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彼女に降る雨

ロック歌手宮本浩次のソロ3作目であるアルバム「縦横無尽」に収録されている、
「rain-愛だけを信じて-」

このうたを初めて耳にしたのは、アルバムリリースの直前、プロモーションにために執り行われたYouTube生配信だった。

「女性になりきって」と前置きしてうたった、女性を主人公にした楽曲。
「男性もいっしょなんだけど」と断ってもいたが、私にはこのうたが男性ロック歌手により「おんな唄」としてうたわれたことに大きな意味を感じる。

幸いなことに私は二十数年間公務員として働く中で、待遇の面で不公平を感じることなく、仕事のチャンスも十分に与えられてきた。それでも、ゆるやかではあるが、性的役割分担に不条理を覚えもした。
笑わないことを指摘されて、女だからと殊更に笑顔を求められるようで、「それ、男の人にも言いますか?」と反発したこともある。

〈「ゆく」とか「ゆかない」とか
訳のわからぬたわごとばかり溢れてる世間の中にあって〉
わきまえているとかいないとか訳の分からないモノサシで値踏みされる同胞たちの悔しさを想う。

〈きみを抱きしめたいこの胸の中に
わたしの全てを捧げたい〉
という詞。
〈わたし〉に対して〈あなた〉でなく〈きみ〉であることが新鮮だ。なんとなく、よりフラットな関係性を感じる。

彼女が求めるのは特定の「きみ」に愛されることではなく「大切なだれかを抱きしめる自分であること」のように思える。
このひとの求める愛は、男性から与えられるものではなく自らが与えるもの、愛されるよりもだれかを愛したいという願いに聴こえる。
〈明日を誰かのために生きられるように〉
が〈たったひとつの願い〉である「彼女は買い物の帰り道」の彼女を連想した。

〈街にheartに〉降り続く雨は、冷たく彼女を阻むものであろう。
しかしそれは彼女を潤し、耕し、いつか花を咲かせる糧となるのだ。

〈時代の所為にしたくない わたしの明日を〉
〈誰かの所為にしたくない わたしの未来を〉

このうたをうたってくれてありがとう。

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