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[2024/03/08] プラボウォ=ジョコウィ関係の行方~選挙不正疑惑と新政権をめぐる二人の思惑~(松井和久)

~『よりどりインドネシア』第161号(2024年3月8日発行)所収~

総選挙委員会(KPU)による開票確定結果の発表はまだ少し先だが、2024年10月20日に任命される正副大統領は、プラボウォ=ギブラン組でほぼ確実という情勢となり、インドネシア政治もポスト・ジョコウィを見据えた動きへとシフトしつつある。通常であれば、内閣も国会も残務処理の雰囲気が漂うのだが、今回は、10月までの8ヵ月の間に様々な動きが現れそうな気配である。

どうしても大統領になりたかったプラボウォ国防相はこれまで、ジョコ・ウィドド(通称:ジョコウィ)大統領の長男ギブランを副大統領候補に就けるなどして、ジョコウィ路線の忠実な継承者を極端なまでに自認し、アピールしてきた。一方、ジョコウィ大統領は、自らが所属する闘争民主党(PDIP)や同党のメガワティ党首からの介入を嫌い、あらゆる方法で自身の権力基盤を築き上げてきた。プラボウォ国防相は大統領になるためにジョコウィ大統領に擦り寄り、ジョコウィ大統領はPDIPやメガワティの呪縛を離れるためにプラボウォ国防相を立てた。ジョコウィ人気を自党の得票増につなげたい政党はジョコウィ大統領に忖度し、大統領の推すプラボウォ国防相を支持した。正副大統領選挙終了まで、彼らの思惑は一致していた。

しかし、プラボウォ=ギブラン組の当選がほぼ確実になった今、そろそろ関心はその後へ移った。ジョコウィ大統領は引退後もプラボウォ氏を実質上制御できるようにするためのポジション取りを始めた。プラボウォ=ギブラン陣営の支持政党は、新たな政権での閣僚ポストの獲得へ向けて動き始めた。どの政党がいくつ閣僚ポストを取るかは、国会議員選挙での獲得議席数が指標となるため、総選挙委員会(KPU)による議席数確定まで様々な駆け引きが繰り広げられる。

本稿ではまず、今回の選挙で大問題となっている構造的かつ組織的で大規模な不正と票集計アプリSirekapの不正疑惑を取り上げる。次に、それら選挙での不正を追及するための国会でのアンケート権確立をめぐる政党間の動きについて触れる。さらに、次期政権に対しても影響力を行使し、自身の権力を何らかの形で維持したいジョコウィ大統領の思惑、新大統領目前のプラボウォ国防相の思惑とジョコウィ大統領との関係如何などの諸点を考えてみたい。

投票するジョコウィ大統領夫妻
(出所)https://kabar24.bisnis.com/read/20240215/15/1741150/jokowi-akui-sudah-bertemu-dan-ucapkan-selamat-ke-prabowo-gibran

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