デジタルノマドを日本で受け入れる準備 ー宮崎県日向市ー
日本ワーケーション協会、日本デジタルノマド協会(JDNA)それぞれに関わらせていただいているご縁から宮崎県日向市で行われたデジタルノマドのモニターツアーに同行する機会を得ました。参加者はバリ島、韓国から国籍はイタリア、ウクライナなど多様です。
デジタルノマド・ビザ
先日日本版デジタルノマド・ビザが発表されたように2024年は日本でもデジタルノマドがかなり意識されるようになるでしょう。
ビザの内容としては1000万円以上、6ヶ月滞在あたりがフォーカスされています。高度人材の誘致であるならもう少し期間を伸ばすことや手続きの簡素化あるいは事業面でのインセンティブなどがないと90日(=ひとつの季節)の観光ビザで十分なのではないかとも思います。このあたりはパブリックコメントや今後変更もありうるのでまた論じたいと思います。
ともあれ、ビザの新設によってこれまでインバウンドで湧いている観光地やワーケーションを積み上げてきた地域、新たに誘致に向けて動き出す地域などは検討を始めていくと思います。
日向市
今回は日向市で見たデジタルノマドたちや地域の状況を紹介しつつ、ポイントになりそうなところを考えていきたいと思います。
まず日向市はこれまでもワーケーションにも力を入れてきました。行政と民間がしっかりと進めているワーケーション先進地と言えます。韓国からの参加者に教えてもらったのですが、「ひゅうが」は韓国語で「休暇」という意味になるらしくデジタルノマドとも相性が良いと思います。
強みになる3つのS
日向市の強みや資源として大きくSurfing(サーフィン), Sushi(寿司), Snack(スナック)という3つのSが印象的でした。
日向市は宮崎県のなかでも有名なサーフ・スポットを多く抱えています。世界大会も行われるなど地域全体でサーフィンへの理解や長期滞在向けゲストハウスなど受け入れ態勢が整っています。サーファーが多くやってくるだけではなく朝サーフィンしてから仕事に向かう、仕事の後サーフィンをするなどサーフィンがライフスタイルに根付いていることも大きいでしょう。
デジタルノマドは多様ですがビーチを求めている人はやはり多く、サーフィンは鉄板コンテンツです。そういった意味で多くのデジタルノマドにとって日向は魅力的に映ると思います。聞いたところでは日向は海が(サーフィンを嗜むデジタルノマドたちに有名なバリ島チャングーなどはかなり混雑している)比較的空いているだけではなく、波を譲ってくれる人も多く、初心者もやりやすい環境ということでした。
2つ目はSushiに代表される食文化です。宮崎といえば地鶏ですが、海の食材も豊富でした。もちろんそれは魚介類が美味しいというだけではなく、漁体験や市場でのせりなどデジタルノマドたちが体験しつつ、食することもできたことはかなり魅力的なようでした。サーフィンとはまた違った海の体験は有力なリソースです。それと同時に、長期滞在となると魚だけ食べるわけにもいきません。今回も地鶏、牛肉、イノシシなど肉類も新鮮なものを食べる機会があり、魚が苦手な人だったりハラール対応が必要な人も長期滞在できそうでした。
3つ目はSnackです。これは大きくナイトカルチャーとも言えます。今回のモニターツアーの地となった宮崎県は人口あたりのスナックが日本一とも言われています。今回も夕食後に地域の人達と交流しながらスナックに行って盛り上がるデジタルノマドたちでしたが、居酒屋ともBar、クラブとも異なるスナックは不思議な場所に映っていそうでした。
こうしたスナックを日本のナイトカルチャーとして楽しむことと同時に、DJやダンスなども含めたナイトカルチャーを地域に理解してもらったり対応する(あるいは自分たちの地域では対応しないというメッセージ)ことも長期滞在においては必要になります。
転換したい3つのE
逆にこれまでの蓄積や考え方を転換したほうがよいなと思った3つのEもあります。それらはEspresso(エスプレッソ)、English(英語)、Experience(経験)です。
1つ目は「Espresso」です。日向市にもCafeや喫茶店はありましたがまだまだ本格的なエスプレッソなどを味わえる場所は(少なくとも今回は)あまりなかったように思えます。コワーキングスペースも環境は整っていますがFree Coffeeなどの整備はまだまだという印象を受けました。喫茶店カルチャーを紹介しつつも、このあたりはしっかり仕事をする、また時差を踏まえて深夜や早朝に仕事をする欧米系のデジタルノマドたちを迎えるのに見落とされがちですが重要な環境整備だと思います。コワーキングスペースではコーヒーを淹れるときに談笑したり、コミュニケーションが生まれます。コーヒーはそれ自体だけではなくこうした社会的機能もになっています。
2つ目は「English」です。今回印象的だったのは地域の人たちと英語での交流が多かったことです。しめなわ体験や漁師などさまざまな職業や経験とそこに来ていた70歳を超えた方々と単語レベルであっても会話をしたことはある意味で貴重な経験になったようでした。
ここで重要なのはネイティブレベルとかではなく少しずつで良いのでしっかりとコミュニケーションしようとする姿勢です。もちろんさまざまな場面で英語が全く通じないのは改善するべきところですが個人的には円滑すぎてもローカル色を感じられないのかなとも思います。そもそもデジタルノマドたちもネイティブではない人が多いですし、英語がネイティブレベルで通じるほうが快適というのであればアジア圏以外にも多くあります。アジア圏、日本に来ているのは文化的なところを(ある種の「冒険」として)求めている部分も少なくありません。それを知るために受け入れ側が説明のために英語の向上と同時に、デジタルノマドたちが日本語を四苦八苦しながらも?駆使するということも逆に魅力になりえるのではないでしょうか。
3つ目は「Experience」です。日向市はワーケーションの先進地としても知られています。日本国内の企業やワーカーに対して魅力的なプログラムや受け入れ態勢を練り上げてきています。ワーケーションがなくなるわけではないのでこれはこれで貴重な資源です。ポイントはこれを原資としながらもデジタルノマドはその延長にあるわけではないということを意識することだと思います。良くも悪くも研修や関係人口創出などを主眼とする3-5日間の日本型ワーケーションとも呼べるパターンがあります。一方で、デジタルノマドは90日〜180日の滞在で例えばサーフィンをする人たちは早朝から海に行くという生活パターンであったり、パーソナルスペースが確保できるような部屋の仕切り、また長期滞在での移動手段や滞在場所、自炊のための環境整備などが求められます。ワーケーションで培った官民の協力体制や自分たちの地域の強みなどを活かしつつ、デジタルノマドに向けて発信or適応するところを洗い出すことがまずは必要になるのではないでしょうか。
コミュニティ・ファースト
今回は宮崎県日向市での事例から見えてきたことを考えてみました。今回3つのS、3つのEに共通するのは「コミュニティ」です。長期滞在するデジタルノマドはそのコミュニティが形成できそうなのか?また誘致の面で考えてもコミュニティにいる仲間を誘ってもらうことが何よりのPR、マーケティングになります。一方でその地域のコミュニティとのジレンマもあるでしょう。これまでの地域の文化や習慣とどれくらい融合するのか、などは日本だけではなく海外も含めてまさに検討されているところになります。
今回挙げたポイントは他の地域に当てはまることも多いのではないでしょうか。もちろん、サーフィンやナイトカルチャー、これまでのワーケーション経験、地域的な条件などで異なる部分もあるので今後もさまざまな地域についても調べてみたいと思います。
もし一緒に考えたい地域がありましたらお気軽にお声掛けください!
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