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財政赤字の神話 ステファニー・ケルトン著、早川書房 その1

#ネタバレ

MMT(現代貨幣理論)を理解する

2021年1月現在、近代史にまれにみるパンデミックによって日本のみならず世界が危機に立たされている。命を守る医療制度の崩壊危機。自粛による様々な事業への負のインパクト。これに対する日本政府の対応は相変わらず遅い。経済が大事だからと、感染症対策の強化のための財政支出を恐れ、補償給付も後手後手に回り、却って感染症を長引かせている。人々は感染症の先が見えないために消費を絞るという自分を守るための当然の行動を取るし、コロナ後に来るであろう政府の増税論に備える。

何かに似ていないだろうか。そう、少子高齢化による医療・介護費用の増加と、労働人口が減ることによる税収の減少。先が見えないからこそ、若者も老人も守りに入り、それが景気に影をもたらしている。

大学で経済学を学ぶも不良学生だった私が語りつくせるものではないが、MMT(現代貨幣理論)は今までの常識を打ち破るもので、先に挙げた様々な経済問題に有力な対策を与えると思う。まだ完全に全ての疑問に対する答えを探索中ではあるが、この本の解説を試みたい。

まず経済学では常識の「合成の誤謬」から始めると良いだろう。自分の家計を考えて、毎月の収入と住宅ローンや今後の子供の教育、老後を考えて、なるべく消費を抑えて将来に備える。個人のレベルでは当然であろう。特に今のような不確実な時代なら尚更だ。ところが、全ての家庭や、あるいは企業が同じことをした場合、当然需要が減るので、国全体としては不況になり、デフレになることもある。つまり個人が良かれと思うことが、国家としては悪いことになり、結果として個人にも悪いこととして帰ってくる。

これと同じことが、日本の財務政策でも起きている。何かに国として財政出動する、その場合に「財源」は何処にあるのか、を語らない政治家は無責任とされる。家計簿をつけている主婦であれば当然のことを政治家はなぜ語れないのかを非難される。

MMTはこの常識をひっくり返す。財政赤字は恐れる必要はない、財源などは要らないと言うのである。国債はいくら発行してもデフォルト、償還不能(つまり不渡)にはならないと言うのである。・・・そんなはずは無いだろう、と言うのが普通の反応で、事実、著者のケルトン氏も最初にMMTに触れた時は同じ反応だったと告白している。かつ、経済学者のみならずSNSなどでも大論争になっている。2018年頃から騒がれ始め、一度忘れられるかに思われたが、コロナ禍の元でますます議論されているようだ。しかしMMT、もっと言えば、国債に破綻はあり得ない(自国通貨の発行権限が政府にある国に限る)ことは、1960年代に既に様々な本流とされる学者が発言しているし、日本銀行に相当する米国の連邦準備理事会FRBの議長を務めたグリーンスパン、バーナンキも同じ発言をしている。

実は日本でも財務省が海外の国債格付会社が日本国債の格付を下げた時に正式に抗議している文章https://www.mof.go.jp/about_mof/other/other/rating/p140430.htm
で同じ見解を出している。何故国債は安全なのか。何故財政破綻はあり得ないのか。

本文の説明とは少し変わるが、お金は何処から来て、何処に行くかを改めて考えると分かる。自営業をされていて、自分で複式帳簿を付けられている方だと却って分かりやすいかもしれない。個人であれば、まず出資により現金が手元にできる。自分の貯金から出したのかもしれないし、銀行から借りたのかも知れない。いずれにしてもその元手から、経費が出ていく。

国はそうならない。まず現金(紙幣とは限らないが)を国民に金融機関経由で配る。そして税金で回収する。つまり、順序が全く逆なのである。考えてみればその通りで、普段お金を目にしているが、そこには日本銀行券として印刷されている。そのお金(通貨)がない限り、消費に回せないし、納税もできない。では国が通貨を産むときに予算が要るか。ブレトンウッズ体制下の金本位制時代であれば金の準備高がその制約だった。しかしいまは何の制約もなく国はお金を創出できる。つまりここにも合成の誤謬に近い大きな勘違いがある。

本書では、政府のバケツと民間のバケツで説明している。最初に政府のバケツに水を貯める。これがお金である。自分で作れるので、水道水を捻る程度の作業で水が貯まる。

今度はこれを民間のバケツに移す。そのうち幾らかを税金として政府のバケツに返してもらう。その状態は、政府のバケツの最初の量より少し減った分が赤字となり、民間に残った量は黒字となる。つまり帳尻がいつも合っている。裏を返すと、民間が黒字(好況)であるためには政府は赤字でないといけない。その政府の赤字が膨らんでも心配する必要はない、水道の蛇口を捻って、水(通貨)を足せば良いだけだ。 (その2に続く)


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