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よ(高) ねづ、よ ね(高)づ、よね づ(高)、ヨネヅ、YONEZUと唱え続けた夏休み ー「米津」のアクセント調査における結果報告とその考察ー

 7月下旬、大学の言語学のレポート執筆のために、1件のアンケート調査を行った。米津玄師(文中敬称略)の名字「米津」のアクセントの方言差に関する調査である。
 
 家族や友人、SNSなどの繋がりを頼りに聞き込みをしたところ、興味深い結果が得られた。データを公開してほしいという声を多数頂いたため(応援してくださった皆様ありがとうございました)、調査データはそのままに、元のレポートの編集版という形で結果を公開しようと思う。

 だが、結論から言うと、「なるほど!これか!」というはっきり綺麗な結果にはなっていない。加えてグダグダの考察、読みづらいかと思います。すみません。ご了承下さい。

 以下、調査の概要と結果※¹、考察※²である。

※¹今回集まった結果は日本全国のごく一部のものであり、この段階でアクセントにおける正解を示そうとするものでは決してない。あくまでこの調査内で見られた傾向ということを念頭にご覧いただきたい。これを読んで、無理に今のアクセントを直さないでください。対立の無きよう。

※²筆者、専門家や研究者、院生ではなく、今年から言語学を学び始めた者です。調査の反省や自分の知識不足を痛感しながら、何度かくたばりかけながら書きました。温かい目で見ていただけると嬉しいです。

「よねづ」のアクセントの方言差に関する調査

1. 実施期間

7月19~22日の四日間

2. 調査範囲区分

全国を北海道、東北、関東、中部、近畿、四国・中国(米津の出身地である徳島県を別カウントとし、地方の合計とは別に一県のみのデータも記載)、九州に分けた七地方区分

3. 調査人数

136人

4. 調査の動機

 インスタライブ※³で米津本人が自身の名前のイントネーションが定まっていないと言及したことから、実際分布はどうなっているのだろうと調査への興味が湧いた。

※³6月21日インスタライブ、「自己紹介ではよ(高)ね(中)づ(低)と言うけれど、自分の名字はあまり多くなくて、佐藤や田中、高橋のようにイントネーションが固定されていない。徳島に住んでいたときも、よ・ね・づそれぞれの音が上がる3パターンがあり呼ばれ方は人によってバラバラだった。話しているうちに、さっきもどのアクセントで言ったか分からなくなった。」という風に話している。彼が言うには、徳島にいた頃は「ね」で上がって「よ・づ」が低い呼び方が7割近くを占め、残りの3割が他の2パターンだったという。

5. 結果(調査データ)

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※⁴各地方の集計結果を人数で示した。
 パーセントを使わなかった理由としては、地方毎に回答率が大幅に異なる中で一律に割合を求めることは難しく、また、そうして出された割合の数値が誤解を与えやすいのではないかと考えたためである。
 いや、もっとストレートに言えば、筆者が小学校の時点で算数に挫折し、表や数値に対して細胞が拒否反応を示すレベルで頭を抱えたからである。表とグラフを駆使できればもっと分かりやすく作成できたのだろうが、ちょっと無理でした。人数で限界でした。

※⁵インスタライブを聴いた時点で「そうか、3パターンか」と筆者が無意識に解釈していたため、調査を進める中で、地方毎の微妙な音の高低の違いや上がり方・下がり方のバリエーションがあることを知り、おったまげた。同じ「ね」が上がるパターンでも北海道と徳島では若干音の調子が違うだろうというもの、どれか一つの音ではなく「ね・づ」が高い(低い)もの、音階のように一音ずつ上がる(下がる)ものがあると分かり始め、これは非常に多様だぞ...と震えた。
 今回の集計では「どの位置で音が上がるか」にフォーカスした。上記のように詳細に答えてくれた方もいれば、米津の言及に沿って3パターンの中から選択(高くなる一音のみを回答)してくれた方もいるので、筆者が回答の最高音の位置に則って3パターンのいずれかに振り分けている。
 音の高低のバリエーションを地域毎に厳密に区別すれば、さらに詳細な分布図が出来上がるだろうと思われる。
 「づ」が高いパターンに関しては、(米津本人の発音から)他の二種類よりも三文字の高低差が少なく、平板アクセントと混同されやすいと判断した(よねづよねづ繰り返し言って確かめてたら、こんがらがって訳分からなくなった)。そのため、「づ」が高いものと平板の回答を今回は同枠とみなした。米津本人が平板と「づ(高)」をイコールとしたのかが定かではないこともあり、幅を持たせた区分としている。
 なお、平板アクセント(最初のみ低く、二音目以降が高く平坦に発音される。後ろに助詞を付けても音が下がらない。菅田将暉の米津呼びに近い)だが、筆者が調査時に回答例として、平板アクセントを想定しておきながら「どこも上がらない」と表記したため、いや上がるだろと思いながら「アクセント無し」で回答してくれた方がいるかもしれない。この意味でも区分基準がガバガバになってしまっていて反省しています。混乱させてしまったことお詫びします。

6. 考察

大きく三つのポイントに分けられる。

①大体「よ(高)ねづ」の傾向が強い
②全体的に、東から西にかけてアクセント位置が後ろにずれていく
③平板アクセントが用いられる背景についての考察

①大体「よ(高)ねづ」の傾向が強い

 表を見ると、近畿と九州以外の地域で「よ」の高い呼び方が最も多いことが分かる。地域別回答割合は異なるものの、何故このような傾向があるのだろうか。

 一つ大きな理由としては、米津本人がこのアクセントだからだろう。ラジオやテレビインタビュー等での自己紹介は、本人の言及通り「よねづ(高、中/低、低)」である。
 
 本人以外のその他の要因としても、やはりメディアの影響が大きいと考えられる。筆者が確認したところ、直近STRAY SHEEPからPale Blueまでの全てのメディア出演、特集において、全国放送の情報番組(「めざましテレビ」、「ZIP!」、「news zero」)で紹介される際は、「よ」の高い呼び方であった。また、2018年にテレビ初歌唱でLemonを披露した NHK 紅白歌合戦でも、司会の内村光良と櫻井翔がこの発音をしていた。
 
 「米津」は比較的珍しい名字であるが、全国的な番組で名前が紹介されれば、そこで発されたイントネーションが自然と視聴者の耳に定着する可能性が高い。例えば、筆者で言えば、名字ではないが新元号の「令和」が発表された当初は「れいわ(低中中)」だと思い、メディアで採用された「れ(高)いわ」に違和感丸出しだったが、今では後者のアクセントで話している。
 
 四国・中国(徳島県)での結果が米津の言及通りとならなかった点も、彼の上京・メジャーデビュー以前の地元の阿波弁では「よ(低)ね(高)づ(低)」が主流であったが、メディアの影響を受け今では「よ」が高い方がより浸透しているとすれば筋が通ると言えるのではないだろうか。

②全体的に、東から西にかけてアクセント位置が後ろにずれていく

 一部例外があり完璧にそうとは言い切れないが、東日本はどちらかと言えば「よ」が高く、西にいくにつれて「ね」や「づ」アクセントが多くなっているように思える。
 
 日常に結び付いた「ありがとう」にもアクセントの地域差が見られるのだが、これと同様の法則が「よねづ」にも見られる。

東京  あがとう 
名古屋 ありとう 
大阪  ありがう 
鹿児島 ありがとう 

※太字部分が高く発音される

(窪薗晴夫『アクセントの法則』(2006)岩波書店より)

地域別回答割合を考慮しつつ母数を増やせば、データはさらにこの法則に近付くのではないかと考えられる。果たしてこれがどの単語にも当てはまるのかという意味でも、非常に興味深い。

③平板アクセントが用いられる背景についての考察

 米津玄師自身の口から時々発され、今回の調査で全国で2番目に多いという結果が出た平坦な「よねづ」。仮に地域的な特徴があるとして、それを抜きにしてもこれには何か他に要因があるのではないかと考えた。「よねづ」にいく前に少々説明を挟む。

専門家アクセントと、若者言葉としての広がりを持つ平板アクセント

 「よねづ→」という風に下がり目を持たない単語の発音の仕方は、「専門家アクセント」とも呼ばれる。これは、普段から頻繁に使われる中で、元々発音の高低に起伏のあった単語が平板化して読まれるようになる現象である。具体的には、ファッション用語(パンツ、スカート、ジャケット、スニーカーなど)や楽器(ピアノ、ギター、ドラム、ベースなど)、業界用語(プロデューサー、ディレクター、アーティスト、モデル、マネージャーなど)といった特定の領域における語で、主に外来語が多い。アクセントを付けずに平坦に読むことで、その分野に精通している印象を持たれたり、同じ発音によって仲間意識を強めたりする傾向が強いという。
 
 だが、このアクセントの使用は、専門家に限った話ではない。多岐にわたる分野の単語の平板化が、若者を中心に(※諸説ある)一般層へ拡大・浸透している(若者言葉「~的な、それな、とりま、ワンチャン、ヤバみ、~くね?~じゃねetc.」も平板)。
 
 起伏よりも平板の発音がされるのは何故か。実際の発音に着目してみる。発音に起伏が無ければ、その語の発声時に喉や腹筋にかかる負担がより少ない。つまり省エネである。加えて、高低にメリハリのある喋り方よりもカジュアル・気楽(時に気だるげ)な感じがする(「米津」で言えば、語頭の「よ」が高ければポーンと耳にはっきり入ってくるが、平板だと発声に力が入らず、入りの「よ」がしっかり発音されない傾向がある。この聞こえ方の違いも、メディアでの「よ」アクセント採用に関係があるのだろうか)。
 
 こうした言い方のカジュアルさが、専門用語や外来語の域を超えて、無意識に名字である「よねづ」にも反映されているのではないか。ひょっとしたら、友人の菅田将暉や野田洋次郎、星野源による呼び方もカジュアルさから来ているのかもしれない。
 
 以上のように考えると、「よねづ」はじめ各語における個人のアクセントは、出身/居住地の方言に加え、メディアで耳にするフォーマルなイントネーションと話し言葉としてのカジュアルな風潮の両方に影響を受け、両側から引っ張られながら作られていると言えるのではないだろうか。

7. 結論

・全国的には「よ(高)ねづ」が多い(が、言い切るにはまだ早い。まだまだ調査・考察のしどころがたくさんある)。
・言語学的特徴や地域的な方言差の他に、メディア、発するシチュエーション、他の語との組み合わせ、周囲の人々の影響などの様々な要因が複雑に絡み合って個人のアクセントが形成されている。
・筆者、もしあったら、一日で最も「米津」と呟いたで賞みたいなの貰いたいと思ってる(無い)。心優しい方がいらっしゃいましたらくださると、喜びます。

8. 終わりに

 反省、(機会があれば)次に関して興味深いだろうと思ったことなどを残しておく。

・もっと勉強すれば、その分だけもっと面白がって突き詰められるようになる。
・今回は初めてで、母数を増やすためにも、なるたけシンプルなアンケートを作成した。そこで設定しなかった世代、性別、出身/居住地の別、「よ・ね・づ」全ての音の高低等、設問を詳細にしたらまた違った結果が出るかもしれないと興味深く思う。
・回答者層がファンに偏らない場合はどうなるのか?
・英語をはじめ外国語でのアクセントはどうか?
・名字単体の他、フルネーム「米津玄師」、「米津さん/君」ではどうなるか?
・後続する語によってアクセントはどう変化するか?Ex.) 米津米、米津節、米津町、米津神社、米津羊羹(「よ」アクセントの筆者が平板になる)、米津が(助詞が続く場合) etc.


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

そして、難しく感じていた言語学に興味を持つきっかけをくれた米津玄師さん、ありがとうございました。

皆さんにも、1つのテーマをきっかけに、普段無意識に出ているアクセントやイントネーションについて、少しでも興味深いと感じてもらえたら嬉しいです。

あなたの「よねづ」はどのアクセントですか?



※文中敬称略

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