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ブラジルから世界へ:柔術コーチの海外移住事情

IBJJF(国際ブラジリアン柔術連盟)もカルフォルニアのアーバインにありますし、世界選手権も最近はロスアンゼルスで開催されています。「ブラジリアン」柔術という名前ながら、中心はアメリカに移りつつあります。

ブラジルからの移住

アメリカに中心が移っても、世界選手権などハイレベルな大会における入賞者はほとんどがブラジル出身です。これは多くの選手や指導者がブラジルからアメリカに移住していることを示しています。

シャピラはブラジル出身選手や指導者の移住について3つのタイプがあることを指摘しました(Schapira, 2019)。(1)すべて自分、(2)チーム主体、(3)国・団体の3つです。それぞれの背景に、ブラジリアン柔術ならでは事情があるのが興味深かったです。

すべて自分

移籍先、職業、ビザなどもろもろ自分すべてをこなし移住を決めることもできますが、一番のポイントは外国語力です。語学力が高いと、例えば、流暢な英語でインストラクションができるなら、それほど柔術の実力がなくとも指導者として移住ができます。シャピラの調査によれば茶帯のマスター世代でもチャンスがあり、アメリカで雇用主が比較的簡単に見つかるようです。逆に、柔術の実力があっても、英語力が十分でなければ、様々な困難を克服しすべて自分だけで移住の手続きを完了させるのは困難です。

チーム主体

チームとして戦略的に各地に道場を作り、アフィリエーションを設けたりするところがあります。そういうチームでは、チームで推薦して指導者を派遣するケースが見られます。例えば、アリアンシには、アフィリエーションの契約にも本部から指導者の派遣を条件にするなど組織として移住をサポートする体制があります。

チームとしてのサポートにはライネイジ(道場・指導者の系列)が関連するようでず。グレイシー系(グレイシー・バッハ、アリアンシなど)は、チームとして積極的に取り組んでいるようですが、非グレイシー系(GFT、ノヴァ・ウニオンなど)はそうではないようです。例えば、GFTは2018年にようやくアメリカ支部を作りました。シャピラによれば、これは元々の伝統とも関わるようで、グレイシー系はお金持ち相手の道場経営を、一方、GFTのようなファダ系はソーシャル・プロジェクトとしても道場を運営してきた経緯と関連するとのことでした。そもそもの成り立ちから違いがあり、グレイシーもファダもブラジルのリオデジャネイロに拠点をおいていた時期がありますが、グレイシーが裕福な南側の地域で道場を開いたのに対し、ファダは貧しい北側の地域に道場を開いたという具合でした。向いている方向がだいぶ違うのです。ファダは子供達に無料で教えていたと言う証言をいろいろなところで目にします。

このような違いは語学力にも関連します。お金持ちは教育も受けていることが多いので、語学力が高いひとが多い。貧しいとそうではない。海外からの接触も必然的に語学力が高い方に偏りがちです。結果として、グレイシー系列の道場からは海外に出て行きやすく、ファダ系列からは出て行きにくいということになりがちです。

国・団体

UAEはブラジリアン柔術を国民的なスポーツにすることに決定し、義務教育の中で柔術を行うなど積極的に指導者を受け入れています。こういう募集を通じ、海外に移住する指導者もいます。この場合は、黒帯であること、それを正規の連盟によって認められていることが必須です。ブラジルの場合、経済的な理由で、国際的な連盟から黒帯認定を受けていない人がいるので、実力や指導力があっても、移住ができないケースが出てくるそうです。ここでも比較的裕福なグレイシー系が有利になることが多いとのこととでした。どちらかと言えば貧しい方が、海外への移住のニーズが高いのでこれは皮肉なことになっています。

引用文献

・Schapira, R. (2019). (Im) mobilites of Brazilian Jiu-Jitsu Coaches from Rio de Janeiro's Periphery. TSANTSA–Journal of the Swiss Anthropological Association, 24, 115-120.

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