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気持ちが改まるおりんの音色

庭園が美しく見えるよう設計された護松園「書院の間」では、四季折々の植物たちの表情を楽しむことができます。そこに風が吹くと、なんとも気持ちが良い澄んだ音が部屋に響きます。音の正体は風鈴です。
この風鈴「REN」は京都・宇治市で「おりん」を製造する「南條工房」の新しいブランド『LinNe』のもの。

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「おりん」と聞いてもすぐにピンと来ない人もいるかもしれません。
お仏壇に置かれている「チーン」と鳴らす梵音具、一度は触れた記憶があるのでは。あれがおりんです。

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南條工房は創業から190年余り、今も手作業でおりんを製造する国内でも数少ない工房。
おりんの他に、祇園祭をはじめと祭で使用される囃子鉦など「鳴物神仏具」を製造しています。
南條工房のおりんの1番の特徴は、その澄んだ伸びやかな音。
言葉で説明するのはとても難しいですが、聞けば誰もがうっとりしてしまうような音です。その音色をもっと身近に、日常の中で楽しんでほしいという思いから生まれたのがLinNe。
澄み切った音色がどのように作られているのか、宇治の工房を見学させてもらいました。


宇治川から大学のキャンパスを横目に、町工場のような建物が並ぶ道沿いを進むとすぐに南條工房はあります。
LinNeの担当をされている南條由希子さんが出迎えてくれました。土や火を扱う男の仕事!の雰囲気漂う工房の印象と由希子さんの都会的で落ち着いた雰囲気が対照的です。

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工房をご案内してくださる由希子さん(写真右)

由希子さんは現社長である6代目・南條勘三郎さんの娘さん。
神仏具の需要が減少する中で、6代目である由希子さんのお父さんはこの工房を自分たちの代で終わりしようと考えていたそう。
そんなとき、その当時由希子さんの彼氏だった和哉さん(由希子さんの旦那様、7代目)が工房の仕事に興味を持ちアルバイト(!)として工房を手伝うことに!

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7代目の和哉さんは元料理人なんだそう!

工房の職人の仕事ぶりと南條工房のおりんの音色に魅了された和哉さん。そして自分の代で絶やしてしてしまうのはもったいないと感じていた由希子さん。
二人は「おりん=神仏具」という概念を覆すような、もっと日常に近いものが何か作れないだろうかと考えるようになりました。そこからLinNeの企画が生まれたのです。



風鈴もおりんも基本的な製造方法は同じ。
まず土から鋳型を作り、窯で焼きます。
鋳型がちょうど良い温度まで冷めたところに、炉で熱した佐波理(さはり)と呼ばれる合金を流し込み、冷めてから型から取り外すとおりんの原型が出来上がります。
それを焼きなまし、削りと磨きを繰り返し、焼き入れと音の検品、仕上げを経て南條工房のおりんは生まれます。

※「焼きなまし」・・・一度熱して急冷することで合金を加工できるように柔らかくする事
※ 「焼き入れ」・・・加工のため焼きなましたおりんをもう一度熱し、徐冷する事で合金を硬くする事

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南條工房では鋳型も全て土から手づくり。鋳型がずらっと並ぶ棚を抜けると鋳型を作る作業場があります。伺った際は鋳型を作る作業はされていませんでしたが、作業の導線上に配置された椅子や道具を見ると作業風景が浮かびます。


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佐波理を溶かす炉の温度は1000度以上で、夏は灼熱!

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佐波理を鋳型に流し込む。写真のものは風鈴用の鋳型。

誰か一人でも調子が悪いと、出来上がったおりんの音色が違ってきてしまうのだそう!だから仕事は時間きっちり16時の定時で終わり、疲れを持ち越さないようにしているのだとか!力が必要とされる豪快な作業かと思っていたら、とっても繊細さが必要だと知り驚きます。


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佐波理を流し込んだ鋳型が冷めると、鋳型を砕いておりんを取り出します。
砕いた鋳型は再度練り直して鋳型を作る際に使われるそう!なんて無駄のないものづくりなんでしょう。それから工場には雨水が溜まるよう設計された水桶があり、溜まった水は砕いた鋳型を練るときに使用されるのですって!すっごくエコ!教えてくれた職人さんはこの道50年の大ベテラン!



次に連れて行ってもらったのは、焼きなましたおりんを削る作業場。
6代目勘三郎さんが黙々と作業をされていました。「父は集中すると時間を忘れてしまうんです」と代わりに由希子さんが教えてくださいました。

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削ると薄〜い佐波理が鰹節のように落ちてきます。
金束子のように硬いのかと思いきや触るとポロポロと崩れるのでびっくり。

勘三郎さんがおりんを機械に少しあてると、青みがかったおりんが黄金色に変わっていきます。とても簡単そうに削っているように見えるけれど、実はすごく力仕事。削りは熟練の技術が必要で、習得までに10年もの時間がかかるのだとか!

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音の響き方を左右する削りの作業は6代目と7代目の2人のみが手がける

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南條工房のおりんは素材である錫の割合を限界まで高めた合金「佐波理(さはり)」が特徴。その分固くなるため加工が難しいのだそう。固くて薄いためトンカチなどで叩くと割れてしまう!最後に実際に叩いてみて音の検品をし、厳しい基準をクリアしたもののみ出荷される。時にはほとんどが出荷できないこともあるのだとか。

最近は神仏具としてではなく、シンギングボウルとして外国の方から注文があったり、ヒーリングの道具として大手企業のリフレッシュルームで採用されるケースもあるのだとか。確かにLinNeのおりんも風鈴も、空気を入れ替えてくれるような気持ちが改まる音です。

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風鈴のシリーズでは同じく宇治にある京くみひものメーカー「昇苑くみひも」とコラボレーション。くみひもの形や色が選べる。どれもとってもキュート!

LinNeをはじめてから見られ方が変化し、興味を持たれた方が工房の見学を希望されることもあるのだとか。

護松園の館内にも職人の技が光る品々が随所に使われています。例えば風鈴の吊された縁側も柱のない高度な設計がされ、200年前の職人の仕事ぶりが感じられる場所。LinNeの風鈴が護松園に馴染むのは、風鈴もこの建物も、どれも職人が力の限りに作ったものだからなのかもしれません。

長くご説明しましたが、百見は一聞に如かず!風鈴の心地よい音色が聞こえると、風が愛おしくてついつい寛いでしまいます。皆様もぜひ一度聞きにいらしてください。

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LinNeのおりんと風鈴はGOSHOEN内箸蔵まつかん直営店でお取り扱いしています。

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GOSHOENのLinNeについてはコンセプトカラーである
マリンブルーのくみひもで作っていただきました。

text : 嶋田愛梨
photo : 堀越一孝



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