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32 日日是好日

これを書いているのは12月26日で、日本列島は強い寒気の影響で日本海側では大雪や暴風雪に警戒が必要ですと、ニュースではしきりに呼びかけている。こちら奄美の朝の気温は14度で、島の人たちは寒い寒いと震えている。サロマの8月なかばの朝くらいの気温だ。
 
わが家に隣接する畑に、たわわに実ったポンカンが風に揺れているのが仕事机の横の窓から見える。季節、そう、来年のノートには、日々の記録に加えて二十四節気や七十二候、旧暦や月齢、六曜なども記そうと決めた。先人の知恵にはもちろん意味がある。生活を構成する、これらの背景を知ることは私たち自身を知ることでもあり、より良く生きるための糧でもある。

わが家の愛犬は、4月に会陰ヘルニアの再手術をした。最初の手術をしてから2年半、やはり当初、獣医師から「再発の可能性は高い」と言われていた通り、再発だった。細身で筋肉の薄い犬種はヘルニアになりやすい。術後3ヶ月までは排便もスムーズになり順調に回復していると思えたが、4ヶ月を過ぎたあたりから三たび、排便が困難になって来た。愛犬は9歳になり、これからは老いてゆくばかりだ。一方、手術のリスクはどんどん高くなり、仮に3回目の手術をしたところで、若い頃の状態に戻ることはない。今回の手術でさえ、確実な効果が出るかどうかは犬の体調次第、と言われていたのだった。このとき私は、辿り着ける当てもない遠い山頂を目指すことはもうやめようと、ある種の諦観とも開き直りとも思える心境を得た。今を否定して理想の場所を目指すのではなく、今この時を受け入れ、目の前の家族とともにある事に専念しよう。そう決めた。ぜんぶオレが引き受ける、と。苦しくなったらお前を抱っこしていつでも病院に走ってやる。愛犬チョットとオデコを合わせて「おとうちゃんはずっとお前と一緒だからな」と声をかけた。言葉は通じないが、チョットは私の思っていることをわかっているし、私もチョットの思っていることがわかる。以前は「言葉が通じたらどんなに良いだろう」と考えたりしたが、実は言葉なんていらなかったのだ。
 
今年も仕事、そして地域や家族とのつながり、趣味の仲間との語らいなどから、さまざまな気づきを得ることが出来、また新しい自分を始められた良い1年であった。
 
1年の締めくくりに、森下典子のエッセイ集 『日日是好日』 から一文を引用したい。


「世の中は、前向きで明るいことばかりに価値をおく。けれど、そもそも反対のことがなければ、『明るさ』も存在しない。どちらも存在して初めて、奥行きが生まれるのだ。どちらが良く、どちらが悪いというのではなく、それぞれがよい。人間にはその両方が必要なのだ。」
 
「私たちはいつでも、過去を悔やんだり、まだ来てもいない未来を思い悩んでいる。どんなに悩んだところで、所詮、過ぎ去ってしまった日々へ駆け戻ることも、未来に先まわりして準備することも決してできないのに。
 過去や未来を思う限り、安心して生きることはできない。道は一つしかない。今を味わうことだ。過去も未来もなく、ただこの一瞬に没頭できた時、人間は自分がさえぎるもののない自由の中で生きていることに気づく」
 
「雨の日をこんなふうに味わえるなら、どんな日も『いい日』になるのだ。」


※今週の参考図書
 ・『日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』(新潮文庫)
  森下 典子  2008年/新潮社

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