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「クマが好むほどいい木」に触れる。

近年、人がクマに襲われたというニュースを目にすることが多くなり、クマに対し「危ない」「悪者」というイメージを持つ人が以前より多くなっているのではないか。
一方でクマからすると、人間による森林伐採で、日々生活圏が曖昧になり、気づかぬうちに人里まで降りてしまう。
そして、人間との急な遭遇で、咄嗟に護衛本能が働き、牙を剥いてしまう。
人間が悪いのか、あるいはクマが悪いのか。
そういう議論はナンセンスなのかもしれない。


「クマハギ」という言葉を聞いたことがあるだろうか?

クマハギとは、クマが爪や牙で樹皮を剥ぐ事を言い、クマハギにあった木は傷口から枯れ、新しい樹皮がその傷を覆うように育つ。
ただ、その模様は独特の美しい木目が表現され、自然でしか表すことの出来ないアートにも見える。
しかし、こんな美しい木肌も紙の原料になるか、火力発電の炉で燃やされるしか活用法がないのが現状だ。

Photo by Shinichi Yamaguchi

このクマハギにあった木(=BEARS WOOD)に着目し、新しい価値を創造することで、人が森に目を向けるきっかけとなる取り組みを行っているのが『BEARS WOOD PROJECT』。
異業種のメンバーにより結成され、京都市北西部「京北地域」で主に活動されている。

Photo by Shinichi Yamaguchi

BEARS WOODを小浜にも

箸という木材を扱う一企業として私たちも見て見ぬふりできないこの問題。このプロジェクトをたくさんの方に知ってもらうきっかけとなるよう、今回はイベント開催という形で、プロジェクトメンバーの吉田さん(リーダー/木工)、四辻さん(林業)、堤さん(漆店)をお招きした。

ものづくりワークショップイベント開催!

今回のイベントは、
BEARS WOODを使ったものづくりワークショップや、たっぷりとBEARS WOODの背景を知ることができるトークセッションと盛りだくさん。
ものづくりイベントは、2種類。
●BEARS WOODを使って、スケートボードを作ろう!
●BEARS WOODの箸に漆を塗って、オリジナルの箸を作ろう!
 
スケートボードワークショップは募集定員6組の中、プロジェクトに賛同した参加者で満員御礼!
少し不安な天候が予測される中、厚い雲を通り抜けた数本の光が柔らかく降り注ぐ開園10時。続々と参加者が集まる。

今回は板を好きな形にカッティングするところから、ヤスリ、漆でコーティングまでを行う。
各組に1枚ずつBEARS WOODの板が配られ、ワークショップがスタート。
大きくて無地の木のキャンパスに触れ、どのようにアレンジしようかとアイデアが膨らみ、心踊る面持ちの参加者達。
それと同時に、木肌のきめ細かさに驚き、「こんなに美しいのに、なぜ有効利用されていないのか」と不思議に思う声も上がる。
いよいよ作業が始まると、一斉に製作にのめり込む。

あえて細かな曲線を取り入れ、少しクマに削られたようなデザインをスケートボードに施す参加者さんも
BEARS WOODに漆を塗り込むと、木目がさらに美しく際立つ
漆のプロ堤さんに直接教わる「BEARS WOODの箸に漆を塗って、オリジナルの箸を作ろう!ワークショップ」も同日開催!

途中、あられが降るという出来事に、運営側として始めはヒヤッとしたが、現場はなんのその。
「きゃー!あられ降ってるー!」と、はしゃぐ子ども達。
それを「元気やな〜」と笑顔で見守る大人。
中には作業に集中して、あられに一切気づいていない人も(笑)。
 
完成したものを参加者さん同士で見せ合い、讃え合う。それぞれの個性が表現され、どれもが魅力的な作品となっていた。

たっぷりとBEARS WOODの背景を学ぶトークセッション

トークセッションでは、クマハギの背景や、それぞれの想いをお話しいただいた。

「クマが皮をはぐのは、木の一番いい根本の部分で、つまり“木の大トロ”を好んで剥くので、皮が剥がれた部位は枯れていく。でも、クマが皮をはぐ木に限って、とても良い木やったりするんですよ。こんな感じで食べるんです!」と、四辻さんは自身の体で大きく表現する。
「木で商売してる我々にとってはもちろんクマはマイナス要因。正直腹が立っていたんですけど、彼ら側に立つと食べるものが山になくて、ギリギリの状態でその行動に出ているんですよね。クマは善者でも悪者でもなく自然。腹を立てるのはちょっと違うのかなと価値観が変わってきました。自分がもしクマだったならは、必死になって同じ事をするでしょうし(笑)」と、プロジェクト始動のきっかけとなる発見をした際の想いを話す四辻さん。

右から、堤さん、マツ勘社長、吉田さん、四辻さん
気さくで個性的なメンバーのトークに、常に和やかな会場

「いやあ、BEARS WOODのサーフボードを作ったのは傑作でしたね。クマハギにあうと、木が軽くなるので、その分海に浮いてめちゃくちゃいいんですよ。もし傷が入ったとしても、漆を上から塗れば、そこも味になる」と堤さん。
その漆をまとったBEARS WOODのサーフボードは会場の中でも圧倒的な存在感を放っていた。
 
「クマハギの問題は、もちろん僕らの地域だけではなく、全国規模。僕らだけではもちろん限界があって…。だから、僕らの活動を知って、他の地域でもマネする人が増えてくれたらうれしい。
なんか“天然資源の有効活用”って聞くと、難しくて近寄りがたいと感じてしまうけど、そう難しくない。
今回製作したスケートボードや箸をはじめ、限られた木材をただ楽しく大切に使うことが、結果的に資源活用に貢献していることになる。意外とシンプルなんですよね(笑)」と、照れくさそうに語る吉田さん。
 
トークイベント後は、プロジェクトメンバーとお客さんが円になり、トークイベントの時間内では聞けなかったBEARS WOODの加工工程の詳細や、漆の利用方法など、話を弾ませていた。
 
自然現象を受け入れて、それを楽しみに変える。
有効利用されていない木材に目を向け、楽しみに変える。
とても些細なことのように思えるが、私たちひとりひとりが毎日1回でも意識して過ごすと、地球にとって大きな変化になりうると改めて気付かされた。
 
これからも自然環境を考えるきっかけとなれるような企画も行っていけるようがんばります!

今回お越しくださった方々、
BEARS WOOD PROJECTの吉田さん、四辻さん、堤さん、本当にありがとうございました!!

漆を塗る前やけど、暗くなる前に記念撮影!
はい、みんなでBEARS WOODポーズ「ガオー!」

text by 新田優奈

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