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27 多難な子

奄美大島では夏になるとゴールデンシャワーの黄色い花が野山を彩る。この時期から、ちょっとの散歩の時間が長くなった。それまでは散歩中に2回はウンチをして、それが散歩終了の合図でもあった。それがどんなに歩いてもウンチが出ない事が多くなった。飼い主がしっかりしつけなかったせいか、ちょっとは散歩時にしかオシッコやウンチをしない。一見良い事のように思われるが、台風の時などは非常に困る。散歩に出る事が出来ず、その間もちょっとはひたすらガマンを続ける。可哀想なので徒歩で二十歩ほどの隣のおばちゃんの家の庭にある畑の小屋の軒下でさせて貰う。暴風雨の最中なので二十歩といえども結構な距離だ。
去勢をしていない中高齢のオス犬は会陰ヘルニアになりやすい。肛門の周囲の筋肉が緩み、そこから腸管が飛び出て排便が困難になる。ちょっとは6歳だ。中高齢と言うにはまだ早い気がするが、なってしまったものは仕方がない。ちょっとは市街地にある動物病院で時折摘便をして貰った。数度目の摘便のあとから、ちょっとの様子がおかしくなった。3日間、水以外に何も口にせずみるみる肋骨が浮き上がって来た。栄養価の高い離乳食を買って与えたが数回舐めるだけだ。大好きな鶏のササミは少し食べた。次の朝、元気が無いながらも散歩に出かける事が出来たのでその様子を「元気になったよ」とFacebookにアップしたら、コメントが届いた。「痩せ過ぎてる。ヘンだよ」2018年の10月末の事だ。ちょっとは発熱していた。摘便時に腸に傷がついていたのだ。翌々日、ちょっとはぐったりとして動かなくなった。車で1時間以上かかるが、以前大型犬に襲われた時にお世話になった獣医さんの所へ走った。6kg前後あった体重が5kgを切っていた。離島では対応が出来ない状態だった。ちょっとは飛行機で鹿児島の動物医療センターへ送られる事になった。「多難な子ねえ」と女性の獣医さんは呟いた。

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