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2024年上半期にいち脳神経内科医が読んで面白かった本 ベスト5

今年も更新していきます。笑

第5位 学ぶ脳    虫明 元

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大脳生理の基礎研究者として第一人者である著者が、非研究者向けにわかりやすく脳がどのように学習するのか、そのメカニズムについて現状わかっていることから解説しています。

この本を読んだ理由
大脳生理の研究に個人的に興味をもったこと、また脳がどのように学習しているのかがわかれば、自分の学習に活かせるのではと思ったからです。その予想はまさしく当たりでした。

本図書はでは、まず脳のネットワークを
主に運動野や感覚野からなるsensory-motor network (感覚運動ネットワーク), 前部帯状回などからなるsalience network (気づきネットワーク)、眼窩前頭皮質や頭頂連合野等からなるcentral executive network (執行系ネットワーク)後部帯状回などからなるデフォルトモードネットワーク、海馬や扁桃体、小脳などからなるsubcortical network(皮質下ネットワーク)の5つに分けています。
そして学習を類人猿の進化に類似させ、感覚運動ネットワークを学習脳0、皮質下ネットワークを学習脳1、執行系ネットワークを学習脳2、デフォルトモードネットワークを学習脳3と定義しています。
手足を動かすことを学習脳0、短期記憶やそれの長期記憶化を担う原始的な部分を学習脳1とし、ヒトで高度に発達した執行系ネットワークを学習脳2、従来重視されていなかったひらめきなどに関係するデフォルトモードネットワークを学習脳3としているわけですね。
(もちろんこれらは相互に関連する入れ子構造になっており単独で働くわけではありません。)
Amos Tversky & Daniel KahnemanのFast & Slowに精通した方であれば、学習脳1がfast思考、学習脳2がslow思考に対応していると思っていただいて良いでしょう。
本書はそれに加えて、様々な心理学的研究を引用し、そこに著者なりの大脳生理学的な意義付けを行っているのですが、本稿では主にデフォルトモードネットワーク(DMN)について触れたいと思います。
DMNとは、特に安静時にぼーっとしているときに活性化する脳のネットワークです。脳が安静時にも活動することは1920年代、脳波がみつかってから早期にわかっていたことですが、多くの神経科学者にその役割が顧みられることはありませんでした。
しかしながら、PETやfMRIなどの放射線学的検査の進歩によって、ヒトは何もしていないときにも背景にずっと活動している脳領域があることが明瞭となり、注目を浴びることになります。これらの安静時に活動するネットワークは、Marcus E. Raichleによって2001年にデフォルトモードネットワークと名付けられました。
近年、それらの脳活動がひらめきや創造性に非常に重要であるということがわかってきました。確かに自分も、ぼーとしているときにチクセントミハイが言うようなフロー状態(強い集中状態)に入り、あれやこれやと妄想することが自身の研究活動に大きな役割を果たしていることを実感しています。

しかしながら、DMNがもたらすことはいいことばかりではありません。ぼーっと思考は当然ポジティブな方向に行くこともあれば、過去のトラウマであったり、自分の失敗にいたることもあるんですよね。こういったネガティブな思考へと誘うぼーっと思考は、自尊心の低下や不安神経症のリスクになること、集中力を阻害することがJerome Singerらの研究によって明らかになっているようです。また不安神経症の患者さんでDMNは過活動になっていることも、わかっているそうです。
私も過去の失敗を思い出して、わーっとやりたくなることが以前はよくありました笑。皆様もそういう経験ございますか?そういったDMNがもたらす負の側面をどのように制御するか、個人的には認知行動療法やマインドフルネスなどの、仏教的な思想を用いることが非常に有用だと考えています。興味がある方は上記の単語を検索してみてくださいね。また別のNoteでもこのあたりに触れたいと思います。

本書を読んで特に興味深かったのは、DMNがもたらす正と負の側面です。個人的に不安の強いひとに良い研究者が多いと思っているのですが(万有引力を見出したアイザック・ニュートンが重度の不安神経症であったことを忘れてはいけません)、DMNが彼らはヒトに比べて活発であるからこそ、Mind wonderingも活発であり、他の人にはできない柔軟な発想ができるのかもしれません。杞憂のひとは空や月が落ちてくることを心配して、周囲にばかにされたけど、アイザック・ニュートンも同じ疑問を持ったことを心に留めるべきだなと私は強く思います。
不安が強いひとをバカにしてはいけません。彼らはひとには気付けないささいなことを見出す力が高い人達だと思うのです。*1

話がずれましたが、DMNを、ぼーっとする時間を大切にすること、自由に心が惑う白昼夢のような現象を大切にすること、ただしDMNのNegativeな面を制御することの重要性を改めて再認識しました。

*1 このような書籍に興味をもたれた方は、スーザン・ケインさんのQuietという書籍もおすすめです。ぜひお手にとって読んでみてください。

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