義務教育の先へ
この春、友人の息子さんが新社会人になった。
息子さんには会ったことがないのだが度々話を聞いていたので、彼の門出に私も感慨深かった。
IT企業に就職したとのこと。新卒とは思えないスペシャルな技術力を買われ、難しいミッションを行う任務についたらしい。
かっこよ。
「オール在宅ワークなのよ。出社しないってどうなんだろって思ったけど、そういう会社を選んで希望通りの働き方が叶ったってことらしいの」
自分で選んだんだね。
かっこよ。
「こんな日がくるとは想像できなかった」
彼女はそう何度も言っていた。
長い間、息子さんは学校へ行かなかったから。
小学校低学年の頃は自治体の適応教室へ通っていた時もあったとのこと。その後、パソコンに興味を持ち、中学3年間はほとんど自宅で過ごした。
高校へも進学しなかった。
独学でプログラミングなど習得していったという。将来の不安はもちろんあったけど、やっとこの頃、吹っ切れたのだと友人は言っていた。
だって長い義務教育が終わったのだから。
そして学費の代わりと最新のパソコンや機器を揃えて息子さんの自室の環境を整えたのだそう。
そんなある日、事態が変わった。
突然、高校受験をすると息子さんが言い出したのだ。多様な情報科学を学べる大学を見つけ、どうしてもそこで学びたくなったということらしい。大学入学のためにはまずは高校卒業しなければと考えたとのこと。
そして次の春、高校に合格した。
同級生よりも1年遅れの入学だ。
友人は嬉しいよりも不安だったと言っていた。高校浪人はまだまだ珍しい。しかも何年も学校というものに通っていない息子さん。
だけど、彼は毎日通った。
大学を目指すというモチベーションが彼をここまで変化させたようだ。志が同じ仲間との時間も新鮮だったらしい。
そして目標の大学に合格した。
そこで思いっきり最先端の学問に触れて、持ち前のスキルと合わせメキメキと力をつけ、卒業とともに理想の仕事に就けたというわけだ。
「ついこの間まで通学していたことが信じられないくらい、また家から全く出ない生活なのよ」
友人はそう愚痴りながらも楽しそうだ。
義務教育の先。
子どもたちはどれくらい知っているだろうか。
高校も大学も義務はない。
行っても行かなくてもいい。
作家、アーティスト、職人、研究家、農業、漁業、何でも選択できるということ。大学で専門的なことを学んだり、専門学校へ行ったりもできる。好きなことや興味があることに没頭できる環境があるかもしれない。
しかも義務教育で求められていたオールラウンダーはもう必要ない。他者と違うもの、特化したものが力になると思う。
義務教育の先は広いってこと。
友人は、あの時の諦めと投資が今に繋がったとも言っていた。
進学を諦めて、学費の代わりとパソコン機器に投資したこと。
今やトレーダーのような部屋になってるらしい。そして、その築き上げた部屋の真ん中で難しい仕事をこなしている息子さん。
たまたまとか、結果論とか、そういう見方もできるのかもしれない。でも人生に必要なものが必要なときにやってくるような気がしてならない。
「結局、学費とトレーダー室よ。息子には投資したわ」という友人の嬉しそうな愚痴も大好物っす。笑
息子さん、就職おめでとう。
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