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FANG+銘柄 CrowdStrike( $CRWD ) 2025Q3

今更決算分析シリーズ。今回は11月26日に発表されたCrowdStrikeのFY2025Q3決算を確認していく。

Trading Viewより。決算発表後に株価は下落


決算の内容とその後の株価の反応

決算内容を振り返る

まず、売上は前年同期比29%増の10億1,020万ドル。過去最高の四半期収益を記録した。サブスクリプション収益が収益全体の9割以上を占め、特に「Falcon Flex」という柔軟なサブスクリプションモデルが契約拡大を支えている。ただし、営業損益は赤字に転落。GAAPベースの純損失は1,682万ドルで、これは7月のシステム障害対応費用が大きな影響を及ぼした。

例えば、日本企業に置き換えると、クラウド型の会計システムを提供する企業が、アップデートの不具合で顧客の業務が止まり、信用回復のために大規模なサポート体制を整えた結果、コストが膨らんだ状況を想像するとわかりやすい。


株価が下落した理由

決算発表翌日、株価は約5%下落。主な理由は2つ。

  1. 第4四半期のガイダンスが市場予想を下回った CrowdStrikeは、第4四半期の調整後1株当たり利益(EPS)を0.84〜0.86ドルと予想。一方、アナリスト予想の中央値は0.87ドルだった。この差は微妙だけど、「期待を裏切った」という心理が株価下落を招いた。

  2. 年間経常収益(ARR)の調整 特定の契約が再発見込めないと判断され、ARRから約2,600万ドルを除外(連邦政府向けの取引に関するディストリビューターからの通知によるもの。ARRからは除外されているがスナップショットのRevenueには反映)。この決定は、「成長鈍化への懸念」として受け止められた。

決算資料より作成

投資家が注目するポイント

投資家にとって、次の四半期の焦点は「障害後の回復状況」。顧客契約の更新率や、Falcon Flexを活用したアップセルの進展(顧客あたりの採用モジュール数の増加)が重要だ。また、Adaptive Shieldなどの買収がどれだけ新規顧客を引きつけるかもカギになる。

例えば、大手ECサイトが障害を乗り越えた後、物流やサポート体制を強化して新規顧客を増やした事例を考えると、CrowdStrikeの取り組みの意図が見えてくる。


2025年度第3四半期(Q3 FY25)の決算結果

決算ハイライト

四半期の業績

  1. ARR (年間経常収益)

    • 40億ドル突破: CrowdStrikeは純粋なサイバーセキュリティソフトウェア企業として、この収益規模に最速で到達。前年同期比27%増加。

    • 契約増加: Q3で150件以上のFalcon Flex契約を締結。総契約額は6億ドル超。

  2. 収益とフリーキャッシュフロー

    • 総収益: 10億ドルを突破し、前年同期比29%増加。サブスクリプション収益は31%増加の9億6,270万ドル。

    • フリーキャッシュフロー: 2億3,060万ドル (収益の23%) を達成。

  3. 顧客動向

    • モジュール採用数増加: 顧客の平均モジュール採用数が9個以上。8個以上を利用する顧客は全体の20%に到達。顧客のアップセルの兆候

Ending ARRは順調に成長。一方で前年同期比の成長率(y/y)は鈍化傾向
Total Reveueは増加するも、FCF Marginは減少傾向

※3四半期前と比較しても採用モジュール数は増加傾向

3Q25決算資料(今回) 
4Q24決算資料

主な戦略と成果

Falcon Flex: 革新的なサブスクリプションモデル

  • 契約の拡大: Falcon Flex採用顧客の総契約額は13億ドルに達し、平均契約価値が通常の数倍に。

  • 契約期間の延長: 契約期間が延び、収益の安定性を強化。

  • ROIの実現: 顧客はリアルタイムで成果を確認でき、投資対効果 (ROI) を最大化。

具体例

  • Fortune 500 旅行業界のリーダー:

    • CCP (顧客コミットメントパッケージ) *を通じて15百万ドル以上の支出増加。利用モジュールを8個から14個に拡張。

    • 新たに「クラウドセキュリティ」「データ保護」「ファイアウォール管理」などを採用。

  • Global 2000 テクノロジー製造業者:

    • Falcon Flexを通じてEDR、Next-Gen SIEM、脅威インテリジェンスなどを導入。従来の4つの競合製品を置き換える形で契約。

*CCPについて
2024年7月に発生したシステム障害により、一部の顧客が影響を受けました。これを受けて、CrowdStrikeは顧客との関係を強化し、信頼を回復するために「顧客コミットメントパッケージ(CCP)」を提供しました。このパッケージは、影響を受けた顧客に対し、追加の製品やサービス、または「フレックス・ドル」と呼ばれる柔軟に利用可能なクレジットを提供するものでした。米国株.com
CCPの導入により、多くの顧客が契約期間の延長ではなく、追加のモジュールを選択する傾向が見られました。これは、顧客がCrowdStrikeの製品やサービスに対して強いコミットメントを持ち、関係を深めていることを示しています。Investing Japan
このように、CCPは顧客満足度の向上と関係強化に成功し、CrowdStrikeの業績回復に寄与しました。しかし、短期的にはARR(年間経常収益)に対して約6,000万ドルの逆風となる可能性が指摘されています。Investing Japan
全体として、CCPは顧客との信頼関係を再構築し、長期的な成長を支える重要な施策となっています。

技術革新

  1. Adaptive Shield の買収

    • SaaSセキュリティ姿勢管理 (SSPM) を追加し、クラウドセキュリティをさらに強化。CRMやクラウドバックアップなど150以上の統合を実現。

  2. Charlotte AI の進化

    • AI駆動のエージェント型AIを活用し、レポート作成の時間を4日から1時間に短縮。

    • SOC (セキュリティオペレーションセンター) の効率化を推進。

  3. Next-Gen SIEM (セキュリティ情報イベント管理)

    • ARRは前年比150%以上成長。新規顧客として主要医療プロバイダーが8桁規模の契約を締結。

    • Fusion SOARで毎週3,000万以上のセキュリティワークフローを処理。


チャレンジと対応

2024年7月のサービス停止事案

  • 課題: セールスサイクルが15%延長*、既存顧客からの収益拡大が一時的に鈍化。

  • 対応: CCPを導入し、顧客の信頼を回復。Q3中に発生した契約の大半を既に完了。

*セールスサイクル
セールスサイクルが15%延長するというのは、製品やサービスの販売プロセス全体が通常よりも15%長くなることを指す。例えば、通常60日かかる商談が69日かかるようになるイメージだ。
2024年7月のサービス停止事案が原因で、顧客は製品の信頼性やサポート体制に対する懸念を抱き、購入決定前により慎重な検討を行うようになった。その結果、各ステップでの確認や承認に時間がかかり、全体のセールスサイクルが延びたと考えられる。
セールスサイクルの延長は、売上のタイミングが遅れるだけでなく、競合他社に顧客を奪われるリスクも高まるため、企業にとっては早急に対応すべき課題となる。

顧客維持率

  • 97%以上を維持: 業界トップクラスの顧客維持率を記録。


グローバルな影響力

  1. Fal.Conイベントの成功

    • ラスベガスとアムステルダムでの開催により、パートナーと顧客の結束を強化。60か国以上から参加者を集め、顧客基盤を拡大。

  2. パートナーシップの強化

    • AWSやFortinetとの提携を強化し、中小企業市場でも成長を加速。


今後の展望

  1. 成長再加速:

    • FY2026後半からARR成長を再加速する計画。Falcon Flexによる顧客採用数の拡大とモジュール採用率の向上を目指す。

  2. 長期目標:

    • ARR 100億ドル: FY2031までに達成予定。

    • フリーキャッシュフロー比率 34〜38%: FY2029までに実現。

直近ではARRの成長率は鈍化傾向にあり、これがFY2026後半からまた盛り上がりを見せられるかが注目ポイント


決算での質疑応答

質問1: セキュリティ支出のトレンド

質問者: Saket Kalia
質問内容: 来年のセキュリティ支出の見通しについて、顧客からの声を踏まえた考えを教えてほしい。

ジョージ・カーツの回答:

  • セキュリティ環境の現状: ランサムウェアやサイバー犯罪が引き続き増加しており、顧客は高度なセキュリティ製品を求めている。

  • 顧客ニーズの具体例:

    • 複雑なセキュリティツールを統合し、コストを削減したい。

    • シンプルで効果的なプラットフォームを重視している。

  • 将来の見通し: サイバー攻撃の増加や規制強化により、セキュリティ投資の継続が予想される。


質問2: Q4のARR(年間経常収益)の見通し

質問者: Hamza Fodderwala
質問内容: 例年通り、予算余剰がQ4のARRを押し上げる効果は期待できるか?

バート・ポドベアの回答:

  • 重要な影響要因:

    1. 7月のシステム障害後、一時的にアウトバウンドセールス活動が停止していた。

    2. 顧客の意思決定プロセスが複雑化し、セールスサイクルが長期化している。

    3. CCP(顧客コミットメントパッケージ)がアップセルを抑制している。

  • 全体的な見方: Q4も例年通りの「予算余剰」効果が発生するかは不透明。ただし、FY2026後半からのARR再加速が期待される。


質問3: 顧客の継続利用と採用率向上の要因

質問者: Brian Essex
質問内容: 顧客がプラットフォームを継続利用する理由と、採用率向上に影響を与えている要素は?

ジョージ・カーツの回答:

  • 信頼構築: 7月の障害に迅速かつ透明性のある対応を行い、顧客の信頼を獲得。

  • 契約更新の傾向: MSP(マネージドサービスプロバイダー)の小規模顧客では解約が見られるが、大規模顧客の契約更新は安定している。


質問4: Falcon Flexとエージェント型AI

質問者: Patrick Colville
質問内容: Falcon Flexの採用状況と、Charlotte AIなどのエージェント型AIがどのように役立っているか?

ジョージ・カーツの回答:

  • Falcon Flexの効果:

    • 新しい機能や買収製品(例: Adaptive Shield)を即時利用できるため、顧客にとって使い勝手が良い。

  • Charlotte AIの進化:

    • 顧客の作業効率を劇的に改善(例: レポート作成時間を4日から1時間に短縮)。

    • SOC(セキュリティオペレーションセンター)の自動化を進め、労力を削減。


質問5: Q4での改善要因と課題

質問者: Tal Liani
質問内容: Q3に比べて、Q4の結果は改善が期待できるか?

バート・ポドベアの回答:

  • 改善が期待される点: 7月の障害から時間が経過し、セールス活動が正常化する可能性。

  • 残る課題:

    1. 長期化するセールスサイクル。

    2. CCPによる短期的なARRへの悪影響。

    3. 顧客がCCPのモジュール追加と契約延長どちらを選ぶか、予測が難しい。


質問6: Falcon Flexが顧客維持率を高めるか

質問者: Andrew Nowinski
質問内容: Falcon Flexは顧客の離脱を防ぎ、維持率向上につながるか?

ジョージ・カーツの回答:

  • 維持率向上の要因:

    • モジュールの採用が増えるほど、プラットフォームの利用継続率が高まる。

  • 具体例: Adaptive Shield導入の際、多くの顧客が即時利用を希望するなど、追加モジュールの採用意欲が高い。


質問7: Next-Gen SIEMの競争力

質問者: Matt Hedberg
質問内容: Next-Gen SIEMの市場での競争優位性と顧客が切り替える理由は?

ジョージ・カーツの回答:

  • 競争優位性:

    • スピード、スケーラビリティ、コスト効率が他社製品を圧倒。

  • 切り替えの理由:

    • レガシーSIEMでは得られない即時的なデータ処理と付加価値。

    • Charlotte AIを活用したワークフローの効率化。


質問8: Falcon Flexの契約期間とARR再加速への影響

質問者: Gabriela Borges
質問内容: Falcon Flexの契約期間延長とARRに対する影響について教えてほしい。

バート・ポドベアの回答:

  • 契約期間の延長: Flex契約は通常より長期間で、ARRへの寄与が大きい。

  • アップセルの可能性: 平均で9モジュールを採用するFlex顧客が多く、継続的なアップセルが見込まれる。


用語解説

決算用語

Revenue (収益)
企業が製品やサービスを販売して得た総収入。トップラインと呼ばれることもあり、企業の成長を測る基本的な指標。

Subscription Revenue (サブスクリプション収益)
定期契約に基づく収益。CrowdStrikeのようなSaaS企業では主な収益源。

Professional Services Revenue (プロフェッショナルサービス収益)
顧客への導入支援やカスタマイズサービスなど、製品販売以外の収益。

Gross Margin (粗利益率)
収益から製品やサービスの直接的なコストを差し引いた金額の割合。製品の収益性を示す指標。計算式は以下:
Gross Margin (%) = (Revenue - Cost of Goods Sold) / Revenue × 100

Operating Income (営業利益)
企業の本業の収益から運営費用を差し引いた利益。ビジネスの効率性を測る指標。

Net Income (純利益)
最終的な利益。収益から全ての費用(税金、利息、特別損益など)を差し引いた金額。ボトムラインと呼ばれる。

GAAP (Generally Accepted Accounting Principles/一般会計原則)
会計報告のためのルールセット。企業が収益や費用を計上する際の基準を提供する。

Non-GAAP (非GAAP)
GAAP基準に従わない、調整された会計指標。企業が一時的な要因(例: 買収関連コスト)を除外し、より本質的な業績を示すために使用する。

EPS (Earnings Per Share/一株当たり利益)
純利益を発行済株式数で割った値。株式投資家が企業の収益力を評価するための重要な指標。

Free Cash Flow (フリーキャッシュフロー)
企業の事業活動から生じたキャッシュ(営業キャッシュフロー)から、設備投資などの支出を差し引いた額。実際に利用可能な資金を示す。

RPO (Remaining Performance Obligations/未履行の業務義務)
将来的に顧客契約から得られる予定の収益の合計。サブスクリプション契約の収益予測を表す。

Deferred Revenue (繰延収益)
前払いされた収益で、まだサービスが提供されていない部分。将来的に収益として計上される。

ARR (Annual Recurring Revenue/年間経常収益)
1年間にわたって定期的に発生する収益の予測。サブスクリプション型ビジネスに特化した重要な指標。

Net Retention Rate (ネット継続率)
既存顧客からの収益が時間とともにどの程度成長または減少しているかを測る指標。アップセルや解約の影響を含む。

Gross Retention Rate (総継続率)
既存顧客が契約を更新する割合。解約率を含まず、顧客の忠誠度を測る。

Operating Expenses (営業費用)
企業の運営に必要な費用の総額。R&D(研究開発費)、Sales and Marketing(販売およびマーケティング費)、G&A(一般管理費)などが含まれる。

Cost of Goods Sold (COGS/売上原価)
製品やサービスを提供するために直接かかった費用。粗利益を計算する基礎となる。

Rule of 40 (ルール・オブ・40)
成長率(収益成長率)と利益率(営業利益率)の合計が40%を超えることが理想とされるSaaS企業評価の目安。

Guidance (ガイダンス)
企業が次の四半期や年度に向けた収益や利益の見通しを発表すること。投資家が将来の業績を予測するための指標。

Share-Based Compensation (株式報酬)
従業員に提供される株式やストックオプションの形での報酬。GAAPでは費用として計上される。


CrowdStrike関連

ARR (Annual Recurring Revenue/年間経常収益)
定期的な収益を年間ベースで計算した指標。サブスクリプション型ビジネスにおいて、契約更新や新規契約の増減を通じて収益の安定性を評価するために使われる。

CCP (Customer Commitment Package/顧客コミットメントパッケージ)
顧客が製品やサービスを利用しやすくするための特別なパッケージ。通常は価格の割引、追加モジュールの利用権、柔軟な支払い条件が含まれる。

Falcon Flex
CrowdStrikeが提供する柔軟なサブスクリプションモデル。このプランでは、顧客が必要な時に必要なモジュールを選びやすく、コスト効率も高い。

SIEM (Security Information and Event Management/セキュリティ情報・イベント管理)
企業内のセキュリティデータを収集、分析し、潜在的な脅威や異常を検知するためのシステム。従来型(レガシー)と次世代型(Next-Gen)に分けられる。

SOC (Security Operations Center/セキュリティオペレーションセンター)
企業のセキュリティを24時間監視する部門や施設。脅威を特定し、迅速に対応する役割を持つ。

Charlotte AI
CrowdStrikeのAIツール。データ分析や自動化を通じてセキュリティ業務を効率化する。例えば、セキュリティインシデントの調査を迅速化する。

GenAI (Generative AI/生成AI)
人間が作成したデータを基に、新しいデータやコンテンツを生成する人工知能技術。Charlotte AIのようなツールに組み込まれ、業務自動化に活用されている。

July 19 Incident (2024年7月の事案)
CrowdStrikeで発生したサービス停止事案。この影響でセールス活動が一時的に停止し、営業プロセスに遅れが生じた。

Adaptive Shield
CrowdStrikeが買収したSaaSセキュリティ管理ツール。クラウドサービスやSaaSアプリケーションのセキュリティを強化する。

Upsell (アップセル)
既存顧客に対して、より高価な商品や追加サービスを購入してもらう営業手法。

Module (モジュール)
Falconプラットフォーム上の個別機能やサービスの単位。顧客が必要に応じて選択可能。


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