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ギャンブルに依存する人たち

札幌もようやく雪解けの季節。まだ歩道は雪道だけれど車道は雪がなくなり、ドライな路面になってきたので、今日は今年初めて自転車で出かけた。

自動車がない我が家は、公共交通機関以外は両足と自転車しか交通手段がないので、自転車に乗れるようになると行動範囲が一気に広がる。冬の間は近場で済ませている休日の朝食も妻と二人で自転車に乗って少し離れた札幌競馬場の近くのカフェへ。

ついてみると入口に張り紙。リニューアル工事中で閉店していた。
近くにカフェもないので、どうしようかなと思ったけれど久しぶりに札幌競馬場に行くことにした。

競馬場に行ったのは本当に久しぶりだ。いつ以来か思い出せない。
土曜日の1レースが始まる前の競馬場のフードコートでパンケーキとミルクティーを買って、雪で埋もれたパドックを眺めながら食べる。

土曜日の1レースが始まる前の札幌競馬場。もちろん雪に埋もれた札幌で馬が走っているわけではなく、競馬中継がターフビジョンで流れているだけの、閑散とした空間。

そんな土曜日の早朝の競馬場にいる人たち。
老夫婦、わけありげな歳の差カップル、一人で新聞紙を睨みつけるベテランギャンブラー。


土曜日の朝、最初のレースが始まる前から馬の走っていない競馬場に入り浸るギャンブル依存の人。



25年前の私のことだ。

高校時代から競馬にはまり、札幌市内の自転車で行ける場所に競馬場があるというのが札幌の大学に進学したほとんど唯一の理由だった。土曜日の朝から競馬新聞をもって競馬場に入り浸るロクでもない大学生だった。そういえば、当時は大学生が競馬をやるのは違法だったと思うけれど、未成年が酒を飲んでも誰も何も言われなかったように、25年前はそんなことは誰も気にしていなかった。そんなおおらかで自己責任にあふれた平成の世の中で青春?を謳歌していたあの頃。

ギャンブラーは未来を予測しようとする。そんなことができるはずはないのに、それができると思う時点で病気だ。

そしてその根拠の薄い未来予想のほとんどは外れるのだけれど、たまに当たることがある。それは自分の予測が当たったというよりもたまたまなのだけど、「自分が見た未来が実現する」というのは神の領域であり、自分の力でそれが達成されたと感じたときの万能感、快感が賭博者とばくしゃたちを深い闇に引きずり込む。

大した努力をせず得られる薄っぺらく根拠薄弱な自己肯定や達成感、幸福感。それを得るために賭博者たちは自分の身を亡ぼすまでギャンブルにはまり続ける。私の周りにも他人のお金を使いこみ、消費者金融でお金をかり、身動きができなくなるまで賭け続ける人がいた。

私がそこまで深い闇にはまり込まなかったのは、多分運がよかったのだろう。サラ金に金を借りるという発想がなかったし(そのかわり競馬代を稼ぐためのバイトに明け暮れる苦学生だったけれど)、はまっている割に競馬を研究する努力はたいしてせず、その結果大した成果を上げられないギャンブラーだったので大勝ちも大負けもせず、ただただバイト代がなくなるだけという大学生活だった。就職してから会社の先輩に競馬を心から愛する東大卒のクリエーターがいて、一緒に仕事をする機会があったけれど、彼は一口馬主をしながら北海道の牧場に自分が馬主になった仔馬を見に行ったり、自分の馬の餌代を稼ぐために競馬をしていてた。そのくらいのお金は本気で研究すれば稼げると彼は言っていたけれど、私にはそんな知能も情熱もなかった。

就職してからも先輩に言われて休日出勤中に会社の近くのWINS汐留に馬券を買いに行ったり(昔はみんなそんな風に働いていた)、札幌に異動になってからも夏競馬がはじまれば札幌競馬場に行ったりしていたけれど大学生のころのように熱中することもできず、いつしか全然馬券を買わなくなった。昔は未勝利の馬の名前まで知っていたのに今は現役の競走馬の名前を一頭も言えない。

結局のところ、社会人になって仕事で必死に努力してそれで得られる達成感、努力が報われる感覚の中毒になってしまい、賭博で得られる疑似的で表面的な快感では満足できなくなってしまったのだと思う。

その意味では心の深いところまで届く仕事中毒はギャンブル中毒と同じくらい危険な依存症だ。仕事で得られる評価は正当なものとみなされて他者からの評価も報酬も正当なものだとされるため、仕事依存症のほうが根が深く、人生を狂わせるリスクも大きい。体調や心を壊すまで働く人たち、家庭を崩壊させる人たち、そんな先輩、同僚をたくさん見てきた。


何かに依存せずに生きる。

それは言うほど簡単なことではない。
ギャンブルに依存している人、
仕事に依存しているエリートサラリーマン、
家族に依存している家庭人。

私たちは、みんな同じくらい病んでいるのかもしれない。







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