音の無い世界
今ある物の大切さに気付けないのは、人の業であり人の性なのだと思いますが、とはいえそれらを意識するのとしないのとでは、生き方が180度変わると考えています。
こんな突拍子もない事を何故言うつもりになったかと言うと、混雑する駅のホームで、視覚に障害を持っているであろう方が棒を突いて歩いているのを見て、大学のサークルでスキー場に行った時の事をふと思い出したからです。
私は有難いことに五体満足で生まれて、身体的な不自由はほとんど経験せずに生きてきました。なので普段使いこなしている身体機能を意識することは殆どありません。
眼は見えるし、耳は聞こえる、手は動くし、脚はしっかりしている。
大学のサークルでスキー場に行った時の話に戻します。
福島県の猪苗代にあるスキー場に行ったのですが、リフトで上がると、背後に猪苗代湖が見えるような絶景でした。一面白い世界に、青い湖が輝いていたのを覚えています。
リフトから降りて旋回すると、白い地平線の向こうが青い空に続いているような景色が飛び込んできました。要は斜面なので、手前からだと道がないように見えるわけですね。
スタートラインに行こうと歩き出した瞬間、風が止みました。偶然そのタイミングで人が自分しか居なくなり、数秒間だけ全くの無音の時間が訪れました。
すると何が起こったかというと、目の前の景色との距離感が全くわからなくなりました。
真っ白な景色が影響して、空間の境界が認知出来なくなるのです。
そうなると胸の底から恐怖心が湧き上がってきます。慌てて地平線の先へ歩き出すと、斜面には観光客が楽しそうにスノボやスキーをしていました。心底安心したのを覚えています。
いちいち今ある物の大切さを確かめていたら疲れてしまいますが、たまに気にして生きていくのは大切なんじゃないかと思うきっかけになりました。
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