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49 「景色」の景色、もしくは現場はいつもナマモノだと言う話

割れたり欠けたりした陶磁器の修繕方法に金継ぎというのがあるらしい。割れたパーツを漆で接着し、継ぎ跡を金粉で装飾する。ありのままを受け入れる茶道精神では金継ぎした箇所を「景色」と呼んで愛で楽しむのだそうだ。中には良い景色を見たいがために、わざと陶磁器を割って金継ぎをするツワモノもいるのだとか。
 
自然だろうが人為だろうが、およそ物質の世界に永遠とか完全などと言うものは無い。すべては変容と転移のバランスの中にある。そこで人が満足を見出す方法は、瞬間の変容を楽しむこちらの態度の中にしかない。
 
BS日テレの「おぎやはぎの愛車遍歴」に、日産GT-R開発者である水野和敏氏が出ていた。水野氏曰く「どんなに完璧に設計してみても、実際にクルマを作ってみなければエラーは発見できない(趣意)」のだそうだ。それは私の属するシステム開発の世界でも言える。以前は設計したものを上流工程から下流工程へと順番に開発して行くウォーターフォールと呼ばれる開発手法で、そこではやはり完成してしまってからエラーに気付き、膨大なコストを費やしてエラー処理をしていたのだった。しかしそれでは割が合わないと言う事で、20年近く前から、より早くエラーを発見出来るアジャイル/スクラム開発という手法に切り替わった。アジャイル/スクラム開発では短期間でPDCAを回し、かつ逐次、現場のコミュニケーションによって状況を共有し、事実の掌握とフィードバックを繰り返しながら完成形へと近づけて行く。ネットで「トヨタイムズ」を観ると、トヨタのGRヤリスはどうやらこの手法で開発されたらしい。
 
事実の掌握と言えば、サッカー日本代表の森保監督だ。試合中に監督がメモをとっていたコクヨのノートとパイロットのフリクション多色ゴールドは大人気だそうだ。監督は細やかに事実を掌握し、戦術へのフィードバックを繰り返した。そうして記憶に残る結果を生み出した。
 
その時々の変容と転移をありのままに受け入れ、次の瞬間を作り出す一手を打つ。最初の計画通りに行くなんて事は滅多にあるものではない。変化に即応できる構えが出来ているのかどうかが雌雄の決しどころだ。年末年始に「来年こそは」「今年こそは」と考える事もあるだろうが、加えて大切なのは「即応の構え」である。何があろうと「よしやるぞ」と思い直せるマインドセットを自分の中に作り上げる事。それを年末年始の作業にぜひ加えて欲しい。

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