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完全SIer脱出"しない"マニュアル

SIerをやめてWEB系に転職するブームに一言申したい。SIerにもモダンな開発環境で幸せにコーディングできる環境は存在すると。そして、2017年の自分に「あの時の選択は間違っていなかった」と伝えるためにこのブログを書くことにした。

申し遅れたが、私は新卒で某SIerに入社し8年間現職で働いてる。入社してから数年はSESの現場で、所謂、「Excel方眼紙」「答えの出ないの会議」の世界の住人だった。現職なので、これ以上のことを述べるのはやめておこう。誤解を恐れず申し上げるとSIerはクソではないがSESは滅びた方が良いと思っている。

さて、今回このテーマでブログを書くに至った動機を紹介したいと思う。前からずっと読みたいと思っていた「完全SIer脱出マニュアル」を読了したことだ。

同書は、攻撃力満載のタイトルとは裏腹に、「自身に向き合い、一歩を住みだすための具体的な手段」が書かれている良書であった。今回は、2017年当時の私がその世界から抜け出すためにとった行動を同書に合わせて振り返ってみようと思う。

この話に向かない人

・会社の給与や人事制度に不満がある
・会社がSES以外の業態で事業を行っていない
・部署を異動する制度がない

もうおわかりだと思うが、私は、部署異動することでSESの現場から脱出し、プロダクト開発を行う部署に移った。なので、そもそも会社自体に不満があったり、SES以外の事業を行っていない会社に所属されている人には参考にならない話である。どうして、異動を志したのか、何が不満だったのかは月並みではあるが、「技術的な仕事がしたかった」、「メンターとなる先輩がいなかった」の2点だけ記載して置きたいと思う。あくまで現職なので、disは控えておきたい。以下、同書の章立てにあわせて振り返っていきたいと思う。

第1章 なぜ「エンジニア」はSIerを去るのか

第1章では就職前の学生が思い描くIT企業での仕事と、SIerでの仕事のミスマッチについて書かれている。先進的なIT技術を駆使して価値を提供できると思っていたが、実際にはプログラムなどせずExcel方眼紙と長時間にらめっこ。思い描いていた仕事と実際の仕事のギャップがあまりにも大きく、また、ロールモデルとなる先輩もいない。このような状況に置かれたエンジニアがSIerを去っていく。

私自身は非情報系の大学院卒で、就職活動時はリーマンショックと震災のダブルアタックを受け、超買い手市場。非常に苦しい就職活動であった。自身の専攻が確固たる専門分野を持たない複合分野であったこともあり、企業側からしても余裕が無いと採用できない非コア領域の人材であった。例年であれば大手メーカーなどに卒業生を送り込んできた研究室であったが、同期は全員苦戦していた。メーカーが採用数を絞る中、比較的門戸を広く採用していたSIerに流れていったという状況であった。私も、メーカー志望から、SIerに手を広げ、ようやく現職に採用をもらった。

プログラミングの経験は多少あれど、専門性は低い。そのようなこともあり、自社では金融系のSES案件に配属となった。なかなかタフなプロジェクトであったが、規模が大きかったこともあり、自社の技術の専門部隊がアサインされており、その人達の活躍は素晴らしいものであった。ロールモデルとまでは考えていなかったが、「自社にも技術のスペシャリストはいるんだ」ということがわかった。

第2章 自分の環境を変えるための前提知識

本章では、SIerから転職して楽しく働きたいと考えている読者に対して、自身の置かれた環境を正しく理解するために「仕事」「成長」「IT企業」「ベンチャー企業」「エンジニア」「転職」の6つの用語を客観的に定義している。IT企業については、SIerとWEB系を対立軸として契約形態や使用技術などを対比させ、メリット・デメリットを記載しているが、多少、WEB系にバイアスがかかった内容となっている。(まあ、そうゆうテーマの書籍なので仕方がない。)しかし、バイアスを感じながらも、「転職は手段であり、目的(やりたいことを楽しく実施できる環境に移る)を達成するためには、今の職場に残り続ける可能性を残しつつ、転職するという選択肢を大きく扱っている点には非常に好感が持てた。

本章で一番刺さった言葉は、まとめに書かれていた下記の一節である。 

"自分を取り巻く状況が年々変化する以上、転職を一度もせずに一生楽しく働き続けるのは難しい。”                    

私は、現在転職したいという気持ちはまったくない。しかし逆説的に「新卒から定年まで1つの会社で働き続けるのか」という問いには答えることができない。もちろん、自らが楽しいと思える仕事が現職になくなった場合、当然、転職という選択肢は考えるであろう。ただ、それ以上に、現業以外の企業文化や価値観、多様性を味わってみたいと言う気持ちがある。何事も経験せずに、終えてしまうのはもったいない。ただ、そのタイミングが今ではないということだ。

転職は家族で考える問題

2017年当時、私は既婚ですでに子供が1人状況であった。転職するとなると私個人の問題ではない。妻や子供にとっては経済的な影響は大きく、「楽しく働くために転職したい」では通じない。同書にはベンチャー企業は怖くないと書かれているが、やはり現職に比べリスクはあると当時は感じていた。また、社内では幾許か技術的な領域を担当させてもらってはいたが、技術を武器にベンチャーを渡り歩くほど実力がないことは自覚していた。しかし、一般的な市場において自身の評価はどの程度なのか、知っておきたいと考えた。

そこで私がとった行動は、「転職活動と社内異動の両睨み」である。まずは、転職エージェントに登録し、その道のプロに自身の市場での診断してもらう、そして、並行して社内で自分のやりたいことができる部署に異動を試みるという動きをとった。

第3章 完全SIer脱出マニュアル

同書の主題が書かれた章である。7つのステップで転職前の準備から転職活動、内定先を選ぶまでの具体的なアドバイスが書かれている。ステップ0がいきなり「精神を病みそうなら今すぐ会社を辞める」なのは、話題を引くための項立てだとは思うが、書かれている内容は「できる限りやめないで転職活動する」ことを推奨している。以下ステップ1~7のうち、自分と重なったステップ3おとび5について深堀りして記載して行きたいと思う。また、話の便宜上、ステップ5の話を先にさせていただきたいと思う。

ステップ5は、「転職を見据えた会社選びをする」である。狙っている転職先の業種や規模に合わせて転職エージェントや転職支援サービスを使い分けるということが書かれている。先述通り、私は転職エージェントに登録したのだが、それには下記のような思惑があったからだ。

・自分の市場価値を測りたい
・技術的にマッチする企業があるか知りたい
・自分の職務経歴を振り返る機会がほしい
・自分の中の潜在的な価値観を理解して置きたい
・何が何でも転職したいというよりもいいところがあればという軽い気持ち

エージェントとの面談前に、職務経歴書や自分の価値観をレータチャートで示した資料(給与と職務内容と労働時間の優先度付のようなもの)を作成した。面談では、はやり相手はその道のプロである、何が何でも転職したいというような気概が無いことを見抜かれた。持ち合わせた資料からも、給与や人事というような会社に対する不満よりも、スキル育成や労働時間等の環境に対する不満が多く、別に転職するまでもないことは明らかであった。

それを踏まえた上で、ステップ3は「会社にいながら自分の環境を変えられないか考える」を考えてみる。SESの現場の経験から、自社にも技術のスペシャリスト集団がいることはわかっていた。また、よくよく調べてみると、そのような部署は複数存在しており、社内公募も出しているではないか。ありがたいことに自社には、仲介組織を経由して公募を出している部署にコンタクトをとり面談を受ける仕組みがある。もちろん、直属の上司に知られることない。その制度を使用して、見事に現部署への異動が決まったのである。

転職活動が社内公募で役になった話

ここでは、社内公募の面談で転職活動時の職務経歴書が役になった話をしたい。職務経歴書は、自身の行ってきたことを振り返り、スキルや経験を文章化したものである。作成当初は転職も視野に入れていたため、自分のアピールポイントやキャリアプランを熟考した。おそらく単なる社内の異動ではここまで考えることはなかったであろう。加えて面談時には相手に刺さりそうな話として、異動先の部署が提供する製品に対して少々批判的な意見を用意した。面接や面談は、する側がされる側を一方的に評価する場になりがちである。面談する側に対して逆質問的に考えさせることで印象を残すことができるかもしれないと考えた。ただしこれはどのような場面でも通用することではないと思う。

・アピールポイント(異動先の部署が自分を異動させるメリット)
 異動先の部署が提供するアプリケーションフレームワークの利用実績と顧客要件において拡張を行った経験、改善提案を合わせて話す。
・キャリアプラン
 技術力をコアスキルとしたエンジニアとして活躍したい。そのためにやってきたこと、今後の見通し。そして、なぜ今の部署ではキャリア形成が難しいと判断したのか。
・相手に刺さりそうな話
 異動先の部署が提供する製品(GUIベースでアプリケーションを組むことができる製品)を使うことで現場の実装力がさらに低下しないか。SESの現場におけるプロパーの実装力不足を背景として話したあとで。

第4章 転職したその先のキャリア

本章では、業種、職種、ポジション、労働形態などについての解説が中心である。その解説をもとに読書に自身のキャリアを考えてもらうための章であると理解した。

自分自身、異動後の環境は控えめに言って最高である。モダンな開発環境、CIのある世界、単体テストばかりか画面からの自動テストも複数バージョンの製品に対して自動で流れている。隣の席には、全社的にも有名なエンジニア(異動前から社内共通基盤のAuthorとして知っていた)。トップアーキテクト、リモートワーク。リモートチーム。挙げればきりがない。

このような環境下で、自分自身はどのような価値を提供できるのか常日頃から考えるようにしている。単純な技術力は及ばなくても、なにかできることはあるはずである。社外で収集した情報を部署に展開する。社内で勉強会を開くなど。少しづつ、できることから貢献してきたいと考えている。

第5章 一生楽しく働くために

最終章では、キャリア選択の幅を広げるための3つの武器が提言されている。「スキルセットのユニークさ」「目立った実績」「つながりを広げる」である。

残念なことに自分自身は、まだどれも特筆すべきではない。特につながりを広げるはまだようやく第一歩といったところ。せっかく踏み出したのだから歩みは留めないで行こうと思う。技術的なスキルは、現在従事しているアーキテクチャ更改案件を糧に強化して行きたいと考えている。

最後に

冒頭に記載したとおり、「SIerをやめてWEB系に転職するブーム」については、思うところがある。もちろん、SESで心身ともに疲弊し、思考を停止させそのまま年をとっていくことは望ましくない。ただ、一定規模のあるSIerであれば、数年のキャリアではおそらくほんの数%の人としか関わることができない。数%、それで自社の評価を決めてしまうのはいささか早計ではないだろうか。

完全SIer脱出マニュアルは、単に転職を煽る本ではない。むしろ、この本を読むことで自分自身を見つめ直し、自社でやっていく決意を固める。そのような読まれ方があってもよいと思う。

この文章が、SIerから転職を検討している人に対して、道は転職だけではなく、選択肢は広がっているということを伝える一助になればと思っている。

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