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【深読みフリーレン】人はいつか必ず死ぬのに、なぜ生きるのか

アニメ『葬送のフリーレン』が好きです。

「バンダイチャンネル公式」のXより

【※注意】がっつりネタバレです

アニメの2話目。

戦災で両親を亡くした少女フェルンは自死しようとしていました。

そこに、勇者ヒンメル・戦士アイゼン・魔法使いフリーレンと一緒に魔王討伐の旅をした僧侶ハイターが現れ、こう言います。

いま死ぬのはもったいないと思いますよ。
もうずいぶん前になりますか。古くからの友人を亡くしましてね…
私とは違ってひたすらに真っすぐで、困っている人を決して見捨てないような人間でした。
私ではなく彼が生き残っていれば、多くの者を救えたはずです。
私は彼とは違うので、おとなしく余生を過ごそうと思っていたのですが…
あるときふと気がついてしまいまして…
私がこのまま死んだら彼から学んだ勇気や意志や友情や大切な思い出まで、この世からなくなってしまうのではないかと。
あなたの中にも大切な思い出があるとすれば、死ぬのはもったいないと思います。

アニメ『葬送のフリーレン』2話


フェルンは両親との思い出を思い出し、踏みとどまりました。

その後フェルンは独学で魔法の修行をはじめ、魔法使いとして一人前になることを目指します。


フリーレンは勇者ヒンメルが天国へ旅立ったあと、魔法収集の旅を続けていました。

その途中、近くまで来たからということでハイターの元を訪れると、ハイターからのお願い事を聞き、しばらく滞在することに。

そしてその合間で、フェルンに魔法を教えることになります。

目標は「一番岩を魔法で打ち抜くこと」。
これができたら一人前の魔法使いになったと胸を張って言える目標です。


数年が経ったある日、ハイターが倒れます。

フリーレン:「フェルン、修行は中止だ。ハイターが倒れた。そばにいてやってくれ」

フェルン:「まだ一番岩を打ち抜けておりません」

フリーレン:「それはいずれ必ずできることだ。いまは…」

フェルン:「いずれではダメなのです!いずれでは、ハイター様が死んでしまう…」

以下、フェルンの言葉です。

私はあの方に命を救われました。
ハイター様はずっと、私を置いて死ぬことを危惧しておりました。
あの方は正しいことをしたのです。
救ったことを後悔してほしくない。
魔法使いでもなんでもいい。
ひとりで生きていく術を身につけることが、私の恩返しなのです。

救ってよかったと。
もう大丈夫だと。
そう思って欲しいのです。



ここからは僕の解釈です。


他者の死を自分の死以上に思うこと

フェルンはハイターに「あのとき助けてよかった」と思って欲しい一心で、一人前の魔法使いになるために血のにじむような努力をした。

ハイターはいつ死ぬかわからない。だから、ハイターが生きているうちに、それを成し遂げることが最大の目標だった。

人生をかけて、命をかけて、その目標のために毎日を生きた。

毎日全力で修行をした。

まるで、自分が死を迎えるまでにやり遂げなければならないことのように。
いや、それ以上に思っているようにも感じる。

他者の死を、自分の死以上に思っている。

それはフェルンがハイターに「生かされた」と、心から感じているからなのではないだろうか。


フェルンは、ハイターの命が尽きる前に、一人前の自分の姿を見せなければならないと思った。

そうしなければハイターに「あのとき助けてよかった」と思ってもらえないと思った。

このリアルで、物質的現実で、言葉を交わし、触れ合い、五感を通じて。

実感をともなわなければ成し遂げたことにはならないと信じていた。

だからこそ、短期間で著しく成長した。


人間はほんとうにすごい

人間の成長速度はエルフに比べたらとてつもなく速い、という話も本作には出てくる。

その理由は2つあると僕は思う。

ひとつは、有限の時間に自覚を持っていること。
自分の人生はほんの一瞬で終わってしまうのだと、あっけなく終わってしまうのだと、他者の死を通じて悟るときが必ず来るから。

もうひとつは、他者の中に自分を見る力を持っていること。
逆でもいい。自分の中に他者を見る力を持っていること。

大切な人の死が目前に迫っていると思うから。大切な人と約束したから。
自分もそうだと悟るから。
だから人は、短期間で大きな力を手にする。
大きく成長する。

永遠に生きる生命があるのだとしたら、彼らにはできないことを僕たちは当たり前のこととしてやってのけている。


自分ではなく他者のために

他者のために自分の才能を開花させる人。
他者がいるから力が発揮できる。

人はみんなそうなのかもしれない。

他者がいるからこそ、生きることに意味が生まれる。


ハイターが、フェルンに生きる意味を持たせた。

ハイターの死の期限が、フェルンの才能を引き出した。

フェルンが生きることを選択したことで、ハイターの生きているうちに一人前の魔法使いになったことで、ハイターの死は大きな意味を持った。

もしフェルンが間に合わなければ、もしハイターがもっと生きたなら。

フェルンは魔法使いにならなかったかもしれないし、フリーレンと旅に出ることもなかった。

フェルンが好きな「くだらないものを集めているときのフリーレンの笑顔」に出会うこともなかった。


人はいつ死ぬのか

人の死は、人に生きる意味を与える。

ハイターとの喜びの思い出が、フェルンの中の喜びとなっている。

これからも、その喜びを追体験しながらフェルンは生きていく。

ハイターは、死んだあともフェルンの中で生き続けている。

ハイターの存在が、フェルンの記憶に強く強く刻まれたことで、フェルンはあのときの喜びを、生きる意味を、約束を、忘れることなく生きてゆく。


あなたが生きた証が、誰かの中に刻まれているのなら、その人が生き続ける限りあなたは生き続ける。


漫画『ワンピース』でドクターヒルルクが言った言葉

よう…人はいつ死ぬと思う?
人に、忘れられた時さ

が思い出される。



「身近な人・大切な人だけではない」

僕はそう思う。


あなたの生と死は、命の使い方は、僕にも関係がある。
僕の生と死は、命の使い方は、あなたにも関係がある。


この宇宙に「関係のない人」なんていない。

あなたの生と死と、僕の生と死は、これからも相互作用し続ける。


他者を知ろうとすること。
他者とのことを記憶すること。

「私」を表現すること。
「私」を伝えること。

そこには大きな意味がある。


そして、僕にも、あなたにも、果たすべき約束がきっとある。

いまは忘れてしまっている、あの日あの時に交わした

「忘れられない約束」

が必ずある。


あのときの「約束」を果たすためにいま生きている


そう思う。


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