見出し画像

デザイン事務所のお客様(4)~官能展の巨大パネル編~

こんにちは。田舎のデザイン事務所で働くたまです。
今回はとても思い出に残っている制作物のお話です。

うちの事務所ではたくさんの制作物を扱っています。チラシやメニュー表、POPはもちろん、のぼり、横断幕、懸垂幕、看板、シール、カレンダー、食品パッケージ、そういえば顔出しパネルも作ったことがあります。
というのも代表が「断らない人」だから
お客様に「こういうものを作りたいんだけどできますか?」と聞かれたら「できます」と答えてしまう人なのです。

そしてある日の代表の言葉がこちら。
「ハレパネが大量に必要になるから注文しといて」

ハレパネというのは「発泡ボード」とか「スチレンボード」とか呼ばれるものの商品名で、厚みのある軽い板です。これに印刷物を張り付けてPOPとして使用したりします。
POPの制作のためにある程度の数は常備しているのですが、大量に必要になるというのはそれまで経験がありませんでした。

詳しく話を聞くと、写真教室の講師をしているカメラマンのIさんという方がいるのですが、その写真教室の皆さんで展覧会を開くことになったので、皆さんの写真を展示用のパネルにして納品してほしい、とのお話だったのです。
なるほど理解。

代表「ただねえ、ちょっと不安なのがねえ」
私「???」
代表「展覧会のタイトルが【官能展】なのよねえ」

ほほう……。
それはまたなんというか、どんな写真が送られてくるのか楽しみなような不安なような……。

その後、写真教室の生徒さんから続々と写真が届き始めました。
写真を見ると、「官能」というだけあって肌色多めな作品が多いのですが、レースやリボンを使ったメルヘンチックな作品もあり、はたまた畳と着物の和な作品もあり、なるほど人によって方向性は全く違うのだなあと感心しました。

さて、写真をパネルにするお仕事ですが、まずは大きさをお客様にお選びいただきます。
当然大きくなればなるほどお値段が高くなりますが、でもあまり小さいと展示しても寂しくなってしまうわけで、悩まれた結果だいたいA1サイズ(841×594mm)くらいを選択される方が多かったです。
大きさが決まると、事務所にある幅1110mmまで印刷できる大判プリンターで、写真を印刷します。そして印刷した写真を、大まかにカットしたハレパネに貼り付け、最後に指定のサイズに綺麗にカットして完成です。

一番難しいのがハレパネに貼り付ける作業。普段はA4サイズのPOPなんかを制作しているのでどってことないのですが、大きければ大きいほど難しくなります。端から丁寧に丁寧に、空気を抜きながら……。空気が入ってボコボコになったり、紙が変なところにくっついてしまったり、ヨレたりしてしまうと、それは失敗作。
失敗するとまた印刷からやり直しになるので、めちゃくちゃ凹みます。

さて展覧会には講師のカメラマンIさんも作品を展示するそうで、彼からこんなメールが届きました。

「B0サイズのパネル2枚作れますか? 迫力ある作品にしたくて、B0サイズ2枚をくっつけて、ひとつの写真になるように作りたいんだよね」

B0サイズ!!つまり1456×1030mm!!!

超BIGサイズ!しかも2枚くっつける!?
うーん、そりゃ物理的には可能だけど、B0サイズのものを綺麗に貼り付けられるだろうか。
空気を入れないようにするのも当然難しいのですが、パネルに対してちょっとでも紙が斜めになってしまったら、最終的にはめちゃくちゃズレてしまってパネルからはみ出してしまいます……。これは相当気をつけて貼り付けなくてはいけない。

できれば「できません」と断ってしまいたい。でもそこはうちの代表、断りません。「できます」って言っちゃいました。

B0のスチレンボードを仕入れ、Iさんから写真のデータが届くのを待ちました。どうやらなかなかアイデアがまとまらず、加工に時間がかかっているとのこと。
そしてようやくデータが届いたのは展覧会の3日前ほどでした。
急いで作らなくちゃ!ということで慌ただしくデータを開いた代表。

「わあ!!」
と叫んで固まる代表。
不審に思い後ろから覗き込む私。

そこには……全裸のマッチョがいました。

闇の中にたたずむ全裸のチョコレート色ムキムキマッチョ。
体は正面を向いていますが、顔は横向きで憂いを帯びた表情。
そして横からにゅっと出された女性の手。真っ赤なマニキュアが塗られたその手にはモデルガンが握られ、マッチョの局部を隠しています。

ううむこれは……官能……と言えば官能なのかな?
とりあえず全裸のマッチョのインパクトが強すぎて、とにかくマッチョ!筋肉!しか頭に入ってこない。

いやいや考えている暇はありません。急いで印刷します。B0サイズに。全裸のマッチョを。
そしてインクを乾かすために1日置きます。全裸のマッチョを床に広げて放置です。
そこから貼り付け作業。代表と私の共同作業で、細心の注意を払いながらパネルに貼り付けます。丁寧に丁寧に、全裸のマッチョを。

もうここまで来ると私も代表も変なテンションになってきました。
だって全裸のマッチョだもん。
これを搬入するのかあ……。クラフト紙でぐるぐるに梱包するけど、なんかの拍子で破れたらおもしろいだろうなあ……。

そして無事にB0サイズ2枚分の全裸のマッチョは完成しました。
何故かはよくわからないけど、史上最高の達成感がありました。代表と手を取り合って「私たちがんばったね!」と喜んだのを覚えています。

その翌日にIさんがパネルを受け取りに来て大喜びしたという話を代表から聞きました。残念ながら私はその場にいなかったのですが、確かに「迫力のある作品にしたい」というIさんの狙いはバッチリはまってたはず。
そして後から聞いたところによると官能展は大成功だったそうです。

役目を終えた全裸のマッチョはその後どうなったのか。今でもIさんちの倉庫に眠っているのか。
マッチョのその後はわかりませんが、またあんな楽しい仕事が来たらいいなあと思っています。

さて、謎のお仕事や変わったお客様が続々やって来るうちの事務所。次回はどのお話にしようか考え中です。(まだまだネタがあるのは喜んでいいのか……)
最後までお読みいただきありがとうございました。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?