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#涼しくなる話 2

愛知県にいた頃の知人、Rさんの実体験だ。
夕食を食べていると、Rさんの奥さんがしきりに隣の和室をチラチラと気にしている。和室とダイニングを仕切る襖はそのとき半分ほど開いていて、暗い和室の畳にダイニングの明かりが差し込んでいる。
「どうした?」とRさんが奥さんに尋ねると、
「ううん、何でもない」と奥さんが答える。しかしその後も奥さんはチラチラと和室を気にしている。
「そんなに気になるんだったら見て来たら?」とRさんが言うと、「わかった」と言って奥さんは和室を覗きに行った。数秒後、「Kちゃん!」と奥さんが叫んだ。「なんであんたがそこにいるの!?」
慌ててRさんも和室を覗きに行った。しかし明かりの消えた暗い部屋には何も見えない。明かりをつけてみたが、やはり誰もいない。
Rさんが「どうしたの?」と奥さんに聞くと、「ここにKちゃんがいるじゃない?!」と言うがRさんには何も見えない。Kちゃんとは奥さんの幼馴染だ。しばしの沈黙のあと、「Kちゃんのお母さんに電話してみろ」とRさんが言った。
Kちゃんは実家でお母さんと2人で暮らしている。電話をするとKちゃんのお母さんが出た。奥さんが話す間もなくKちゃんのお母さんは泣き出して、
「〇〇ちゃん、Kがね、3日前に自分で・・私は何があったのかもわからなくて」とお母さんは話した。警察による検視等がありバタバタしながらも、つい先ほどようやく通夜が済んで明日が告別式なのだと言う。
 
「Kちゃんはまだいるのか?」とRさんが奥さんに聞くと、奥さんは和室を覗き込んでから「いる」と言う。とにかく次の日の朝の電車でKちゃんの告別式会場へ行く事を決め、その晩は休んだのだとRさんは言った。
翌朝、朝食を食べながら再びRさんが奥さんに「Kちゃんはまだいるか?」と聞くと、「ソファーに座っている」と言う。
「今日はKちゃんが主役なんだからね、一緒に来なきゃダメよ」と奥さんは無言のKちゃんに言い聞かせた。
 
Rさんと奥さんは電車で斎場へ向かった。Kちゃんも一緒に電車に乗っている。
「幽霊も電車に乗るんだね」とRさんは目を丸くして私に語った。「乗車券は無くても大丈夫だった」と続けて言った。
斎場に着くと、Kちゃんの姿は消えた。無事に告別式は済み、それ以来Kちゃんは現れていない。「Kちゃんは仲の良かった妻に来て欲しかったんじゃないかな」とRさんは語った。

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