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ぴえん超え諸行無常やグルーガン

金曜日、荒川由依(あらかわゆい)は高校に辿り着いた。今日も登校完了。インスタに投稿した「グルーガンの涙」もバズってて感無量。

あれは1週間前、YouTubeで見かけた、グルーガンによる涙型のホットボンドを「ぴえん」に見立てて顔につけるというメイクを試したところ、好評だった。そこから色々と試している。

今は熱々のガラスを水に一滴落として作る「オランダの涙」メイクにハマろうとしている。瞬時に冷えたガラスは、一直線の水滴のような塊となり、ハンマーで叩いても割れないと言う。あら、素敵じゃない。
オランダ侵略戦争についてダラダラと授業が進むのを横目に、17世紀にマシンガンがあったらどうなってたんだろうな。などと考えていた。ちなみにオランダの涙は、当時ガラスを作っていた材料がオランダ製であったことから名付けられている。

でも…。
荒川由依はロマンチストでもあった。
オランダ戦争で流れた涙が、その悲しみの程に硬く、そして両国の緊張の糸が切れたとき砕け散る。そんなストーリーがあれば、もっと愛せるのにな。そんな物思いにふけていた。事実、一直線に繋がった水滴の、柱の部分を切ると瞬時にオランダの涙は粉砕する。

グルーガン。マシンガン。キングガン。
キングガンの白目(シロメ)を昼休みに聴きながら、インスタを覗く。炎上していた。

グルーガンを肌に載せるのは危険!

そんなことわかってるわよ。でも映えの方が大事なの。そして私はもう次のステージよ。オランダの涙はただのガラス。危険なことないわ。そのように知らん顔であった。

ぴえん超えてぱおん。
女の涙には誰もが弱い。パパだって佐賀への旅費を出してくれた。映えのためなら私は偽物の涙を流すわ。帰宅し、象印のポットから紅茶を入れながら、今度はキングニューの白日(はくじつ)を聴いてみる。同じ時期にking gunとking gnuの白目と白日が存在するなんて、なんて偶然あるいは作為。この世にはユーモアのある人が沢山いるのね。

オランダの涙は硬くて割れない。仏蘭戦争で活躍したスパイの口も固かったのだろうか。どんなに痛めつけられても口を割らず自白しないスパイ。その努力が日の目を見ることはあったのだろうか。そんなことを考えていると、朝だった。

佐賀に行く。
今日も荒川由依は「あら、かわゆい」を求めて、映えを生業として生きている。

(この物語はフィクションとノンフィクションの狭間にあります)

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