『予想タクシー』


【あらすじ】組織から追われているチンピラ2人を乗せてしまったタクシー。会話を盗み聞きしながら2人の展開を予想していくが…

【登場人物】
タクシードライバー 木村
チンピラ兄貴 小林
チンピラ子分 タケ

タクシーの車内。

小林:畜生!何でバレちまったんだ!
タケ:兄貴、どうしましょう!?
小林:知るかよ。
タケ:やんなきゃ良かったよ、こんなこと。
木村:お客さんどちらまで?
小林:うるせぇ!とにかく走らせろバカヤロウ!
木村:すみません…。

木村心の声
なんだよ、こいつら…行き先聞いただけだろ。

小林:クソ!もうちょっとでうまく行くところだったのに。
タケ:まさかバレるなんて…兄貴、俺達どうなっちゃうんすかね。
小林:殺されるに決まってんだろ。
タケ:えぇ!俺まだ死にたくないっすよ、兄貴。
小林:俺だって死にたくねぇよ。
タケ:あぁぁ…。

木村心の声
なんか…面倒くさそうなの乗せちゃったなぁ…今、組がどうとか殺されるとか言ってたよなぁ…ということはヤクザか…(バックミラーで2人を確認する)ん…ぱっと見ヤクザに見えねぇな…兄貴って言われてるやつは…ややぽっちゃり系でボブカット…髪がカブトムシみたいにテカってるよ…整髪料というよりは皮膚の油で黒髪がテカってる感じだな、何か汚らしいなぁ…ていうか、ボブカットのヤクザっているのか?(笑)そんで、それ意味ある?てくらい小っちゃいレンズのサングラスしてるよ…レンズより目の方がデカいじゃん。あれ、なんだっけ?漫画のハンターハンターのレオリオ?だったかな…確かそういやつがしてたサングラスにそっくりだ…しかしくたびれたスーツ着てんなぁ…全体的にヨレヨレじゃねぇかよ、しかも紫って、総合的にただの汚いデブだぞこれじゃあ…これでヤクザなのか?わかんないね…。で、隣りだ…このタケって呼ばれてる、多分…子分のやつ…こいつは…何の特徴もねぇな…金髪オールバックに花柄のシャツ、多分凄みを表現する為に整えている上り眉毛…Vシネマに出て来そうな子分だな。今時いるのか?こんなヤツ。こうやって見ると、いかにもダメそうな2人だな…ヤクザだとして、全然仕事出来なさそうだぞ…。何か、あれだな…誰かにそそのかされてそうだな…騙されてるっていうか…あれだ、あの、組織のずるいやつ、インテリヤクザていうの?そういうやつに操られて、何か組の覚醒剤とかに手をつけたんじゃないかな…で、それをうまく売り捌いたらその金の半分やるよ、なんて言われて…バカだからまんまとその誘いに乗っちゃって、そしたらそれが組長にバレて、で、今追われてるとかじゃないの…

小林:こんなことやらなきゃよかった。
タケ:そうっすね…
小林:組の覚醒剤盗んで売り捌くなんて、断るべきだったよ、くそっ。
タケ:売った金の半分もらえるってことで乗ったのが間違いでしたね。
小林:あぁ…でもまさか組長にバレるなんてよぉ。

木村心の声
え?当たっちゃってない?ほとんど。俺凄くない?…見た感じだけで予想当てちゃったよ。こいつらがベタ過ぎるのかな?え、何何。ちょっとどんどん予想してみようかな。色々当たる気がする…。ま、根拠の無い自信だけど。じゃあちょっと次はもっと細かく予想してみようかな。えっと…『まさか組長にバレるなんて…』て言ってたから…その続きからで、『でも何でバレたんだ?』『そうっすね…』『まさかタケ、お前が言ったんじゃねぇだろうな…』『ちょっと待って下さい兄貴、言うわけないじゃないっすか…』『お前、俺を売って伸し上がろうとか考えて…』『そんなわけないですよ、俺はずっと兄貴についてきたんですよ』『最近妙に組長に呼ばれてなかったか?』『あ、あれは組長の愛人問題を片付けてたからです、信じてください…』『まぁたしかにお前にそんな度胸はないか…』『そうっすよ…』『まぁいい、しかしこれからこいつを持ってどうするか…』なんて会話で進むとか…

小林:でも何でバレたんだ?
タケ:そうっすね~
小林:まさか…タケ、お前が言ったんじゃねぇだろうな!
タケ:ちょっと待って下さい兄貴、言うわけないじゃないっすか!
小林:お前俺を売って伸し上がろうとか考えて…
タケ:そんなわけないじゃないっすか!俺は兄貴にずっとついてきたんですよ。
小林:最近、妙に組長に呼ばれてなかったか?
タケ:あ、あれは、組長の愛人問題を片付けてたからです、信じてください。
小林:まぁ、たしかにお前にそんな度胸はねぇか。
タケ:そうっすよ…
小林:まぁいい、しかしこれからこいつを持ってどうするか…(バック見る)

木村心の声
え?まんま?怖いんですけど…完璧だったよね、今完璧すぎたよね?内容が当たるとかそういう次元越えてたよね?セリフ一字一句多分合ってたよね…え?そんなことある?え?そんなことあんの?どういうこと?え?聞こえてる?え?俺の心の声聞こえてんの?いやいやまさか…それだったら怒られてるよね、話し聞いてんじゃねぇよ!て。え…ちょっと待って、試してみるだけ試してみるか?…すみません、お客様、私が今心の中で喋っていること、実は聞こえてますか?…。(反応を待つ)聞こえてねぇよな。

木村:ま、そりゃそうだよな、そんな訳ねぇよな。(やべ。声が漏れた)

タケ:あ?(前に乗り出して)おい、何言ってんだお前。
木村:はい?
タケ:何だ、そんな訳ねえよなって。
木村:え?何の事ですか?
タケ:今、デケェ声で喋ったろが!話しきいてんじゃねぇだろうな?テメェ!
木村:聞いてないです、独り言の声がつい大きくなっちゃいました。
タケ:ひとりごと?静かに運転してろバカヤロウ!殺されてぇのか!
木村:すみません。
タケ:バカ野郎が。

木村の心の声
危ねぇ~、こわ〜、まぁでも心の声が聞こえてるわけじゃないか…たまたま予想が偶然一字一句当たったていうことだな…ふ〜ん…ある、そんなこと?まぁでも気持ちいいな。この前の菊花賞こんくらいバチッと当てたかったな…そしたら今頃は…ま、いいかそんなこと。うん、よし、次のこいつらの展開も予想するか…こうなると…んん〜、まぁ高飛びだろなぁ。この人達ベタだから。間違いないな。あのバックの覚醒剤を売って資金にしようとするんだろな…そして場所は…まぁ近くて暖かくて楽しそうな所…そうだな…サイパン、いやグアムかな…グアム行くよお前ら!

小林:(黒いバッグ見てる)どうしたもんかな…
タケ:兄貴、予定通り売っちゃいましょうよ。

木村心の声
ほら来た。

小林:…そうだな…。
タケ:そうっすよ。
小林:こいつ売って高飛びでもするか…
タケ:そうしましょう。
小林:どこがいいかな。
タケ:あったかい所がいいっすね~

木村心の声
おお…来てる来てる、来てるよ。

鈴木:やっぱりそうなると…

木村心の声
来い来い、グアム…

小林・タケ:…沖縄!
木村:外れた〜!沖縄は選択肢に無かったわ〜!海外じゃねーし。
小林:(前に乗り出して)あ?何だてめえ
木村:あ、ヤバい、ヤバいヤバい。ヤバいヤバいヤバい。
小林:おい、お前、俺たちの話し聞いてんだろ。
タケ:テメェ、聞いてんじゃねぇぞ、殺すぞこら!
木村:それはないです、それはない、本当に絶対ないです。聞こえないですもん。このタクシー、後ろの話しは運転席に聞こえない作りになってるんですよ。聞こえないんですよ。
タケ:ああ?そんなタクシーあんのかよ?
木村:最新型のタクシーなんです、お客様のプライバシーを守る為に、後ろの声は全く聞こえない作りでございます。本当です。
タケ:オメェ、本当か、それ?
木村:はい、本当です。後ろの話しなんてまるで何も聞こえません。
タケ:お前、今度余計なこと喋ったらマジで殺すからな!
小林:おい、落ち着け、タケ!今の俺たちはそれどころじゃねぇ。
タケ:すいません。
小林:まぁいい…おい、運転手、とにかく喋るなお前。黙って運転してろ。
木村:はい、すみません。

木村心の声
危なかった~、危なかった〜、乗り切った〜!しかしよく後ろの声が聞こえませんで乗り切ったなぁ…いや、そんなわけないじゃん。だって会話してんだから。後ろの声が聞こえなかったら会話出来てねぇだろ(笑)

木村:こいつら本当バカで助かった〜。
タケ:何だとコラ!
木村:やった、またやっちゃったよ…何してんだ俺は。
タケ:てめぇ誰がバカで良かっただ?聞いてんのか!?
木村:はい。
タケ:誰がバカで良かったんだ!?
木村:俺です、俺がバカで良かったです。
タケ:ああ?
木村:俺、バカで良かったです!俺、バカで良かった〜!俺はバカで良かった〜!
タケ:おい、お前大丈夫か?
木村:大丈夫です!俺はバカです、俺はバカ、俺は世界一のバカ、でもバカで良かった〜!バカで良かったです!
タケ:何言ってんだお前…(小声で)兄貴、こいつヤバい奴ですよ多分。
小林:あぁ…タケ、もう関わるのやめとけ。
タケ:はい。おい、おい。
木村:はい。
タケ:次喋ったら東京湾に沈めるからな。
小林:いいんですか?ありがとうございます!
タケ:何だお前…

木村心の声
乗り切った…勢いでとにかく誤魔化す戦法で乗り切った…今のはやばかった…ついつい声出して喋っちゃうなぁ…もう本当気を付けよう。マジで気を付けよう。よし、とにかく、気を取り直して次の予想に入ろう。まだ懲りないって言うね(笑)…えっと…さすがに沖縄は海外じゃないってことに気付くだろうから、改めて考え直すと…うんうん。そうだな…どこだろ…高飛びって…タイとかかな。よく東南アジア聞くもんな、そういうの。物価安いし、ホテルは沢山ある、メシはうまい、凄いショーも毎晩やってるらしいし、しばらく身を隠して遊んで暮らすとしたら高飛びに持ってこいなんだろな…うん。

小林:やっぱり高飛びは沖縄で決まりだな。

木村心の声
覆らず!覆らずです…

タケ:そうっすね…俺、実は海外初めてなんすよ。
小林:本当か?パスポートは持ってんのかタケ?
タケ:ジャーン!(パスポート見せる)実はちょっと前に使うかもしれないから作っておけって組長に言われて。
小林:そうか…じゃあすぐ沖縄行けるな。
タケ:はい。

木村心の声
時が止まってんの、この人達?それ40年前の話しよ。

小林:沖縄行ったら楽しいぞ~タケ。
タケ:そうなんすか?海外行ったこと無いんでわかんないっすよ。
小林:いいかタケ、沖縄は何といっても近いんだよ、日本から。

木村心の声
日本です。国内です。

タケ:へぇ~
小林:飛行機で2時間半だ。
タケ:え?ということは…ママチャリで琵琶湖一周するくらいっすかね?

木村心の声
そうなの?ママチャリで琵琶湖一周って2時間半なの?

小林:でよ、沖縄にはな、ならではの美味い食いもんが沢山あるんだよ。
タケ:へぇ~
小林:トムヤンクンてのがあってな。

木村心の声
タイ料理です。

タケ:トモヤ君?

木村の心の声
耳も悪いんですね。

小林:寿司とか焼肉とか、自分の好きなもん棒にぶっ刺してよぉ、溶けたチーズに付けて食うんだけど、これが辛いのなんの。

木村の心の声
ん〜、謎の食べ物。

小林:あと、でっかい映画館があってな、毎晩のようにサーカスのショーが観れるんだよ。
タケ:あ、それ知ってます、テレビで観ました!筋肉隆々の男と女が、モップで床を叩いて楽器みたいに音出して、飛び箱飛んで猛獣と戦うやつですよね。

木村心の声
逆に見たい。すっごい観たいよ、それ。

小林:タケ、楽しみだな。
タケ:楽しみですね~

木村心の声
言葉になんねぇよ…馬鹿すぎて、ただ、最高のコンビであることには間違いない。もういいや、次、最後の予想にしよう。最後はもう1回バシっと当てるぞ。まぁ言っても、こういう計画は大体上手くいかないもんなんだよな、うん。てことは、そろそろ組長が動き出している頃だから、そうだな…後ろを見ると黒い車が追い掛けてきている…組の車だと気付く…振り切ろうと逃げるが追い付かれて、黒い車に横付けされて、銃で撃たれて…The End。…ちょっと恐い予想しちゃったな…なんかもっとハッピーな予想にしようかな…

タケ:(後ろを何となくみる)あ!兄貴!
小林:タケ、どうした?
タケ:後ろの黒い車…
小林:何?(後ろを確認する)あ、あれは組長の車!
タケ:もう追いかけてきましたよ!兄貴!
小林:クソっ!こんなに早く来んのかよ。

木村心の声
マジっかよ!当たってんじゃん!

タケ:兄貴!
小林:おい、もっとスピード出せ!
木村:あぁ、はい。
タケ:殺されちまう(ビビる)
小林:バカ!タケ、逃げ切るんだよ。
タケ:でも…
小林:あきらめんな!沖縄でパラダイスだよ、逃げきるぞ!
タケ:はい、おい、もっとスピード出せ!
木村:いや、出してるんですけど、もう限界なんです!
小林:何やってんだよ!
タケ:兄貴、もう横付けされそうです。
小林:クソっ!
タケ:拳銃向けてます!
小林:振り切れ!
木村:はい!

【パーン(銃声)】

木村:(撃たれて倒れる)

《暗転》

木村心の声
俺か…色んな意味で当たったなぁ…

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