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月刊クマガイズム#3

富士山見たくね?

僕らはいつもそうやって近所の牛丼屋に行くみたいなノリで遠出していた。ターゲットは明け方の富士山、それも赤富士だ。文字通りそれは赤い富士山、実言うとクマガイと赤富士を狙ったのはこの時が初めてではない。あ、言い忘れていたが、これは2019年とか20年とかそのくらいの時の話である。

大学生の頃、同じようなノリでクマガイと山中湖の赤富士を見に行った時にはあまり赤く染まらなかった。いや、1回目は。1回目と言うのがポイントで、僕らは予想よりも赤く染まらない富士山に落胆し、帰ろうとしたのだ。すると隣で同じように富士山を見ていた初老の男性がボソッと一言こう言った。

富士山は二度焼ける…

どう言うことだってばよ?おじさん、富士山は二度焼けるってのは、、、?おじさんは見てればわかると言わんばかりに富士山の方に顎をクイっと動かした。暫くすると、一度赤みを失った富士山の山肌が、みるみる赤く染まり、僕らが求めていた赤富士となったのだ。

そんな赤富士をもう一度見たいと立ち上がった僕たちは深夜に溝の口にあるニッポンレンタカーに集合した、カメラ機材を持って。当時クマガイは免許を持っていなかったので、僕が車を借りたのだが、ここで起こる失態。

「いらっしゃいませ〜」
「予約の稲田です」
「免許証を〜」

流れるように進める手続き、一刻も早く富士山の麓に行きたい。何回車を借りたと思っているんだ、こんなやりとり不要だろ!俺は常連だぞ!という思いを胸にテキパキと進めていく。だがしかし!悲劇は起こった。

お客様〜免許の期限が昨日切れております

Holly shit
この世に神はいないのかメーン?普段HIP HOPなど聴かないがこの日だけは頭の中にいかつい兄ちゃんが降臨した。え、気まず、、、そういえばポストになんか入ってたわ、あれが更新ハガキか。

お店を出るとそこには意気揚々としたクマガイが待っていた。ごめん。免許切れてたわ。クマガイは何が起こったのかわからなくてもの凄い間抜けな顔をしていた。想像してみてほしい、大きめのリュックを背負ったの大の男二人が、終電間際の駅前で呆然と立ち尽くす様を。

どうしようね?走ってく?とかいう生ぬるい風みたいなボケしかできない僕を他所にクマガイは指をパチンと鳴らしてこう言った。「いるわ」ん?誰が?と聞くころには電話をかけ始めたクマガイ、電話が終わって一言「よし、一人ピックしたから電車乗ろう」

何やらミュージシャン仲間に電話したら車を出してくれると言うのだ。そしてあと1時間くらいでお酒が抜けるらしい。てか、行くとこ分かってんのか?山梨だぞ?真夜中にその男の家に行くと、彼はドラムの機材だらけの部屋で寝ていた。そう、多田涼馬という男との最初の出会いだ。

なんか知らんがすぐに意気投合し、山中湖へ向かった。

赤く染まる空と水面に写るリョーマ
あまり焼けなかったけど、謎のチャイニーズたちが泳いでいた。

やけに光が綺麗だったのを覚えている。

帰りはほったらかし温泉とサーキット場に寄った。二人とも車が好きなんだ。


山梨は嘘みたいに夏が青かった。

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