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溝口健二「近松物語('54大映)」DVD

溝口健二は「西鶴一代女」から始まる晩年の10年間、傑作を作り続けますが、おそらく一番有名な作品は「雨月物語」だと思います。しかしこれに勝るとも劣らない傑作が昭和29年の「近松物語」です。溝口のスタッフの1人が「なんと言っても『近松物語』あれは傑作です。完璧な作品だと思います」と言っているのを読んだことがあります。

近松門左衛門の人形浄瑠璃の演目に「大経師昔暦(だいきょうじむかしごよみ)」があります。これを原作に作家で大映重役でもあった川口松太郎が戯曲「おさん茂兵衛」を書きました。さらにこれを依田義賢が脚色し、溝口健二が監督しました。

大経師(幕府の用命で暦を作って専売する業者。宮中の経巻表装の仕事も行った。大経師は町人ながら苗字帯刀を許される身分)の店主の以春はその地位を鼻にかけ傲岸不遜の振る舞いをする男。

以春の若い妻・おさん(香川京子)は、冷え切った関係の夫ではなく手代の茂兵衛(長谷川一夫)を頼りますが、これが不義密通と誤解されて、おさんは川に身を投げて自殺することを決意。茂兵衛もあの世までお供しようとするのですが、いよいよ川に身を投げる段になり、茂兵衛はおさんに愛の告白をする。

思ってもなかった告白を受けたおさんは、「その言葉で私は死ねなくなりました」と茂兵衛に告げる。「私は貴方と共に生きたい!」今度は茂兵衛が驚き、2人は駆け落ちするのでした。

この告白の場面は溝口の演出もさることながら、香川京子と長谷川一夫の演技、宮川一夫のカメラともに最高の仕事で、ここから2人が役人に捕まって市中引き回しのうえ磔刑になるまでを一気呵成に見せます。引き回しの馬に背中合わせに乗せられた2人が後手を握り合うシーンが、この作品唯一のラブシーンです。

役者とスタッフを限界まで追い込んで、最高の演技、最高の撮影をする溝口映画の作り方は、この作品で頂点を極めます。昔、友人たちとこの映画を観たんですが、その中に女性が「これ、女の人が一番好きな映画ね」と言ったのを覚えています。


「近松物語('54大映)」
長谷川一夫 / 香川京子 / 溝口健二
定価: ¥ 4500

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