*脚本の本棚*cats and dogs(脚本前半公開)

cats and dogs


開場

猫と犬が自由に客入れをしている

開演

猫、徐に立ち上がり

猫 さ、そろそろ始めましょう。ワンちゃん、照明お願い!

犬 オッケー!

猫 ありがと。……ねえ、アタシのお話、聞いて頂戴。

#1 As I like it

猫 ニンゲンなんて大嫌い。絶対に愛さない。でも、大好き。

猫 ニンゲンって不思議よね。とっても不思議なイキモノ。

猫 そんなふうに思えるようになったのは、きっとあんたのおかげよね。

猫 ね、おチビ。

僅かな間

猫 絶対王政! ……アタシの世界を一言で表すなら、そんな言葉がピッタリくるわ。この1LDKのアタシのお家にアタシ以外の住人は、男が一人と女が一人。わかりやすく言うなら、ニンゲンのオスとメスよ。端から見たらちっぽけな世界かも知れないけれど、アタシにはそんなんだって充分なの。

猫 だってアタシは女王様。アタシの世界ではみんなアタシの言うことを聞いて、アタシに傅くんだもの。

猫 二人は毎日アタシにカリカリしたゴハンと美味しい缶詰をくれるの。だからアタシは気紛れに、二人にアタシを触らせてあげる。でも、ずっと触り続けてたら嫌よ。アタシニンゲンは好きじゃないの。すぐにするっと逃げるからね。

猫 そしたらニンゲンは寂しそうな残念そうな顔をするけれど、そんなのアタシの知ったこっちゃない。ニンゲンなんてイキモノは、いつだってそんなネガティブいっぱいな心持ちでいればいいのよ。

猫 そんな風に当たり前に考えてしまえるくらい、ニンゲン嫌いよ。アタシ。

猫 え? アタシがニンゲンを嫌いな理由? 教えてあげないわよ、だって、あんたたちもニンゲンでしょ。だったら等しく大嫌い。ごめんなさいね。

猫 そうそう、アタシのお城には背の高い塔があってね。キャットタワーって言って、まさしくアタシのためだけにあるものなんだけど、アタシはこの上なく俊敏で優雅な動きでもってしてその上に飛び乗って、そこから部屋を見下ろすの。そしてゆっくり毛繕い。

猫 どこよりも念入りにするのは、ここの毛。胸のとこにあるふわふわの毛。どう? 素敵でしょう、だって毎日丁寧にお手入れしてるんだもの。胸のとこってのはね、お手入れし難いの。だからこそ一番綺麗にしなきゃってのがアタシのポリシー。どう? ふわふわでしょ?

猫 だーめ! そう簡単に触らせてなんかあげない。安い猫じゃないのよ、アタシ。

猫、キャットタワーに飛び乗り窓を見る

猫 ここには大きな窓があって、表の通りに面しているの。アタシは毛繕いに飽きたらその窓の脇に腰を下ろして、ちょっと高めのこの部屋から下を見下ろすのが好き。

猫 晴れた日は車。白と黒が多いけど、赤や黄色、それに色んな形の車が通る。車はアタシたち猫にとっては天敵。とても怖いもの。跳ねられでもしたらひとたまりもない。だけど、こうして安全な場所から眺めるには、随分と楽しいものだわ。

猫 雨の日は傘。色んな大きさ、色、模様。見ていて飽きることがない。その下にいるニンゲンはどんななのか、どこに向かって歩いているのか、アタシはそんなことを考えながら通りを見下ろすの。こうして隔たれている分には、ニンゲンたちはアタシに何の害も与えられないしね。気楽なもんよ。

猫 ……その窓越しに見える外の世界はとても広く見えた。無限の彼方まで広がって、吸い込まれてしまいそうな空。森みたいに立っているビルの群れ。広い広い世界。でもね、アタシにはここで充分。ここはアタシの世界、アタシのための世界。アタシのためだけの世界。そう思えるから。ニンゲン的に言うならば、「狭いながらも楽しい我が家」ってとこね。

猫 そーよ、我が家ってのはいいもんだわ。……アタシね、このうちに来る前は、もっと寒々しい部屋に居たの。そこもいい加減狭かったのだけれど、同じ狭いならここの方が百倍マシね。だって幾らか明るいもの、色んな意味で。

猫 その前にも別の家にいたんだけれど……あんまり覚えてない。小さかったからね。……ちょっと違うか。覚えていたくなくて、忘れたのよ。誰にだってそんな記憶の一つや二つ、当然のように存在するものでしょう? だからちっともおかしいことじゃない…… 猫 あ。

僅かな間

猫 ……また。

猫 そんな「狭いながらも楽しい我が家」の前の通りを通る犬がいるの。

猫 ねえ、偶然にしちゃ出来過ぎてるって思う? でもしょうがないのよ。それが現実なんだもの。

猫 あのね、あの犬のこと、アタシ知ってるの。

猫 あの犬コロ、またこっち見てる。バカみたい、ブンブン尻尾振っちゃって。ガラス越しにまで鳴き声が聞こえるほど大きな声で鳴いてるし。近所迷惑よ。ホント何とかして欲しい。

猫 ……あいつ、アタシのこと、覚えてるのかしら。仲間だとでも思ってるのかしら……

猫 ホント、犬ってお馬鹿よね。四つ足で歩いていたらみんな仲間に見えちゃうのよきっと、笑っちゃう。

猫 アタシは別よ。頭は良い方だと思ってるわ。昔からね。

猫 散歩の途中なのね、リード持ったメスのニンゲンまでこっち見て、手振ってるわ。

猫 思えば犬って不自由なイキモノよね。あの短い一本の紐でニンゲンに捕らわれてるの。ううん、捕らわれてあげてるのかな。だって、アタシたち猫ならいざ知らず、犬がちょっと本気を出せば、ニンゲンなんてひとたまりもないもの。それだけの牙や力を、あいつらは持ってる。

猫 犬がニンゲンに自ら捕らわれてる理由なんて、無いに等しいの。あいつらにあるのは、ただニンゲンへの愛だけ。笑っちゃう。そんなちっぽけな心であいつらはあの紐を受け入れてるのよ。

猫 見てよ、あの目。ニンゲンを見つめるあの犬の目。あなたを信頼してます、あなたを愛してます。そんな感じだわ。

猫 何の疑いもなく、全身全霊で、信じ切ってるって瞳。

猫 ……ホントに、バカみたい。アタシ、ニンゲンなんて絶対に信じないわ。

猫 ねえ、あんた、今、幸せ?

猫、窓から視線を外す

猫 ふん、あの犬っころ、どーせアタシのこと、素直じゃなくて可愛くないくらいに思ってるに違いないわ。でもね、そんなことアタシには関係ないの。猫っていうのはそういうイキモノ。アタシは、アタシの世界が大切。それが何よりよ。

猫 でもまああの犬コロにはあの犬コロなりに、言いたいことがあるんだろうなあって。聡明なアタシはそう察し、寛大なアタシはその慈愛の心でもってして、犬コロにもお話する機会をあげようってわけ。……別にアタシが疲れたから休むんじゃないのよ! これは優しさ。そう、アタシからあの犬コロへのめいっぱいの、優しさ。ってとこね。

猫 ね、あいつのお話も、聞いてあげて頂戴ね。

猫、客席に座って毛繕いを始める 犬が出てくる

#2 sweetie,sweetie his love

犬 夢を見たんだ、君の夢だよ。

犬 夢の中で君は笑ってた。ぼくも笑ってた。

犬 それは遠い昔の日の記憶なのかもしれないし、それとももしかしたら遠い未来の風景なのかもしれない。

犬 ぼくは追いかける。君の笑顔を。君の笑顔はどこまでも優しくて、あたたかくて、そしたらぼくも幸せでいっぱいで、だからそれがぼくの幸せなんだって思うんだ。

犬 だからいいんだ、ぼくは。何があったって。君がいいんなら、それで。

犬 本当に、そう思うよ。

犬 君が、ぼくに幸せをくれたから。

犬 その日ぼくは、君の声で目が覚めた。朝みたいな夜みたいな不思議な夕べ。太陽の光はぼくの反対側、つまりは君の背中の方にあって、ぼくは少し目をしかめた。君は何だか笑っているように見えた。そうして、ぼくは君と出会ったんだ。

犬、辺りを見回す

犬 おかしいな……

犬 さっきまで確かにぼくは灰色の狭苦しいコンクリートの部屋にいた筈なのに、何だかそこはとても明るかった。周りに居たはずの悲しげな犬たちや、全てを諦めたように力ない猫たちも居なくなっていて、ぼくは君と一緒に小さな部屋の中にいた。

犬 そこにいるのはぼくと君だけ。静かで、明るい場所。太陽の光だと思ったものは、その部屋を優しく照らすあたたかいオレンジにも似た電気の明かりだった。それで少し考えて、ぼくはそこが君の部屋なんだって思ったんだ。

犬 君は明かりを背にぼくの顔を覗き込んで、それで、笑ってた。

犬 君がゆっくりぼくに向かって手を伸ばした。ぼくは反射的に体を竦めて身構える。君はちょっと悲しそうにそれでも笑いながら、ぼくの耳のところを優しく撫でてくれた。

犬 ……ねえ、ニンゲンの手ってすごく不思議だね。とても痛くて怖いものだったりするくせに、とてもあたたかくて優しいものだったりもする。

犬 君の手は優しくて、どこまでも優しくて。ぼくは自分の全身に込められた力がゆっくりと抜けていくのがわかった。犬 君のぼくを撫でる手は、耳の所からだんだん背中や胸の方を力強くわしゃわしゃってしていって、気付いたらぼくはまるで君に半ば抱きしめられるような形になっていて。

犬 でもそれは全然痛くも怖くもないんだ。とても心地よくすら感じた。

犬 その時だった。大丈夫、もう大丈夫。ぼくにそう呼びかける君の声が聞こえた。それは優しい音楽みたいにぼくの心の底にすっと落ちてくる。心の底の底の、涙の水溜りの中まで。そしてその音色は、その水を揺蕩うように優しく撫ぜて、弾くようにつっついた。水底から起こった振動が水面にさざなみを立てる。

犬 ……ぼくは君に受け入れられた。存在を肯定された、その時ぼくははっきりと、そう思った。まるで信仰めいた愚かなまでの奇跡的な確信が、ぼくのこころに訪れた。

犬 嬉しくて、いつの間にか声が出ていた。鳴いたのは随分久しぶりだった。それでも君はぼくをぶったりせずに、泣きそうな、嬉しそうな笑顔でますますぼくのことを抱きしめてくれたんだ。

犬 存在の肯定。無条件の受容。それがその日君がぼくにくれたものだ。それらはどんなに美味しい肉よりもどんなに面白いおもちゃよりも、その時のぼくに必要なものだったんだと思う。

犬 わかったよ。君がぼくにそれをくれるというならば、ぼくは最上級の愛と無条件の信頼で、君の思いに応えよう。ぼくの精一杯で。全身全霊で。

犬 まだ目の開かない仔犬がそれでも母犬を求めて鳴き声を上げるように、ニンゲンが雲の上には天国があると信じて疑わないように、君を信仰しよう。一縷の迷いなく、君を信頼しよう。ぼくはその時揺れて止まない心の底から間違いなくそう思ったし、それは勿論今でも。そしてこれからも、ずっと。

犬 それがぼくの幸せなんだ。無上の、幸福なんだ。

犬 だからいいんだ、ぼくは。何があったって。

僅かな間

犬 え?

犬 君の唇が一つの言葉を紡いだ。ぼくに向かって。

犬 スウィーティー。

犬 聞いたことのない言葉だ。突然君の唇から出てきた言葉は、ぼくの知らない言葉だった。

犬 ……スウィーティー?

犬 私のちっちゃなスウィーティー。今確かに君はそう言った。私の、はわかる。ぼくは君のものだ。間違いなく君のものだ。ぼくは君のものなんだよって街中に言いふらしたいくらいに君のものだ。それにちっちゃな、もわかる。確かにぼくはちっちゃい。勿論君より圧倒的に小さいという体格的な問題を差し置いても、生まれてから今までという年月を考えたらぼくは君より掛け値なしに小さい。だからわかる。でも、

犬 スウィーティー。……ねえ、それってどういう意味の言葉なんだい? 教えてくれないかな?犬 あ、また言った。勿体ぶらないで教えてくれよ。

犬 気になる、気になるよ。断然気になる。

犬 そんなぼくのきょとんとした瞳に気付いたのだろうか、君は一回小さく笑うと教えてくれた。スウィーティーという言葉の意味を。

犬 可愛いもの、愛しいもの。それがその答え。

犬 スウィーティー、スウィーティー。君がぼくを呼ぶ。ぼくは精一杯尻尾を振ってそれに応える。

犬 嬉しいな。嬉しいな。

犬 ぼくは君のスウィーティーだ。可愛くて、愛しいものだ。それに君は、間違いなくぼくのスウィーティーだよ! ぼくの愛しくてたまらないものだ。

犬 だからいいんだ、ぼくは。何があったって。全て受け入れるよ。

犬 ……それが、君と出会った時のぼくの全部。つまり今までのぼくの全部。これからのぼくの全部。

犬 君は、覚えていてくれてるだろうか。あの日のことを。出会った日のことを。ぼくのこんなにも大きな心の揺らぎは、ぼくの生きる上での全てなのだけれど、君はそれをわかってくれているのだろうか。ほんのちょっとでも。

犬 君が、ぼくと同じ気持ちでいてくれたら、嬉しいよ。とっても。

犬 心から、そう思うんだ。

#1

猫 ある日のことよ。二人のニンゲンが、アタシをほっぽって出かけていった。

猫 一日目は、決まった時間にご飯が出てくる機械がアタシにカリカリと水をくれた。二日目の夜にオスのニンゲンが戻ってきて、アタシのご飯を作ってまた慌てて出て行った。そしてそれから何日かそんな日が続いた。全くもう、何があったって言うのよ。調子が狂うわ。

猫 二人の居ない部屋は確かに広く感じて居心地良いけど、ずっとアタシだけってのが、何だか気に食わない。……アタシがそんな風に考えながら窓際で毛繕いをしていた六日目のお昼、二人が帰って来た。アタシが初めて見る小さな塊を連れて。つるつるした裸のお猿さんみたいな、小さな塊。生きてる塊。

猫 アタシにはすぐわかったわ。それがニンゲンの赤ん坊なんだって。

猫 アタシがそのみっともない猿みたいな赤ん坊に恐る恐る近寄って、しわくちゃでつるつるの顔を覗き込むと、二人のニンゲンは嬉しそうに笑った。お姉ちゃんね、そう言って笑った。

猫 え? え? ちょっと待ってよ! 何でそうなるのよ! アタシはこんなお猿のお姉さんなんかじゃないわよ!

猫 そもそもアタシは女王様で、あんたたちニンゲンと同列にされるもんじゃないのよ、家族なんかじゃないのよ! 勘違いしないでよ!

猫 ……そんなアタシの精一杯の抗議も、二人には通じない。ますます嬉しそうに笑われた。解せない。

猫 だからアタシはその塊のこと、悔し紛れにおチビって呼ぶことにしたの。だってこいつってばニンゲンのくせに凄くちっちゃくて、アタシと同じくらいか、そうね、アタシより小さいくらいだったから、当然よね。

猫 ……そしてその日から、アタシの世界は一変したの。

猫 あーもー!! うるさいー!!

猫 全然眠れないじゃない! うるさい、うるさいってば! 静かにしなさいよおチビ!

猫 うちにやってきた猿みたいなおチビは、本当に問題児! 何かあっても何もなくても昼も夜もなくぎゃんぎゃん泣き出して、アタシの安眠を妨げ毛繕いを中断させる。

猫 アタシの少し不自由な片耳ですら拾えてしまうくらいの大声で泣き叫ぶ。

猫 ねえ、おチビが泣いてるの、うるさくて眠れないからなんとか宥めてちょうだいよ。

猫 アタシ夜行性なの。知ってるでしょ? だから昼間は寝てたいのよ……え? 教えてくれてありがとう? ちょ、ちょっと待ってよ、アタシはニンゲンにお礼なんか言われる筋合い無いわよ。うるさくてどうしようもないからあんたを呼んだだけ。勘違いしないで。

猫 ふん。

猫 ちょっと、おチビ、机の下はアタシの場所よ! どきなさいって。大体あんた、いきなり立ち上がったりしたら、頭ゴツンってしちゃうでしょ、危ないわよ。あんたただでさえ頭がおっきくてバランス悪いんだから大人のニンゲンみたいにうまく立てないでしょ。気を付けなさいよ、まったく。目の前で怪我でもされたらアタシの寝覚めが悪いんだってば! だからほら、どきなさいって。しっしっ!

猫 あー! 危ない、危ないって! その窓はね、通りに面してるの。おチビあんた窓突き破って落ちたら車に跳ねられちゃうのよ! いい、車っていうのは怖いの、危ないの。跳ねられたら死んじゃうんだから、……いや、ニンゲンだったら落ちた時点で死んじゃうのかな。あーもー、そんなんどうでもいいから近寄ったらダメなんだってば!

猫 ねえ、おチビあんた満足にご飯食べられてるの? あんた手も足もふにゃふにゃで、おっぱい卒業したと思ったらいつもぐじゅぐじゅの不味そうなものばっか食べさせられてて、可哀想ね。アタシのカリカリかササミの缶詰、ちょっと分けてあげてもいいのよ。

猫 ほんとはスズメかセミでも捕って来てあげられたらよかったんだけど、生憎アタシ外に出らんないからさ、この家にはネズミも出ないし……

猫 あーいうのはね、食べるだけじゃないの。食べる前に逃げ回るので遊ぶのもできるし、狩りの練習にだってなる。あんたくらいの年頃なら、あーいうのもいいおもちゃになると思うんだけどなあ。

猫 って! 何でアタシがこんなことしなきゃいけないのよ!? アタシはこいつのお姉さんでも何でもないの! アタシは女王様なのよ? みんなアタシに傅いて然るべき! ……なのに、このお猿どころか怪獣みたいなチビは、アタシより大きな声で泣いて、アタシよりも二人のニンゲンたちの気を引いて、そしてどんどん、アタシよりも大きくなって、いった。

猫 アタシだんだんわかっていったの。この家の一番は、アタシじゃなくなってて。今やこのおチビなんだ。って。

猫 不思議なことにそれは不快な感じじゃなかった。本当に不思議。だってアタシがニンゲンに対してこんな思いを抱く日が来るだなんて、今までのアタシは思いもしなかったから。

猫 面白い。ニンゲンって、面白いのね、

猫 あら?

猫 ……久しぶりに見た気がするわ、あの犬コロ。最近散歩してなかったもの。どうしたんだろう。

猫 あっ、こっち見た(嫌そうに)! ……え?

猫 素通りするわけ? 失礼しちゃう。それとも暫く通らないうちにアタシのことも忘れたのかしらね。

猫 ちょっとだけ、ほんの一瞬、どこか寂しげに笑ったようには見えたけど、それだけだったわ。

猫 なによそれ。何だかちょっと、寂しいじゃない。バーカ。

#2

犬 それからの君とぼくとの日々は随分と幸せだったんだと思う。

犬 勿論それは、ぼくからの視点でしかはかれていない、一方的な感覚だ。君にとってもそうであって欲しいと願うのはそれこそぼくの一方的な感情の押し付けなのかもしれない。

犬 でもぼくは君のスウィーティーだったし、君はぼくの唯一のスウィーティーであり続けたし、だから随分と幸せだったに違いない。

犬 ねえ、散歩は楽しいね! 特にこんな晴れた日は。いやいや、勿論雨の日だって、君の傘とお揃いのカッパを着て出かけるのはすごく楽しいけど、うちに帰った時君にわざわざ体を拭いてもらうのがちょっと申し訳ないんだよ。

犬 だからこんなに天気がいい日は、君との散歩は倍ばかり楽しい! 見て見て、太陽が笑っているみたいだよ。

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