はじめに(監修者のことば/本書について)
はじめに
東京2020パラリンピック競技大会がコロナ禍(か)で1年延期になり、2021年8月24日から9月5日に開催されました。日本人選手のすばらしい活躍を見て、パラスポーツに関心をもった人も多いのではないでしょうか。
最近は、障がい者のスポーツを「パラスポーツ」と呼んでいます。障がい者と言うと、どうしても障がいの部分に目がいき、「できないこと」を考えてしまいがちです。でも、だれにでも身体的な特徴や得意・不得意があるように、障がいも特徴や特性、個性だと捉えて、「何ができるか」のほうに目を向けてはどうでしょうか。パラスポーツを見ると、「だれにでも可能性がある」ことがよくわかります。
障がいとは、「目が見えない」「足が動かない」ことだけでなく、見えない、歩けないことから生まれる「不便さ」のこと。不便さはちょっと工夫すると解消できます。たとえば、バレーボールでは、中学生用のネットは高校生用より低くして、身長が低くても競技しやすくしています。体重別で行われる柔道などもあるように、さまざまなスポーツで体格や体力、年齢や性別、技術などの違いをカバーしてより多くの人が楽しめるように用具やルールが工夫されてきました。パラスポーツも同じです。「障がい者スポーツ」という特別なスポーツがあるわけでなく、プレイする上で不便な点を創意工夫によって障がいがあっても楽しめるようにしているだけです。
まずは、パラスポーツを見てください。どんな競技でもかまいません。「へ~、こんなこともできるんだ」ときっと気づくはずです。また、障がいのある人とできるだけ接してみてください。すると、ひと口に障がいと言っても、いろいろ違いがあることがよくわかると思います。そして、「どんな工夫をすれば、一緒に楽しめるかな」と考えてみる。思いめぐらす「想像力」と創り出す「創造力」という「2つのソウゾウリョク」を働かせること
が大切です。
スポーツ基本法にもパラスポーツへの参加を推進することが盛り込こまれました。かつては「障がい者のためのスポーツ」であったパラスポーツが、「障がいのある人も一緒に楽しめるスポーツ」=ユニバーサルスポーツへとその概念を変えつつ発展しています。
パラリンピックの父と言われるルードウィッヒ・グットマン博士(1899~1980年)は「失った機能を数えるな。残った機能を最大限に生かそう」と車いすを使っている兵士を力づけ、リハビリテーションにスポーツを取り入れ、その成果を競う大会をパラリンピックに発展させました。
2024年のパラリンピックパリ大会をきっかけに、その概念がさらに広がって、パラリンピックの理念である、多様性の尊重と共生社会が当たり前になって進んでいくことを願っています。
本書では、パラリンピックの基礎知識とパラリンピックにおいて行われている夏季大会22競技と冬季大会6競技の魅力と特徴を写真とイラストでわかりやすく解説しています。知れば知るほど楽しめるパラスポーツ事典になっています。ご活用いただければ幸いです。
髙橋 明
本書の構成について
本書は、図書委員の仕事でパラリンピックの展示を任された「いさむ」「きみこ」「つよし」「こころ」の四人の中学生が、パラスポーツの第一人者である「あきら先生」と話す場面から始まります。彼らといっしょに勉強していく構成のもと、パラリンピックの基礎知識や歴史から、パラリンピックで行われる28の競技のルールや見どころまで、わかりやすく解説していきます。