合気」と、武田惣角以後の「合気」、そして植芝盛平にとっての「合気」。
そういったことをデータによって明らかにしているのがこの本のメインテーマだ。
①状態としての合気
惣角以前の剣術、柔術などの近世の伝書にある「合気」はほとんどの場合、陥ってはならない拮抗状態のようなものとされている。
相手と自分の気と気がぶつかり合って膠着する、居着く、停滞するのを「合気」としていたようだ。
例外的にこうした合気の状態を逆に利用して勝つ方法を考えていた流派もあったらしい。
②術としての合気
大東流の武田惣角が「合気」を一体どのような文脈で使っており、どこで初出したのかを膨大な資料を基に検討されている。
武骨居士の『合気之術』や古屋鉄石の『気合術独習法』といった本からは概ね「先を取る」ための技術として解説されていたようだ。
大東流教授代理の佐藤完実が発行したテキストにも同じような意味で「合気」が出てくるため、大東流の合気は先の先、後の先などの先を取る技法として発展したのだという。
③精神としての合気
盛平と惣角の両方から大東流合気柔術の教授を受けていた久琢磨は著書『女子武道』で「呼吸(合気)を入れる」といった記述をしている。
盛平は合気を呼吸とも考え、また『武道練習』では入身転換法合気、『武道』では今でいう呼吸力養成法を気力の養成としているなど、合気を置き換えていった痕跡があるようだ。
さらに盛平は黄金体体験などから悟った「武は愛なり」という真理から「合気」とは「愛気」だと言う思想的な方面へと変えていく。
これは大東流を大東流合気武術へと名称変更させた出口王仁三郎の思想をさらに反映させていった結果なのかも知れない。
まとめ
そんなわけで、「近代武道・合気道の形成「合気」の技術と思想」はよくある「合気」とはなんなのか?という疑問を膨大なエビデンスで解決しようとした本になっている。
とにかく参考にされている資料が非常に興味深いものばかりだった。
読んだ感想としては「合気」も時代と共に変化しているわけで、現代の「合気」はより複雑化しているように思える。知らんけど。
良い本なので復刊したり電子書籍になったりして欲しい。
マツリの合気道はワシが育てたって言いたくない?