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あいまいさに耐える力

2週間前に職場で突然意識を失い救急車で運ばれた。

脳梗塞を疑われMRIで脳を検査されたけれど、異常なし。心疾患の可能性もあるということで心電図をとったけれどこちらも異常なし。

今日は検査第三弾、脳波の検査を受けて来た。予想していたけれどこちらも異常なし。ただし、脳波は継続的に検査する必要があるということでしばらく経過観察を続ける必要があるようだ。

倒れたときに全身硬直やけいれんがあり、症状としては「てんかん発作」が疑われる。クリニックの先生によると、一度だけ発作でその後発生しない人も多いということで5年での再発率は35%くらいとのこと。逆に言えば5年くらいは再発する可能性があるということだ。

私は幸い車を運転しない純粋なペーパードライバーなのと、風呂にも入らないシャワー派なので、自動車運転中の交通事故や浴槽で溺死する可能性はないと思うけれど、ロードバイクで走っている最中に発作が出たらただでは済まないだろう。でもそれを言い出したら駅のホームとか階段とか、町にも山にも危険がいっぱいでどこにも行けず、何もできなくなるので、そのうち発作が起こるかもしれないけれど、それでもいつも通りの生活を続けることになる。

5年での再発率35%。それが高いか低いか分からないけれど、私にとってはデジャブを感じる数字でもある。

私は25歳でがんになり、手術と化学療法で死ぬほどつらい思いをした。顔の少なからぬ範囲と顔面神経を切除し、超大量に流し込まれた抗がん剤で血液はほとんど燃え尽き、輸血しながらなんとか生き延び、髪の毛どころかまつげも眉毛も1本も無くなるまで毛根も燃え尽きた。

そして闘病よりもつらいのがその後だ。再発に向かい合いながら生きる普通の生活。私は5年生存率は60%~70%と言われていたので、ちょうど今の5年の再発率35%と同じくらいだ。がんの時は生存率なので、てんかん発作が繰り返す確率とは重みが違うとは思うけれど、それでもいつ再発するか、と思いながら5年、10年という単位を生きるのは正直簡単な話ではない。

ようやくがんの再発のことを気にせず生きられるようになって(と言っても今でも頭によぎるけれど)いたのに、今度はてんかん発作が起こるかもと思いながら生きることになるとは。人生何が起こるか分からないけれど、まあそんなに色々と余計な心配事を増やさないでもらえないものかと自分事ながら思う。



「ネガティブケーパビリティ」という言葉がある。

「課題解決力」と逆の力で解決できない対処のできない事態に耐える力のことだ。人生では自分でどうにもできないことがたくさん起こる。課題解決力では解決できないことが自分の身に起きたとき、それに耐える力。解決できない問題をそのままにしておく力。不確実性が高まる世界では、課題解決力よりもネガティブケーパビリティが必要となるといわれる。

そして、病気になるたびそんな力が人生でも必要とされているのだと思う。
私にとって、人生とはそんな風に解決できない問題をあいまいなままにして耐える道のりだ。別にそのことに対して何ができるわけでもないし、解決もできない。そのままにしておくしかなくて、モヤモヤしたままだ。それに腹を立てても何も解決しない。ただそれをそういうものとして、ただ生きるしかない。

そんな、あいまいさに耐える人生。

でも私は思う。白か黒かの人生、成功か失敗かの人生、そんな人生なんて初めから無いのだと。人生のあいまいさに耐えられない人たちがはっきりさせたくて白だ黒だ、正義だ悪だ、あいつがダメで自分が正しいと言っているだけなのだろう。

あいまいさに耐える力。
その力で、まだしばらく続くはずの、あいまいな人生を生きていこうと思う。







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