松尾 憲幸
45 この国のカルマ
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45 この国のカルマ

松尾 憲幸

時事問題を扱うと話が暗くなりがちなので避けて来たのだが、上 昌広著『日本のコロナ対策はなぜ迷走するのか』を読んだので思索の一片を備忘録的に記したい。
 
タイトルに「カルマ」と言う言葉を使ってしまったが、たとえば、これまで反社会的な行いばかりして来た人が心を入れ替えて、社会のためになることをしようと道端のゴミ拾いを始めたとする。するとそこに昔の仲間がやって来て「お前何やってるんだ」とバカにする。周囲からも、どうせアイツのやる事なのだからロクでも無い魂胆があるはずだと陰口を叩かれる。そんな状況が続けばせっかくの善意も挫けてしまうかも知れない。
反対に、これまで社会に尽くして来た人が、新たに何か人の役に立つ事業を始めようとする。これまで彼の行いを見て来た周囲の人たちは、あの人が再び何かやってくれると期待し、自分も役に立ちたいと思うだろう。
 
自分のこれまでの行いのことを、サンスクリット語で「カルマ」と言う。日本語では「業(ごう)」と訳される。いざ現実の問題に立ち向かう時、これまでの自分の行いが立ち現れて来る。悪い事をして来た人にはこれまでの行いが「自分の前に立ちはだかって」問題解決の邪魔をする。良い事をして来た人の場合、これまでの行いが「自分の後ろに立って」問題解決を後押ししてくれる。
 
さて、ニュース報道では五輪へ向けて聖火が走り、病み上がりの池江璃花子が五輪代表になったと、五輪開催へ向けて着々と準備が進められている様子が伝えられている。しかし現状のこの国は、とても五輪を開催出来る状況には無い。日本へ子供を留学させている中国人の親が「日本はコロナ対策が不備だ、危険だから帰って来なさい」と子供に帰国を促すのだと言う。(上掲書より)日本国内のメディアからしか情報を得ていない人には、現実の姿が見えにくくなっている。無料で読める海外メディアの目を通して日本の姿を見れば、自国の立ち位置を俯瞰する事ができるはずだ。
 
上掲書1章の扉に記されている「現状を知り、必要なことを考える」というのが問題に向き合う際の基本的なスタンスであるが、必要なことを考えることも手を打つことも、日本という国では実は出来ていない。問題解決をしようとする我々の前に立ちはだかっている「カルマのような何か」があるのだ。それは「731部隊の亡霊」であると医学博士で医療ガバナンス研究所 理事長である上昌広は言う。亡霊とは、旧・帝国陸海軍と繋がりの深い組織の関係者で占められている専門家会議と、関東軍防疫給水部(731部隊)のDNAを持つ感染研(国立感染症研究所)つまりは感染症ムラであると。
 
島で行政と絡みながらNPO活動をしていると、「ムラ」と言う概念がよくわかる時がある。小さな離島に国レベルの事業が降りて来る。そしてそれを受託する人がいる。その時にはすでに受託者の周りには日頃の付き合いやしがらみのある人、そしてカネ目的の業者が連なっている。カネを割り振られた人や業者は親である受託者への忖度の元でしか動く事は出来ない。そこには問題を解決するという社会規範は働いていない。
 
昨年、コロナ拡大が顕著に見えて来た頃「なぜ検査数を増やさないのだ」との声が多く上がった。5月に当時の安倍首相が検査数を増やせと命じた後も、検査数が増えることが無かった。実は「感染症ムラ」が抵抗していた。上昌広自身が以前、感染症ムラの住人であった経験からその姿はよく見えるのだと言う。
 
さて、そんな国に住んでいる。数年はコロナと共存すると覚悟を決めるしかない。Facebookを通じて懇意の医者が「我々の業界では短くて3年、長ければ10年くらいとみてます。ただ、行政がこれを言えないので困ったものです」とコメントをくれた。上昌広はこう言う。「究極的にはどう自分を守るか」だと。「まん延防止等重点措置が適用される前に駆け込みで遊びに」などと寝ぼけた事を言っている場合ではない。

*今週の参考図書
・『日本のコロナ対策はなぜ迷走するのか』上 昌広  2020年/毎日新聞出版

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こそばゆい
松尾 憲幸
北海道生まれ。縁あって奄美大島で暮らしています。