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5万人以上が来場する手作りイベント 東北風土マラソン(#2/2)

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「メドックマラソン」

東北風土マラソンは、フランスの「メドックマラソン」の企画協力を得て開催されています。

メドックマラソンは、赤ワインで有名なボルドー・メドック地方で、ぶどうの収穫直前の9月に毎年開催されるフルマラソン大会です。2019年には第35回大会となり、70ヶ国以上から8,500人のランナーが参加しました。応援者、観光客をあわせると、同時期に30,000人がメドック地方に集まる、一大観光イベントです。エイドステーションでは、オイスターやステーキ、チーズ、ハム、アイスクリームなどが並び、水はもちろんシャトー自慢のワインもふるまわれます。ランナーも、観光客も、地元の人も、みんなで楽しめる大会として世界中のランナーに知られています。

実は、東北風土マラソンの「仮装テーマ」は、前年のメドックマラソンのテーマを踏襲したものとなっています。パスタパーティという前夜祭があったり、大会後の大ワインパーティーがあったり、ウォーキングイベント、賑やかなバンド、派手な装飾をつけた山車(だし)などの家族や友人も楽しめる「お祭りイベント」は、まさしく東北風土マラソンの原点となっています。

メドックマラソンと東北風土マラソンは、立ち上げ前から現地でコンタクトを取っており、現在も前述の「仮装テーマ」や、お互いの大会でのブース展開などで連携をしています。こうして、ファンランを通して東北をグローバルに広げる土台ができあがっているのです。

東北風土マラソンが目指すもの

ここまでは成り立ちや内容・特徴を見てきましたが、この大会が何を目指していてどんな効果を生んでいるのかについて見ていきたいと思います。様々な記事で主催者の想いが語られていますが、共通するのは「東日本大震災からの復興支援」と「東北と世界を繋ぐ」です。

実は、初回大会が開催された2014年4月の2年半前である2011年11月には、構想が立案されていました。その発端は復興支援です。そのためのツールとしてマラソンを選び、メドックマラソンを参考にしていたのです。それでは、何が復興支援に繋がっていて、この大会が何をもたらそうとしているのか、もう少し具体的に見ていきたいと思います。

①経済産業効果

エイドステーションや会場の食べ物は、登米市近辺だけではなく東北6県すべてから集まっています。また、県外参加者が約半数を占め、外国人も120人参加していることから、当日だけではなく前後の滞在も発生し、直接的な経済効果に繋がっています。事務局の試算によると、周辺の宿泊や移動、会場外の消費を含め経済効果は3億円に達しているとのことです。

ちなみに、本場のメドックマラソンは前後のイベントも含めて30億の経済効果を生み出しており、東北風土マラソンも長い年月をかけてこれを目指しています。

また、次項にも重複しますが、このイベントやファンの発信が東北のPRに繋がり、間接的に観光産業や第1次産業の長期的な活性化につながっていると言えます。

②ブランディング

メドックマラソンは35年の歳月をかけ「ファンラン」としてのグローバルブランドを確立しました。世界中の市民ランナーが「メドック」や「ファンラン」と聞くと、メドックマラソンとワインを思い浮かべます。東北風土マラソンもこれを目指しており、ファン作りを大切にしています。

マラソンをきっかけに東北に来て、食でも景色でも人でも何かしらの要素を好きになってもらい、年に1回はマラソンの機会に東北に戻る。そうではないときも、東北の食材や日本酒があれば手に取る。そんな世界観を目指しているとのことです。

また、大会が乱立し集客苦戦が嘆かれている市民マラソン業界ですが、東北風土マラソンは基本的にランナー獲得のための広告宣伝費は1円も使っていません。リピーターや口コミで参加してくれる本当のファンが多く、一過性でない「東北風土マラソン」や「東北」のPR、ブランディングに繋がっています。

③地域活性化

東北風土マラソンは主催者だけのものではなく、「いかに自分ゴトとして捉える人を増やすか」「うまくプラットフォームとして活用してもらうか」を目指しています。食や観光など地域コンテンツを見直し強化するきっかけにもなりますし、大会期間には多くの地元ボランティアがおもてなしの心で活躍します。人口7万人の町に5.3万人が来るのだから、大会期間中の盛り上がりは想像するだけでもすごいものだと思いますし、地元の人たちも「何かやってやろう」という気になりそうですよね。

東北風土マラソンは、東北を支援・発信したい個々の力を最大限動員し、東北が元気になるための共通ツールとして活用されるものとなっています。

経済効果・ブランディング・地域活性化。これらは他のマラソンイベントでも語られるものですが、ここまで実を成しているイベントは少ないように思います。コンセプトが確立されていて、それを実現する企画が実装されていることは、基本的なことではありますが大切なことだと改めて考えされられます。

最後に、このマラソンイベントの特徴をもうひとつあげたいと思います。「行政からの助成金を受けていない」ことです。前述した明確なコンセプトと、それを成す企画。そのうえにファンがどんどん増えることで自力で継続できる仕組みを創ろうとしています。

これを35年続けた先に「東北」がどうなっているのか、楽しみです。

おまけ:主催者について

今回は集客苦戦が嘆かれている市民マラソン業界における好事例として、東北風土マラソンを調べてみました。大会自体の価値や経済効果は述べさせていただきましたが、主催側や収益等は触れなかったため、簡単に記載したいと思います。

・主催は一般社団法人東北風土マラソン&フェスティバル
・立上げ、運営をしている代表理事は無報酬(他に経営している会社で稼いでいる)
・2018年大会の予算規模は6,000万円程度(参加費とスポンサー費が半々)

市民マラソン大会は、自治体主催がほとんどなので主催者が利益を上げることはありません。この大会も同じ構図ではありますが、前述の通り自治体補助金を一切使っていないという大きな特徴があり、想いを持った「人」が繋いでいく形になるのであろうと思っています。この規模のイベントが、この形態で長く継続できるのであれば、「マラソン大会としての好事例」以上の価値が出てくると思います。

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