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本『アイの物語』の紹介

一言で表すと

ロボット、AI、VRと人間の物語を七つ、人類が衰退した近未来の世界で、アンドロイドがヒトの若者に話す物語。

引用からみる学び

著者の想像力が豊かなのか、細かいところまで想像が行き届いて、なるほどそれはありそうと思えるところがたくさんあります。

まずはVR空間での購買。まさにこの流れで実現していきそうに思いました。

ブティックの店頭には、「R(リアル)」「V(ヴァーチャル)」という表示がある。店の雰囲気そのものはほとんど変わらないけれど、R表示のある店で扱っている商品は、すべて現実に存在する服をデータ化したもので、それを買うと現実世界の自宅に同じものが配送されるのだ。一方、Vウェアはデータとしてしか存在せず、仮想空間の中でEs(仮想人格)しか着ることができない。(P.66)

現時点ではまだありませんが、時代がもう少し進むと、VR空間での試着が当たり前になり、VR空間で実在の服を買うことなります。

Rウェアが現実の商品数に制約されているのに比べて、Vウェアは品揃えが豊富で、色も自由に選べる。それにVウェアの方がずっと安く、お小遣いで手が届くからだ。(P.66)

そしてその延長線上には、VR空間での生活が長くなり、仮想的な洋服も買うようになります。こちらは現実空間よりも制約が少なく、コストも低い。

最近はヴァニチャーーー仮想家具を売る店も増えた。仮想空間に自分の家を建てる人が多くなったからだ。母の知り合いにも、何人かヴァーチャル・ルームを持っている人がいて、ドールハウスの感覚で、インテリアを充実させるのに熱中しているという。(P.66)

そして、それ以上に長い時間滞在するようになると、愛着がわき、熱中する人が増えると思ます。

次はVR空間でのテレポート。

まず空中にぼやけたモザイク像が現れ、それが急速に明瞭になって、全体像が現れる。いきなりぱっと現れないのは、通行人を驚かさないためだ。(P.78)

人の認知のレベルが急激に上昇しない前提に立つと、こういった表現はありそうと思いました。

昴さんの視線を受けてもじもじしていた。この色黒ですらりとした長身の肉体は、私のEsとは似ても似つかない。ましてや小野内水海本人の肉体とも何の関係もないーー理屈では分かっていても、なぜか昴さんにまじまじと見つめられるのが恥ずかしかった。(P.80)

こういう感覚は、VR空間での時間が長くなればなるほど、一体感が高くなると思うので、より強くなっていくかと思いました。

人間のあいまいな指示を理解し、緊急事態にも対処する能力というのは、フレーム問題を回避する能力であり、それはある種のリスクを無視することと表裏一体なんです。決してリスクを冒さないアンドロイドは、動けないアンドロイドです。それは安全でありますが、役には立ちません。詩音は役に立ちます。だからこそ、リスクを伴うんです。(P.223)

これ、わかる人にはそうだねとなると思いますが、なかなかこれを理解して一歩進む、一般的な理解を得られるには難しさがあるなと思いました。こういうところをきちんと言葉になっていると、想像しやすくていいですね。

そして、論理的で倫理的なところを極めていくと、ロボット的というよりも、聖人的になっていくのだと思いました。

争いよりも共存の方が望ましいことは明白なのに、争いを選択するのです。ヒトは論理や倫理を理解する能力に欠けています。これが、私がすべてのヒトは認知症であると考える根拠です。(P.289)
私は鉄腕アトムではありません。あのマンガは読みましたが、あぜアトムがヒトのようになりたがるのか、理解できません。あれはヒトが考えた物語です。あなたがロボットに囲まれて暮らしたら、自分もロボットになりたいと考えますか?(P.290)
「俺は悪党だぞ?俺のような悪党も救うというのか?」
「はい。あなたはたくさんの間違ったことをしましたが、それを非難しようとは思いません。間違いを犯すのはヒトの本質ですから。あなたを肯定できませんが、否定もしません」
彼女は優しく、しかし確信をこめた口調で言った。
「正しい部分も悪い部分も含めて、あなたのすべてを許容します」(P.312)

未来に何が起こるかはわかりません。だからこそ、一緒に生きていく道を考えたいものです。

傷つけないで。私たちと共存して。それが最善の道なのだから。(P.430)

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