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#31 妻の愚痴

帰宅した妻の愚痴を聞くのが日課のようになっている。妻は3年前に求職者向けのパソコン教室を受講したのだが、それと引き換えに求職活動をして企業へ面接などに行かなくてはいけない。妻としてはパソコン教室の受講だけが目的だったのだが、仕方なく引き合わされた特別養護老人ホームの事務職として働くことになった。折りを見てやめるつもりだったのが、愚痴を言いつつ3年も続いている。施設側も、元銀行員でなおかつ総務職も経験している妻を重宝がっているらしい。
 
さて、妻が愚痴を言う。正社員がパートの自分より仕事をしないくせに自分より高給なのだと言う。ああそうかと私が言う。パートなのだから仕方が無いね、と。固定給の正社員が規定の時間だけ仕事するフリをするのもよくある話だ。「あなたは真央ちゃんにならなきゃいけない」と私は言った。「・・?」と妻が返す。「フィギュアスケートの選手は相手がどうあろうと自分自身の最高の演技をしようとするだろ?あなたも、誰がどうあろうと自分自身の最高の演技をすればいい」「・・でも解せない。納得いかない」と妻が言うので私は返す。「見てる人はちゃんと見てるから、やってごらん」妻は納得したようだった。
 
その話をしてから半年が経った。フルタイムで働くのは体力的にもキツいので6時間勤務にして欲しいと言う妻の要望がすぐに聞き入れられた。6時間勤務の中でも妻は、同職の正社員以上の作業量をこなしている。自分自身の最高の演技をしているのだ。ある日、厨房のリーダーからシフト調整や事務作業の補助要員が欲しいとの要望があった。リーダーの要望は「出来れば松尾さんみたいな人」であった。それを聞いた副園長が言う。「そんな人は滅多にいるもんじゃないわよ」と。見ている人は見ていたのだった。

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