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#説得力とか共感とか

システムを設計してプログラミングをし、使えるツールを組み上げるというのが本来の私の仕事だ。しかし奄美大島という離島に暮らしていて一番多いのがウェブサイトを作ってくれというオーダーだ。幸い趣味と実益を兼ねて20年以上前からデザインの研究もしていたし、中学の頃から文章を練る作業にも慣れているのでワンストップである程度の事は出来る。
 
フリーランサーにとっての顧客として多いのは、地域の中小企業や個人事業主だ。そういった顧客からウェブサイトを作ってくれとの発注を受ける。作業には流れがあって、現状の業務上での問題点などを聞き出すリサーチ、そこから必要な要件を洗い出して合意を得る要件定義、伝えるべき情報の階層を組み立てる情報設計、情報設計を表現するワイヤーフレームの作成、それから見た目づくりに入り、配色の決定、レベルごとの見出しのデザイン、画像イメージの作成をして、ようやく組み立て作業として各コンテンツの作成、コーディングをおこなう。
 
ところが相手が中小企業の社長や個人事業主だと、そういった流れを無視していきなり「一番上に孫の写真を使ってくれ」とか「親切・真心で誠心誠意」などという名有りて実無しのキャッチコピーを入れてくれなどという話になって来る。笑いながら「そうですね」「大事ですね」「お孫さん可愛いですね」などと言いながら、一応話は聞く。そこからが勝負だ。いきなり大上段から情報設計の大切さなどを説教するわけにもいかない。相手は感情の生き物なのだ。こてんぱんに打ちのめしたい気持ちは抑えてまずは笑顔で策を練る。ゼロから現実を反転させなければいけないのだ。
 
社長はどうしても自社のウェブサイトに孫の写真を使いたい。まずは社長の文脈を汲み取ることが大切だ。その上でこちらの文脈との融合点を探る。特に全体の構成に影響が出るのでなければ、モデルとして孫を採用する形で、出来るだけ解像度の高い画像を提供して貰う。あとはこちらの文脈に沿った形で配置すればそれで済む。その上で提案という形で「こうするとお客さんが使いやすいですよ」「ここの順番を入れ替えた方が見やすいですね」などと、こちらの満足へと先方を引きずって行く。
 
先方に納得して貰うために必要なことは文脈の組み立てだ。どんなに大声を出しても語尾にエクスクラメーションマーク(!)やハートマークを付けてみたところで伝わらないものは伝わらない。説得力とか共感というものはどれだけ段階を踏んだ文脈を構築できるかによる。斯くして件の社長は満足し、私は来月の生活費を得てどちらも満足なのであった。

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