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左組みと右組み:どっちが有利?

ブラジリアン柔術や柔道、レスリングなどの組技では組み手に左右があり、人によって異なります。さて、左と右でどちらの組み手が有利なのでしょうか?一般に右利きのひとは、右組み、つまり相手の襟を右手で掴む構えが多いです。左組みの人は少ないので、それが有利に働くと言われています。Carpe Diemの橋本知之選手もそのような発言をしていました。

柔道における左組みと右組み

Tirp達は、左組みと右組みでどちらの構えが有利になるか柔道の競技レベルを比較して調べました (Trip et al., 2014)。840人をオリンピック出場選手、全国大会出場選手、一般選手(誰でも参加できる大会の出場者)の3カテゴリーに分け、組み手の左右を比較しました。

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上の図に左組の割合を示しました。まず全体的に右組みが多いことがわかります(左組が50%より少ない)。ただし、一般選手と比べ、オリンピック出場選手ではおよそ2倍も左組みが多いことがわかります。一般選手で20%とオリンピック選手で37%ですから、かなりの差です。なお、日本の少し古いデータだと、全日本選手権出場選手で左組みと右組みが4:6、高校総体や全日本学生体重別選手権では半々でした(野瀬・今泉,1985)。人口の90%は右利きです。右利きは右組みになりやすいことを考えると、ハイレベルな競技者での左組み割合高さは驚くべきことです。

これらの結果はオリンピック、全日本選手権など競技レベルが上がるほど、左組みの割合が高いことは、左組みが競技の上で有利に働くことを示しています。北京オリンピックの金メダリストである石井慧選手も左組みが有利だとnoteで詳しく説明しています(下にリンクを貼っておきますが今は閲覧できないようです)。

なぜ左組みが有利なのか?

橋本選手も石井選手も左組みが少ないため、対戦相手は慣れた組み手で戦えず、有利になると説明しています。これは良くある説明で正しい部分もあるのですが、そこまで単純ではありません。

この説明が正しければ、どのスポーツでもトップレベルで左利きが多くなるはずです。しかしながら、テニスやバドミントンなど片手だけを使うスポーツで、その傾向が見られません(Loffing, Hagemann, & Strauss, 2012)。例えば、テニスの世界ランキング上位100位も上位10位も右利きが90%です。

また、慣れ不慣れは、トップレベルの競技ではあまり問題になりません。左組み同士での練習や試合も多く組まれるので、単純な慣れからくる有利不利なら解消されます。トップレベルの競技者のすさまじい練習量から考えるとすぐに理解できるでしょう。

現在、トップレベルのアスリートでの左右差については、脳の左右差や体の左右のコーディネーションなどいろいろな説明がなされていますが、十分に説得力のあるものはまだないのが現状です。とはいえ、組技で左組みが有利であることは柔道だけでなく、レスリング、総合格闘技でも示されています。事実としてはそれを受け入れて良いでしょう。

練習に活かそう!

左組みが有利であることをうまく戦略的に利用する方もいらっしゃいます。白帯の頃からこのように考えて練習をなさっていたのですね。頭が下がります。

引用文献

・Loffing, F., Hagemann, N., & Strauss, B. (2012). Left-handedness in professional and amateur tennis. PLoS One, 7(11), e49325.
・野瀬清喜・今泉哲雄. (1985). 柔道選手の組み方と一側優位性について: 等速性筋力による検討. 埼玉大学紀要. 教育学部. 教育科学 III, 34, 93-106.
・Tirp, J., Baker, J., Weigelt, M. & Schorer, J. (2014) Combat stance in judo – Laterality differences between and within competition levels, International Journal of Performance Analysis in Sport, 14, 217-224.


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