意識と量子力学 第1回 量子力学の誕生
物理学者が、物質から「意識」を考え始めるきっかけとなった量子力学の誕生から見ていこうと思います。
■ 量子力学の誕生
物理学のような自然科学では、もともと意識について論じられることはほとんどありませんでした。自然の法則に則り、定量関係を論ずる自然科学は、人文学に位置する意識を扱う手段が全くと言っていいほどなかったからです。実際、意識のような人文学のテーマは心理学での研究で求められることはあっても、自然科学において解明を期待されることもありませんでした。
ところが、19世紀が終わる1900年に、意識をめぐる議論の背景が形成されようとしていました。それはまず、プランク(Planck)が発表した黒体輻射理論で「エネルギー量子」が発見されたことから始まります[1]。これにより前期の量子力学が誕生します。そして、粒子は波の性質を合わせ持つことがルイ・ド・ブロイにより1924年に提案されました。これを受け1925年にはハイゼンベルグが行列力学を、翌年の1926年にはエルヴィン・シュレーディンガーが波動力学を発表しました。結局、行列力学と波動力学が同じであることがシュレーディンガーにより示され、ここに量子力学が確立されました[2, 3]。量子力学は、それまでの力学や電磁気で説明できなかった熱い物体が発する光の色の問題などを説明するために止むを得ず生まれた学問だったのです。
量子力学では、粒子には波の性質があり、その波を物質波と呼びます。シュレーディンガーが示した波動力学の波動方程式(シュレーディンガー方程式)には、波動関数と呼ばれる物質波の強さに相当する量があります。物質波は、粒子の周りにいろいろな波長の波で構成された束のように存在しているので、波束とも呼ばれます。当初、この波動関数の物理的な解釈は統一されていませんでしたが、ドイツの物理学者、マックス・ボルンによって、粒子が存在する確率として提案され、広く受け入れられるようになりました[2, 4]。量子力学の出現によって、原子や電子の性質がわかるようになり、化学の周期表の周期性についての意味なども本質的に理解されるようになりました。
次回は、「意識」の問題の発端となった量子力学の観測問題を見ていこうと思います。
■ 参考文献
[1] 朝永振一郎「量子力学 I」みすず書房 (1969年).
[2] 小出昭一郎「量子力学(1)」裳華房(1959年).
[3] P. A. M. Dirac, The Principles of Quantum Mechanics (4th ed. International series of monographs on physics, Oxford: Clarendon Press, 1958).
[4] 朝永振一郎「量子力学 II」みすず書房 (1997年).
よろしかったら次の回もご覧ください。
by Jaros
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