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滲み

『こんな時に厳しいこと言うようだけどさ、自分で命を絶つって行為はどうしても逃げに感じてしまうんだよね。』
駆けつけた彼は自殺未遂をして憔悴しきっている私に、彼は頭の先で話すように言葉を発した。
冷静な今考えれば"彼なりの"励ましだったんだと思う。彼はやはり心が純粋だ、それと同時に色々なことを考えた末の行動だった私はそれまでの過程を否定された気がしてやはり苛立ちも覚えた。
瞬間私は弱いと言うより心の汚れた人間なんだと思い、また自分に落胆した。

その後はただひたすらに、周囲から逃げだと言われた記憶とたった今彼に逃げだと言われた恥ずかしさから必死に言葉を絞り出した。
辛いと感じる出来事は人によって違うのだからとか。経験してないのにわかったような口聞かないでとか。意図しない不幸が降ってきたとして病んで自殺を選んだ場合でも逃げだというのかとか。
励ましてくれたであろう彼の意見を押さえつけて話を続けた。
彼も必死なわたしに驚いた様子で言葉を詰まらせると、しばらくして『幸せになろうとは思わないの?』と。
しかしそれにすら苛立ちを覚えた。
なぜなら幸せになろうなどと思える余裕があるのならば私はこんなことしなかった。

私はまた必死に例え話をはじめた、私も本心なのか分からない例え話を彼は熱心に頭を悩ませながら聞いている。

「私、この世には正義と悪で割り切れることしかないと思ってたの。でもその考えはいずれ自分を苦しめた、だから私はその間に立つことにした。
それが世間が言う所謂逃げってやつなんだと思う。」
この例え話すら今湧き出した怒りと恥ずかしさを調和させるためだけの言葉だってことに私は気づいている。だけど本心だ。抽象的ではあるが私の悩みの根本はここにあるのだ。

込み上げてくる罪悪感と言い訳をしてしまう私の幼稚さがとても恥ずかしい。

私の絞り出した悩みの根本に触れようともしないで
彼は『悔しいよ。』と言った。

「何で君が悔しがるのさ?」
私は彼の反応にビクつきながらも聞き返す。
彼は深刻そうな様子で『君がもう常識が通じないレベルまで落ち込んでいるというのに一緒に生きてほしいとしか言えないのが悔しい。こんな力不足な人間ででごめんね。』

なんとも言えない悔しさが喉の奥を込み上げる。

この状況で彼の常識を押し付けてくる我の強さに恐怖さえ覚えた。
でも私の命は私よりも彼の方が大切に扱ってくれているじゃないか…と今の私の思考が彼の発言によって私自身を崩壊させていった。

人格全てを否定されたような気がした。

そんな想いは彼に言えるはずもなく、このドロドロとした気持ちの悪い感情に押しつぶされそうになりながら私は彼に、「少し頭を冷やさなきゃな〜」いつも通りの振りをしておどけてみせた。
早くこの人間から離れなきゃと本能が言う。

何も知らない彼はホッとしたように涙を浮かべて『よくそんなことが言えたな〜!!』
と笑いながら私の頭をクシャクシャに撫でた。
すぐにでも彼の手を振りほどきたいほどにそのスキンシップは気持ち悪く感じたが、そのあと二人で食べたソーダ味のアイスは皮肉にもこの人生の中で一番美味しく感じた。

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