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No-GIとGI:変わる?変わらない?

ブラジリアン柔術には、NO-GIと呼ばれる道衣を着ずに短パンとTシャツで行うカテゴリーがあります。GI、つまり、道衣ありと違って、襟や袖など道衣を掴まれることがないので、動きが拘束されず、展開が早く、膠着しにくいです。そういう意味で観ていて面白い。桜庭和志選手が主催するQUINTETという大会は道衣無し、打撃なしのルールで行い、競技をしないひとが観ても面白いと評判になりました(厳密に言うとQUINTETとNO-GIは少しルールが違います)。

NO-GIとGIの違い

私は、ほとんどGI、つまり、道衣ありでしか練習しないので、たまにNO-GIでやるとなかなか大変です。展開が早いので、たくさん動いて大変疲れます。でも、これはたまにしかやらないから単純に慣れていないだけかもしれません。

Coswig たちは、NO-GIとGIで、疲労度や使われるテクニックなどが異なるか、試合形式の練習(スパーリング)を行って検討しました(Coswig et al., 2018)。紫帯以上の中級者から上級者にNO-GIとGIでスパーリングをしてもらい、心肺機能を反映する心拍数、筋肉の疲労を反映する血中の乳酸濃度、活動比(どれくらい中断されるか)、握力、使われる技などを比較しました。

私の印象とは全く異なり、NO-GIとGIの差はほとんどありませんでした。心拍数も、血中乳酸濃度も、活動比もほとんど同じです。例えば、心拍数はNO-GI、GIとも、スパーリング中、最大心拍数の80%程度、およそ180回/分でした。かろうじて違いがあったのは握力ぐらいで、最大握力がGIで、NO-GIに比べ試合後の低下が大きくなりました。GIだと道衣を掴むのでグリップが疲れるんでしょうね。

活動比は、NO-GIが10:1、GIが8:1とNO-GIで高くなりました。とはいえ、他の競技ですと、柔道やレスリングで2:1(動いている時間が止まっている時間の2倍)、テコンドーだと1:8で、逆に止まっている時間の方が圧倒的に長くなります。テコンドーは審判が止めるんですね。一方、NO-GIはGIでも、ほとんど止まらないことがわかります。動いている時間が10倍とか8倍ですから。

技の違い

使われた技は、テイクダウン(立ち技)の成功率がわずかにNO-GIで高かっただけで、他には目立った違いはありませんでした。ただし、今回はパスガード、バックテイク、絞め技、関節技など、大まかな技の分類を行っただけでした。NO-GIとGIでは技術体系が異なります。技の分類を細かくしていくと、違いが見えてくるかもしれません。具体的には、絞め技に焦点を絞って分類をすると違いがあるかもしれません。道衣を使わない絞め(例えば裸絞めやギロチンチョーク)は、NO-GIでもGIでも可能ですが、道衣が邪魔にならないため、NO-GIの方がタイトに絞めることができます。

柔道やレスリングではかなり細かな分析が行われ、代表チームのレベルでは共有されているようです。柔術でも細かな分析ができるようになると、さらにいろいろわかってくるかもしれませんね。

まとめ

ともあれ、今回の研究から分かったように、必要な体力、疲労度、大まかな技術はNO-GIとGIで差はほとんどありません。そう言う意味では、2つのトレーニングを組織的に分ける必要はあまりないかもしれません。普段はGIしかやっていないひとも、試しにNO-GIをやってみると意外にスムーズにできるし、楽しいと思います。もちろんトップレベルや試合の調整となると話は違うと思いますが。

NO-GIは観ても面白いし、道衣がいらないのではじめやすい。東南アジアだと気候の関係もあってNO-GIの方が人気があります。アメリカやヨーロッパだと、総合格闘技との関連からか、日本よりNO-GIをやる人が多いように思います。アメリカだとレスリングの影響もありますね。道衣あり(GI)よりも始めやすい部分もあるので、興味がある人は近くの道場を覗いてみてください。


引用文献

Coswig, V. S., Bartel, C., & Del Vecchio, F. B. (2018). Brazilian Jiu-Jitsu matches induced similar physiological and technical-tactical responses in GI and NO-GI conditions. Archives of Budo, 14: 291-301.


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